鈴原ちゃん何でこんな所に居たんだ?ここは3年の教室。用もない1年が歩いてるのはちょっとおかしな事だ。
そこまで考えて俺は、ああそっか。と思う。
鈴原ちゃんが投げた上履きは「間違って」俺の頭に当たった。つまり、俺以外の誰かに向かって投げたって事だよな。その俺以外の誰かをコッソリ覗きに来た。そういう事だろう。
いや待て。あの時俺の周りにいたのは、ナオと翔とコジだ。翔の話によると、ナオはこの戦法の使用を禁止されているらしいし、翔は事務所の圧力で暗黙のNGだ。って事は、鈴原ちゃんが好きなのって・・・。
俺はコジを見る。ワイシャツのボタンが一つ違いでズレているのに気付いた。今日は合ってるがよく左右違う靴下を履いている。常にだらしないし、空気読めない単なる馬鹿なのに・・・。
俺、コイツに負けてるのか?ショックだ。
泣きそうになりながらコジのワイシャツのボタンを直す。
「えっ!友也ナニ?俺脱がすの?」
「ボタンズレてんだよ。直すから動くなって」
「きゃーエッチ!」
「アホ」
頭を叩いて手早く直した。
「友也ー、暇なら入れよ」
昼休みにクラスの奴に呼ばれた。サッカーするのに1人足りないらしい。「おお」と答えて向かう。
「負けた方が勝った方にブリックパック1コな」
メンツを見てげんなりする。
「何だよ、向こうサッカー部いんじゃん。勝てねーよこんなん」
「サッカー部はキーパーやるんだよ。じゃなきゃ勝負にならんし」
成る程。それなら何とか互角だろうか。と頷く俺。
荒山がいるのなら、リンちゃんもギャラリーしてるかな?とコート脇を見ると、木陰で観ているリンちゃんを発見した。そしてその横に・・・。
鈴原ちゃんがいた。
あれ?コジいないのに、何で観てるんだろ。
「友也、始めるぞー」
「お、おう」
勝負は俺等の勝ちだった。勝利品のブリックパックは、コーヒーといちごミルクの2択で皆ブーブー言ってて笑った。俺は人気の無い方のイチゴを貰い、飲まずに机に置いといたら、いつの間にかコジに取られていた。
こんなしょうもない奴に劣るんだな、俺は。
「イチゴ好きなんだよ俺」
コジがそう言いながら俺の前で俺のイチゴミルクを飲む。
「・・・」
「あれ?怒った?」
「怒って無いけど、納得行かないなと思ってさ」
「納得?」
「まあいいよ。とりあえず、くれって言ってから飲め」
「おう」
そんな下らない話をしていると、また俺は視線を感じた。振り返ると、またまた鈴原ちゃんらしき影が見える。
俺は立ち上がって追いかけた。
「友也どこ行くの?」
「ちょっとそこまで」
教室を出て角を一つ曲がった所で鈴原ちゃんを捕まえた。
「待って鈴原ちゃん、逃げないで」
俺は鈴原ちゃんの左手を捕まえた。
「神野先輩・・・」
振り返った顔は赤くなってた。耳迄赤い。覗き見してたのがそんなに恥ずかしかったのか。
「あのさ、コジの事見てるんでしょ?俺連れて来てあげようか?」
「!」
一年なのに、三年の教室に来るのは勇気のいる事だろう。間違えられた縁もあってか、俺は手伝ってあげたい気分だった。頭に上履きを食らったその日から、鈴原ちゃんの事が気になりはじめ、彼女の事を応援して上げたいと、そんな風に思う様になっていた。相手があのコジなのは気に入らないが。
「ち、違うんです。私、その・・・」
「違う?」
俺が聞くと、ますます赤くなって俺の手を振り払う。
「あっ、ゴメンなさい。私、行きます。失礼しました」
そう言って走って行ってしまった。
彼女が去った後に何か落ちているのが見えた。拾ってみると、小さな白い貝殻のイヤリングだった。
・・・何だコレ。
「よう、元気か?土産だ」
いつもの溜り場で座っていると、休んでいたはずの翔が突如現れて奇妙なサブレを配り出す。
「授業終わってからの登校とは、重役っぷりを上げたな」
ナオが言いながらサブレを齧る。
翔はモデルをやってる。時々学校を休んでショーに出ている。行く度に何かしら土産をくれるが、今回は千葉だったのか、ピーナッツ味のサブレだ。
「留守の間何かあったか?」
「別にー」
いつもの様にくだらない話をしていると、2階の窓から数学の先生が顔を出してこっちを見た。翔を見つけて「あっ」という顔をしてすぐに引っ込んだ。
「んじゃ、逃げるわ」
翔が校庭の方に歩き出す。
「ういー」
「ほいよ」
残った俺等は手を振って見送る。
「相変わらず面倒臭い奴だな」
ナオが言った。
翔は歳上好きだ。今は先生らしい。妙な性癖?があり、今もそれをしている。
「好きな女に追い掛けられたい、ね」
「物理的に、ね」
わざと提出物を出さずに、取りに来る様にでも仕向けているんだろう。
「翔君は?」
息を切らせながらここまで急いで来たのであろう先生が聞いた。
「どっか行ったよ」
キーっとなりながら辺りを探しに走る先生。頑張って下さい。
先生を見送ると、ナオが俺に呼びかけた。
「友也、あのさ」
ナオの視線の先には、下校する生徒達の群れの中、こっちを見ている鈴原ちゃんの姿があった。
今も、コジはいないのにな。