パジューンパジューン! ピンドドピンドド! チャッチャカチャー! チャッチャカチャー! フィーンフィーン!
けたましい電子音が鳴り響き、サイケデリックなピンクや黄緑の光がそこかしこで瞬くゲームセンター。この場所に時間の概念はない。中毒性のある刺激的な空間を提供している。
「キェーッ! キェーッ! キェーッ!」
格闘ゲームで惨敗したプレイヤーが甲高く叫んだ。このような猿めいた奇声を他の場所で上げれば、まず間違いなく国家権力の叱責を受けるだろうが、ここには鼓膜を刺激する音に溢れている。たかが人の声など雑音の一つでしかない。
「クキキィーッ!」
惨敗プレイヤーは対戦相手をリアルで威嚇しようとゲーム筐体を叩きつつ立ち上がり、ズンズンと反対側へと回る。
「……何?」
そこにいたのは少女だった。インクが滴るようなセンチュリー書体で「Skeleton Punch」と書かれた紫のキャップをかぶっており、首には大きなヘッドフォンをかけている。白インクがぶちまけられたような柄の黒Tシャツにショートパンツという挑発的な格好だ。
「ク、ク、ク、ク、ク、キエエーッ!」
惨敗プレイヤーは少女に負けたという屈辱から更に大きく発狂し、走り去っていった。
「……めんどくさ」
少女はぶっきらぼうにつぶやいた。
先の惨敗プレイヤーのように負けたからといって逆上してくる輩は少なくない。ただ彼らは根が陰湿なので直接暴力を振るうことはない。ひと睨みすれば大抵は退散する。
真に面倒なの輩というのはあの様な他人ではない。離れたくても離れられない程、身近にいる人間だ。そういった者たちから逃れる為に、少女はこの電子ドラッグ的空間に日夜足を運んでいる。
(帰りたくないな)
少女は筐体に突っ伏してポケットの中の小銭をスティックの横に置く。銀色なのは四枚、内一枚は穴が空いているため使えない。ここに入られるのはあと三回分だけだ。
「あの〜。対戦いいっすか〜?」
ふと、声をかけられる。金髪でピアスをしている派手めな格好の、いかにもな男。視線は少女の太ももに向けられていた。
少女は上半身を起こして無言の元に顎をしゃくる。男はその様子にイラついたようで乱暴な足取りで対極の筐体に向かった。
(めんどくさ)
少女は小銭をスリットに落とす。「ピシャーン! バトルアンローダー!」筐体がけたましい音を立てた。