「その気なってくれたんだ?」
「なってません!」
そうやって全力で否定されても、なんかもう照れてるようにしか思えなくなってきたんだけど。
てか、ホントにその気になってくれたんなら、脈あるかもしれないってことだよね?
オレそういう対象に思えるかもしれないってことだよね?
なのに、どうして?
なんでまだそんなに心を開いてくれないの?
「あっ!いらっしゃ~い!ちょっとごめんね。二人でこの後はゆっくり話して~」
美咲さんが他のお客さんに気付いてそっちに対応しに行った。
そして、カウンターで二人だけになった彼女に、そのまま続けて声をかける。
「あの時はもう少し素直だったのに。なんで今日はそんな否定的なの?」
オレと会えば会うほど、オレとそうなりたくないからなのか、頑なになっている彼女。
ずっと否定し続けられるのがちょっと切なくて素直に聞いてみる。
「職場で・・・まさか一緒だとは思わなかったから」
やっぱりそこが気になるってこと?
「何か問題?」
「問題でしょ」
「なんで?」
「そもそも私職場恋愛無理なのよね。あっ、恋愛じゃないか、例え恋愛もどきだとしても。職場で、あーいうのは基本困るわけ」
「あーいうのって?」
ちゃんと本心がわかるまではなかなかオレも引けない。
「だから・・ドキドキは欲しいとは言ったけど。職場でなら話は別。仕事は仕事でちゃんと集中したい」
なら・・・職場が一緒じゃなかったら大丈夫だってこと?
「オレは中途半端なことはしない。オレはちゃんと仕事出来る自信あるから」
だけど、どうやったって、そこは変えられない。
オレはあなたと同じ職場なのに意味があるから。
今のこの為に頑張って来たのに、そんなことでオレは動揺もしないし仕事はちゃんとやり遂げる。
「もうやめよ。ごめん。私がトキメキほしいとかつまらないこと言っちゃったから、あなたも巻きこんじゃったね」
なのに彼女はどんどん否定的になって、この関係を終わらせようとしている。
そんなことになってたまるか。
せっかくここまでこじつけられたのに。
オレがどれだけあなたを想ってるか知らないくせに。
オレがあなたの為にどれだけ今まで努力してきたか知らないくせに。
すべてはあなたを手に入れる為なのに。
「・・・嫌だって言ったら?」
絶対終わらせない。
「あなたも面倒なことしなくても誰かもういい人いるんじゃないの?会社でも相当モテてるって聞いたけど」
だけど、そんないらない情報はなぜか彼女にも伝わっていて。
「いくらモテてもオレがその気にならなければ意味ないし。オレもトキメキってやつには飢えてんだよね。だから条件は一致してる」
どれだけモテてもあなた以外は興味ない。
オレはあなたのトキメキが欲しいだけ。
あなたへトキメキを与えたいだけ。
あなたはオレのこと好きにならなくてもいい。
ただオレにドキドキしてくれるなら。
ただオレにトキメいてくれるなら。
「そんなモテるならいくらでも誰かいるでしょ。あなたとあたしとそもそも状況違うんだから」
だからあなたじゃなきゃ意味ないんだってば。
そっちこそ軽いノリかもしれないけど、オレは最初から真剣にあなたと向き合って振り向かせたくて必死なのに。
オレはただあなたの気紛れの思いつきに乗っかっただけ。
あなたと近づく単なる方法の一つなだけ。
「やめるなんて認めない。変わらず続ける」
もうあなたはここまでオレをその気にさせた。
今更オレももう引き返せない。
もうこうやってあなたと知り合ってしまったのに。
もうやめる選択なんてあるはずがない。
ここからはただあなたを手に入れるだけ。
「なん!で! 面倒なの嫌って言ってたんだからもういいでしょ」
「そういう面倒とは違うから」
「どう違うのよ」
「全然違う」
面倒なはずがない。
ようやく手に出来たチャンス。
あなたと近づきたくて仕方なくて。
どんなカタチでもオレはあなたと繋がっていたい。
あなたともうこうなってしまった以上もうやめるなんて考えられない。
「お互いトキメキだけで必要以上には望まない。楽しいことだけ共有出来るならそれで良くない?一番後腐れなくて面倒じゃないじゃん」
あなたがそれを望むなら。
あなたがオレにトキメいてくれるなら。
オレはそれだけでも充分だから。
「でも・・同じ職場で、しかも同じプロジェクトで仕事していかなきゃいけない。これからこんな関係続けたって面倒でしかないよ」
「なんで面倒だって思うの?」
「面倒・・・でしょ」
仕事だけの問題?
別に好きになっても好きにならなくても仕事にそこまで支障あるとも思えないけど。
それこそトキメキだけが望みなら仕事にも影響もないはずなのに。
「なんで?」
「なんで・・・って」
とにかく彼女の面倒だという気持ちを取り除きたい。
「年齢だってかなり違うってあの時はわからなかったから」
「だからそこは問題ないって言ったでしょ。何をそんなにこだわってるのかがわからない」
またか・・・。
そんなに年齢差が気になる?
オレはあなたがいいからそんなの気にしたこともないのに。
でもそれを気にしてるってことは、オレをそれなりにちゃんとした対象として考えてるのかもしれない。
ただドキドキさせられるだけなら年齢なんて関係ないでしょ。
オレには今お互いこの年齢でこうやってあなたと始められることに意味があると思ってる。
オレもちゃんとした大人になれて、仕事に対しても責任も自信もちゃんと持てる男になった。
あなたとのこれからを考えられる年齢にようやく追いつけた。
「私が言い出したことに、あなたが乗っかることないよ」
「もうそういう問題じゃないから」
だからもういい加減納得してよ。
オレに何を言ったところで、あなたへの気持ちが変わるはずないから。
「何それ・・・」
あなたをそこまで自信無くさせるのは何が原因?
仕事ではあんなにも自信もあって優秀なあなたなのに。
どうして恋愛になるとそんなにも後ろ向きになるの?
余計にそんなあなたをオレが変えたいと思ってしまう。
オレならきっと変えられる。
「会社で一度もう納得しただろ? 覚悟してって言ったの忘れた?」
あの時確かにオレに何かを感じたはず。
確実にあの時のあなたはオレを意識していた。
完全に嫌だと思える反応じゃなかった。
「それは・・覚えてるけど・・。無理やりあんな状況に追い込んで納得させたくせに・・・」
「まさか。自然な流れでしょ」
そりゃそうでしょ。
あなたがオレを意識するように納得させたくてしたことなんだから。
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