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「見つけました。やはり、そうでした。」
晴陽は鹿島に連絡をいれる。
「そうか。」
鹿島は思わず空を仰ぐ。
そうでなければいい。
この事件が鹿島の係に振られたときから
ずっと祈るような気持ちで
進捗を見守っていた。
この事件が魔のせいでなければ、
普通の猟奇殺人事件なら、いい。
でも魔のせいなら、
晴陽が、穣一族13代目当主として
動かなくてはならない。
こんなことになるなら、
自分が当主になるべきだった。
いや、晴陽の方が自分より
遥かに大きな力を持っている、
と言うことは知っている。
だけれども、それでも。
鹿島は深い後悔の念を滲ませる。
まだその時ではないと思っていた、
自分の読みの甘さが腹ただしい。
「では穣には俺から伝えておく。
1人では動くな。」
「・・了解。」
一拍の沈黙ののち、晴陽は答えて電話を切る。
一人で動くな。
その言葉の意味は
"一人では危険"。
当主である私にそう告げるということは
いよいよの刻が来たということ。
晴陽はハンカチに包んだ紅い一筋を手にする。
漂う妖気と人を憂鬱にさせる、
マイナスな空気が
晴陽にヒタヒタと忍び寄っている。
魔との闘い。
それはすでに何百年も前から続く、
果てしない闘い。
穣一族が唯一封印出来なかった、
過去の先祖の負の遺物。
いままで何人もの当主が魔と対峙し、
散っていった。
その強大な力と私は闘うのだ。
ユラリ。
晴陽の周囲の空気が動く。
少し茶色がかった瞳は
あの写真の少年と同じく紅く染まり、
漆黒のストレートのロングヘアは
まるで生き物のようにざわめいている。
透けるように白い肌は淡く桃色に染まり、
赤く濡れた唇からは
滔々と呪文が紡がれている。
晴陽が当主になるべく授かった力。
鹿島すら及ばない強大な力。
それは魔とも忍びともつかない闇の力を司る、
いわば陰陽道でいえば
陽の中の陰の気を自在に操る、
類まれなる才であった。