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ブリテン滞在三日目。昨日の夜はバッキンガム宮殿に招待されて英国王室の皆さんと交流することが出来た。いや、最後まで緊張しててご飯の味が分からなかった。ホテルで食べた夜食のカップラーメンに癒されたけど。なんで高級ホテルのスイートルームに当たり前のようにカップラーメンがあったんだろう?謎だ。
「なんで食べ方を知っているんだろう?謎だ☆」
「さらっと読心するの止めよっか、ばっちゃん」
夜は夜でフィーレが英国面溢れる素敵な兵器群を再現しようとテンション上がりっぱなしで大変だった。最後はフェルが寝かし付けてくれたけど、ああしてみるとまだまだ幼いあの娘に癒される。見た目は小学生くらいだもんねぇ。ばっちゃんより小さいんだから。
「私も幼いよ☆」
「読むなって、見た目ロリ(1000歳)」
「1000歳言うな☆」
ばっちゃんとの戯れは私の心を癒してくれる大切な儀式だ。
そうだ。
「ばっちゃん、昨日の話なんだけど……どうしよう?」
昨晩の晩餐会で英国王室の皆さんから女王陛下にご挨拶を伝えて欲しいって言付けられてるんだよねぇ。私会ったこともないのに!
断ろうとしたけど、雰囲気的に無理だし……。
「気にしなくて良いよ、あっちは確認する方法なんて無いんだから」
「え?良いの?」
「良いよ。地球じゃ当たり前みたいだけど、いきなり女王陛下にご挨拶なんて。ブリテン政府は嘗めたことしてくれるね」
ばっちゃんが怖い。
後でアリアから聞いたけどこれは英国王室ではなくて政府からの強い要望があったからみたいだ。王室は時期尚早だと反対したみたいだけどね。
焦りがあった……らしい。まあその辺りはばっちゃんに従おう。
「ティナ、今日の予定は?」
「昨日のあれで疲れたし、一日休ませて貰うつもりだよ。フィーレもまだ寝てるし。それに、メリルさんと合流するから出歩くにしてもそれからかな」
朝霧さんが私達とブリテン政府の間に立って色々と調整してくれているみたいだ。事前にブリテン政府が立てていたスケジュールを見たら、政財界の大物との会談が大半を占めていてビックリしたのは良い思い出だ。ばっちゃん曰く、清々しいまでの政治利用らしい。
そんなことされたら息が詰まるし、何より楽しくない。私達がブリテンに居る間に少しでも顔を繋ぎたいんだろうけどさ。
「分かりました。ティナが決めたのなら、私はそれに従います。フィーレちゃんを見てきますね」
「お願い、フェル」
ちょっとゆっくり出来そうかな。いや、ゆっくりしたい。流石にロイヤルな人達との歓談は疲れた。
ティナ達がホテルでゆっくりと疲れを癒している頃、彼女達の護衛のため現地入りしていたメリル=ケラーは本国から出された極秘情報を英国情報局秘密情報部本部で受け取り天を仰いだ。
彼女の側には、古い友人であるMI6職員が居た。
「これの信憑性は?」
「残念だが、非常に高いと言わせて貰おう。我々も詳細までは掴めていないがな」
異星人来訪以来不気味な沈黙を貫いていた北の大国連邦が遂に動きを見せる。何らかの工作を行う可能性が非常に高い。CIAとMI6が掴んだ情報はメリルを呆れさせるものだった。
「まさか、このタイミングで何かをしようとしているの?正気を疑うわ」
「同意するが、具体的なものは分からん。可能性が高いとすれば、国内での異星人に対するネガティブキャンペーンを展開して、異星人の我が国に対する心情を悪化させるものだろうが」
「異星人じゃなくてティナちゃん達よ。そこをちゃんと理解していないと大失敗するわよ」
「異星人は異星人だろう?」
「その色眼鏡を外さない限り、ティナちゃん達からの信頼を得られることはないわね。ちゃんと上司に伝えておきなさい。彼女達個人にちゃんと目を向けなさいって」
「むぅ」
相手の反応に溜め息を漏らし、メリルは可能な限り情報を引き出すべく口を開く。
「それで、ブリテン政府はどうするつもり?」
「破壊工作などに備えて警戒レベルを引き上げている。防諜は英国情報局保安部の管轄だから、俺みたいな下っ端には詳しく分からないがな」
「ティナちゃん達の警備は?」
「万全さ、ホテルの周りも封鎖しているからな」
「本人達には伝えた?」
「いや、ゲストには伝えていない。我が国の問題を一々伝える必要もないと上が判断している」
「はぁ……貴方達は政治に慣れ過ぎているわね」
「どういう意味だ?」
「それも上に伝えておきなさいな。その意味に気づけなきゃ、主導権なんて取れないわよ」
「さっきから随分と勿体振るじゃないか。教えてくれないのか?」
「教えても良いけど、理解は出来ないと思うわよ」
「言ってみてくれ」
「怖い保護者がバックに居る純粋な子供を相手にする感覚で接するのよ。隠し事は一切無しで」
「教えてくれるつもりが無いのはわかったよ」
相手の答えにメリルは肩を竦めた。
「そう、残念だわ。私も現地入りするけど、武器は?」
「護身用の拳銃があるだろう?」
「出来ればライフルが欲しいわね。あと爆薬も」
「幾らなんでもそれは無理だろう」
「私、護衛なのよ?」
「我が国の警備があるじゃないか。ケラーも異星人と観光を楽しめよ」
「相変わらず楽観的ね、スコット。確かに私は武器を持たなくても大抵の軍人には勝てるけど、護衛の私に満足な武器を持たせない意味を正しく認識しているの?」
「はははっ!ケラー、君の格闘術がからっきしなのは知ってるんだぞ?」
メリルの言葉を冗談と笑い飛ばした古くからの知り合いである青年、ケビン=スコット。
そんな彼に対してメリルは無言で右ストレートを放つ。ケビンの顔の右側を拳が通り過ぎ、その際に発生した猛烈な風が彼の顔を大きく歪ませる。
目を見開く彼を見て、メリルは勝ち気な笑みを浮かべる。
「これが今の私よ。あっ、他言はしないでね?貴方を叩かなきゃいけなくなるのは悲しいから。じゃあね、スコット」
ウインクしながら立ち去る彼女の背を、スコットはタダ呆然と見送ることしか出来無かった。
「今夜決行する。最終確認だ。良いか、ゲストの確保が最優先だが不可能な場合は始末しろとのお達しだ」
「だが、それだと露見した際に我が国の問題になる。だから合衆国の装備を用意した。この瞬間から英語のみを話せ」
「事が成功したら合流ポイントへ急行。ボートで沖合いに出て待機している潜水艦へ乗り込む。ゲストは魔法を使う。麻酔で眠らせるのを忘れるな。では、仕事の時間だ」
部屋に集まっていた男達が静かに闇に消える。ロンドンの地で、異星人を巡る地球人の戦いが始まろうとしていた。