テラーノベル
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注意⚠️軽めの流血シーンと嘔吐表現あり
ほかの注意事項は前置きを確認してください。
歩いて、歩いて、歩く。ただ、ひたすらにその道を歩く。先程まで、あんなにも綺麗な街中にいたと言うのに、城壁を抜けたらどうだろうか?草花1つ咲かず、干からびた、水ひとつない大地が姿を現した。そして、この先のずっと、ずっと向こう側には───。そう思うと私の手が小刻みに震え始めた。
ワープロを抜けた先、出迎えたのはその城を治めるものであった。この町の町長であるらしく、私は軍への援軍であることを伝えると、快く食料を私、裏口から戦場へ向かうように知らされた。…秘密軍隊である、というのは真実らしく、少なくともこの街で私達の存在を知るのは町長だけらしい。歓迎も、祝福もされない私たちはただ、その立派な城壁を超えた先に行くしかなかった。
1番怖かったのは、先輩が終始無言であったことだ。訓練中、鬱陶しいほどペラペラと喋る口は固く閉ざされ、手袋を何回もはめ直し、瞳には強い覚悟を宿していた。そんな状態で流石に私は声をかけることはできなかった。
ただ、ひたすらに。無言のまま静寂な道を歩んでいたら、突如爆音と共に銃声と砲撃の音が聞こえる。剣と剣がぶつけり会う金属音も聞こえてきて、まさに争っている途中なのだと悟る。ならば、急がないと。そう思い、駆け足になる私を無言で先輩は止め、こっそりと岩の裏へ移動したため、そのままついていく。
一言で言うなら絶望的な戦況だった。戦車で打つ砲撃がいとも簡単に交わされ、そして一撃で粉砕される。こちら側が剣なのに、あちら側は魔法を使い、不可視の一撃でバタバタと人が死んでいく。───人は、こんなにも簡単に死ぬのかやと。現実離れした空間を私はどこか観客のように見ていた。
「gsoはここで待ってて。私一人で充分だから。」
やっと、先輩が口を開けば、放った言葉は冗談のようなことだった。
「冗談ですよね?これは私の初任務でもあるんです。私にもやらせてください。」
「違う。初任務なのに、この難易度はおかしい。予想外のことが起きてるんだ。私一人で対処する。」
「…っ!1人より、2人の方が!!」
「まだgsoはお荷物だって言ってるんだ。静かにして。…ただの兵士だけじゃない。聖職者が来てるんだ。」
「…?だから、なんですか?」
「後で説明するから。そこで待ってて。」
「あ、ちょっと───。」
hn先輩は私の静止を振り切って行ってしまう。今こそ、訓練の成果の見せ所だというのに。私だって、戦えるのに。…ちゃんと、覚悟してきたのに。せっかく決めた覚悟が空振りしたような気がして、どうしようもなく居心地が悪い。けど、新人が予想外の動きをすればそれこそお荷物になってしまう。私は大人しく岩陰に隠れた。
───私は、いつもこの瞬間がたまらなく怖かった。私が、1歩足を前に進める度に昔のバディが私の足に絡みつく。…守りきれなかった後輩達が今も尚私に憎悪と罵声を浴びせてくる。分かってる。そんなことをする子達じゃないことくらい。だけど、なら、あの子達が死んだのはどうして?そして、私は誰に責任を求めればいいのか。──私じゃないなら誰なのだ、と。戦場での命は命として見てはいけない。さもないと自身が卑劣な人間であることを認めてしまうことになるから。
兵士の悲鳴と、爆撃音が私を現実へと引き戻す。過去の怨念はそれでも尚私の勇気を抉り出そうとするが、今だけは、どうでもいい。後輩を守る。ただ、それだけを考えなければならない。私は、目の前を睨みつける。爆撃による煙で、その姿を視認こそできないが、私はその存在を知っていた。
───聖職者。それは神様を信仰し、そして周りにその存在を知らしめるもの。あまりにも戦場に不釣り合いの存在ではあるが、私はその異常さと強さを知っている。だって、私もまた、神様からのギフトによって戦場へと向かっているのだから。蒼燿国のものたちは星神の進行度合いに応じて魔法や、呪いを授かっている。いわゆる、神の御加護というものだ。大抵、そういう奴らはイカれている。けど、神様に縋る気持ちもまた、私には理解できてしまう。
私は、無言で剣を抜く。私のギフトは白魔法だけだから、攻撃には活かせない。どちらかと言うと後ろから支援して、サポートするタイプだ。けれど、そんなことをしていたら前線に立つ勇気あるものが死んでいく。なら、私が戦えばいいのだ。それだけで、仲間が死ぬ可能性は減る。幸い、私のギフトのひとつに回復がある。自分だけを回復するならイメージは容易い。だから、私は───。
魔法を放つ一般兵を剣で薙ぎ払う。戦場に突如現れた者なんて不意打ち以外の何物でもない。そいつはまともな抵抗すらできずに死んでいく。即座に、全員が私への警戒レベルを極限にまで上げ、武器を構え、魔法を発動する。瞬時にその挙動を見切り、最小限のダメージで済むように立ち回り、食らってしまった怪我は瞬時に治す。もしかしたら、武器に毒を塗っている可能性があるため、身体中に回る前に治さなければならない。それで1度痛い目を見たことがあるのをよく覚えている。派手な魔法を交わし、地を蹴って空を裂き、確実に殺していく。血しぶきを上げて、バッタバッタと味方が死んでいくというのに、彼らは物怖じせずに突っ込んでくる。…神というものは恐ろしいもので、自身の命を神へと捧げるものもいるほどらしい。それはなんのために生きているんだよ、とツッコミを入れつつも、動きを止めることなく殺していく。
その瞬間、戦場に強い衝撃波が放たれる。言葉に形容しがたいそれは私の体を簡単に上空へと吹き飛ばす。ほかの味方たちも同時に吹き飛ばされ、重い装備を着ていたのだろう。勢いよく地へと落ち、そのまま真っ赤な花を咲かせて命を散らした。
私は空中で回転することで落下の速度を下げ、そのまま受身を取り、衝撃を最小限に減らす。ダンッという音ともに地面にひび割れが起きた。他の兵士の下には数メートルはある穴ができていた。…どうやら衝撃波以外にも重力操作で強く突き落とされたみたいだった。もちろん、それは私も例外ではない。
5,138
「…ッ」
体全体に衝撃が走り、肺から空気がえぐり出された。瞬時に自身の体を回復するが、体力も、そして精神も治ることはない。身体は動くが、ダルさや、倦怠感、そして一瞬感じた死への恐怖が和らぐことはない。
聖職者は右手に持つ聖書を再び開こうとするが、その前に銃を発砲し、右腕を撃ち抜く。流石にもう一撃を許すほど、私は愚かではなかった。撃ち抜いた彼女の腕が飛ぶことはなかったものの、聖書は地面へと転げ落ちる。聖職者は聖書がなければ魔法や呪いを発動できない。───これでほぼ無力化に成功である。あとは単純な作業。私はそのまま右手に持っていた銃を捨てて、短刀を握り、そいつの心臓を突き刺す。
「…任務完了。」
私の一言で、その戦場は我々の勝利を宣言した。
岩陰に隠れる。その時には、既にそれは始まっていた。先輩は爆速でその場から駆け出し、そして瞬きの間に1人の兵を仕留めていた。同時に、赤い花が勢いよく散った。甘さなんてない。鉄と、死の匂いが世界に人が死んだ、という事実を伝える。私にもわかるほど、戦場は空気を変えた。金属音が、砲撃が、燃え上がる炎の音が、一瞬hn先輩に恐れをなしたかのように止まる。
しかし、ワンテンポ遅れて、全員が同時に先輩に狙いを定めた。戦場に似つかわない色とりどりの魔法陣が先輩を取り囲む。危ないっと思って、岩陰から飛び出そうになる。だが、その心配はいらないようだった。先輩は死んだ兵士を蹴り飛ばし、空中に舞い上がって剣を交わし、そのついでと言わんばかりに魔法陣を貫通して敵兵を剣で突き刺す。金属音なんて聴こえない。だって、剣でやり合う前に決着がついているのだから。聞こえるのは血しぶきの音と、魔法が不発になった音だけ。先輩はそのまま音を置き去りにして敵兵をなぎ払い、そして仕留めていく。───命が、窓ガラスを割るように簡単に散っていく。戦場での命を軽さを私は初めて見た。手の震えが止まらない。私、戦ってないのに。先輩は味方なのに。私は初めて人に対して恐怖と畏怖の感情を抱いた。
しかし、今度は敵の番、と言わんばかりに何かが飛んでくる。───轟音とともに先輩を含めたあたりの兵士全員が数十mも飛び上がり、兵士たちは瞬時に落下して血を撒き散らす。ドチャッドチャドチャッッ人が落ちて、そしてその落下の勢いのまま地面を削り、穴を作り出す。───見ていられなかった。けど、私は目が離せなかった。戦場に、じゃない。先輩から、だ。先輩は空中で何回か回転したあと、手から落下し、そのままくるりと前転をする。が、空気を吐き出した。素人の目から見ても、追い詰められていることがわかった。
けど、その次に戦闘は終わっていた。ドンッという銃声の後、戦場には先輩しか立っていなかった。
「…任務完了」
火の匂いが残る戦場で、静寂を打ち破った一言だった。
私は先輩のところに駆け出した。先輩はまだ無表情のままだった。
「先輩!お怪我は…!!そりゃ、ありますよね!大丈夫ですか!?」
「…回復がギフトだから怪我はない。大丈夫。それよりもまだ、まだ間に合うから…。」
何が間に合うのか、そう聞く前に、ドサッという音ともに彼女はそのまま地に座り込む。ギョッとして見ると、別に気絶した訳ではなく、わざとらしい。祈るように両手を組んでいると、辺りに光の粒子が舞いだし、地面にへばりついていた血が兵士の体内に逆戻りし、体の傷跡が逆再生を見ているかのように戻っていく。そして、ついに───
「ン、ングッガ、ハッ…!!」
兵士の1人が呻き声を出しながらも、起き上がる。───嘘だ。その事実を即座に否定してしまう。数十メートルも落下した人間が生きれるわけがない。良くても原型が留めているくらいだろう。なのに、なんで、生きて───?
「兵士の装備には世界で最も最先端のを使ってるんだよ。それに、私は息がまだあれば治すことができる。…まだ生きてたんだ。ま、間に合った…。」
そう言って、ようやくhn先輩に笑顔が戻る。その姿を見て私は、ようやく緊張がとけた。───いつもの先輩に戻ったのだ。
その間にも次々味方の兵たちが起き上がり、生存を喜びあっている。
「隊長の言った通り、秘密軍の方が来てくれたんですよ!」
「死を覚悟したが…いい人に当たったようだな。おふた方とも、感謝する。」
一際体格の良い隊長が深々と一礼をする。hn先輩はそれに対しては何も言わずに、淡々と話をすすめた。
「今回の勝利はあなた方のおかげということにしてください。また、私達のことは秘匿で。」
「ああ、無論そうさせてもらう。そもそも、俺たちはここで死ぬはずだったものだ。生きている間は君たちの指示に従うよ。」
「ご協力感謝です。では、あなた達が迎えられている間に我々は裏口で帰りますので。本日はここまでで。」
「ハハッ。若いのに忙しんだな。それじゃ、また会ったら頼むよ。影の英雄さん?」
そういいながら、数十人の小隊と、戦車を数十台引き連れた隊長さんは私達が来た道を戻って行った。私たちも、その後を追って、ゆっくりと歩き始める。
「先輩って強いんですね…。なんか、目の前で見せられて、初めて実感したって言うか、現実味を覚えたって言うか…。」
なんていえばいいのか言葉を探す。戦場であったはずの場所にもう爆撃が響くことも、血で汚れることもない。それは、戦争が終わったことであり、平和であるということ。…なんて言いたいが、別に今回ので戦争が終わる訳じゃない。けど、そんなつかの間の平和を噛み締めるのも良いものではないか、そんなふうに考えていたが、どうやら先輩は違うらしい。明るかった顔に影を落としながらそのわけを話してくれる。
「私は、弱いんだよ。強かったらね、今回の戦地に命懸けで来てくれた人たちを誰1人死なせずに済んだんだ。もっと、早く来ていれば。聖職者がいると思ってなかったんだよ。…言い訳はダメだなぁ。」
「そんなことないと思いますよ、私は。少なくと、死ぬかもしれない戦いで数十人以上の生存者を出せたって凄くないですか?紛れもない偉業ですよ!」
私がそう言っても、先輩は寂しげに笑って顔を横に振るだけだった。
その後に、談笑なんてできる訳もなく、私たちは無言のままワープロに乗り、本部へと帰還した。
「私が報告しとくから、gsoはもう部屋戻って平気だよー!」
本部にワープするや否や、hn先輩は明るくそう言ってくる。先程とはまるで違った様子に内心驚きつつも、さすがに申し訳なくて断る。
「え、いや私も報告しますよ!先輩に全部任せっきりですし…。」
正直に言っても、先輩は譲る気がないらしく
「人を殺す様子を見せちゃったし…ね?新人の子だと特に精神的負担が強いからさ。今日はもう休んで欲しいんだ。」
流石にそこまでお願いして下がらない訳にもいかず。
「…分かり、ました。」
と渋々了承する。そうすると、先輩は嬉しそうに笑いながら、
「じゃ、私は報告しに行ってくるねー!また明日訓練室で!」
そう言って、早足でその場から去っていった。…あんなにも善意で言ってくれたのだ。受け取らなければ私の良心が痛む。私はそのまま部屋へと戻ることにした。
私は早足でgsoと行動をわかれる。もちろん、早く休んで欲しいというのは私なりの善意だったが、他にも理由があった。
私は一目散にトイレに駆け込む。
誰もいないことを確認した私は───。
「う゛っお゛ぇぇ…」
思わず吐いてしまう。朝食べた料理がぐちゃぐちゃの姿で私の目の前に現れる。最悪の気分だ。私は、今日の戦闘を思い出す。心臓を貫いた時の感触、銃を放った時の反動、私の体に飛びつく返り血。その光景がフラッシュバックし、私はまたしても吐いてしまう。いくら吐いても、いくら嘆いても、人を殺したという事実が私の足を引っ張り、底なしの沼へと引きずり込もうとする。
生きるために殺す?違う。そんなのただの言い訳だ。お前の手はどうしてそんな血まみれになったんだ。人が殺したかった訳じゃない。私は、ただ。
この軍に入ってから行方不明になった兄を見つけたいだけなのに。
その為だけに私は人を、無関係の人を殺しているのか。バディを何回見殺しにしてきたんだ。何回バディに愛想をつかされたんだ。今回のバディ…gsoはまだ人を殺していない。こんなことをして罪悪感で押しつぶされるくらいなら、私が全部やればいいんだ。守れるだけの力は身につけてきた。大丈夫。大丈夫なんだ。準備はした。だから、だから、だから!!
その時、しょっぱいものが口の中に入ってくる。胃酸の酸っぱい感じとしょっぱい液体で口内はさらにぐちゃぐちゃだ。本当に、最悪の気分だ。私は口をゆすぎ、目元をハンカチで拭って、鏡の前で自分に笑ってみせる。口角の上がり方はやや不自然。目元がピクピクと動いている。目線があってない。これじゃあmmさんにバレてしまうじゃないか。ちゃんと、笑って。私は、明るくて、元気で、人殺しをなんとも思ってないhnなんだよ。
「…もう、疲れたな。」
無意識に出た一言。けれど、それは今の状態をよく表した言葉だった。本当に、もう疲れた。人を殺す度に悪夢を見て、現実では軽い幻覚と幻聴に悩まされている。しかも、守るべき相方もできてしまった。私が死んでしまったら、gsoも死んでしまうんだ。私が、私がしっかりしないと。
何回拭っても零れ続ける涙をハンカチで何度何度も拭って。深呼吸をして、自身を落ち着かせる。
さて、報告に行かないと。私は重い足取りをあたかも軽く装って歩き始めた。
───ひとりで抱え込むな。お前には、俺がいるだろ?
そんな、幻聴が私の足を引っ張る。
ここで幕を閉じます。皆さま、お久しぶりです。今回はhn様の弱さと強さにスポットを当ててみました。頼れる先輩の裏側、というものを深堀させて頂きました。明るい方には壮絶な過去がある。割とベターな内容ですが、悪くはないと思っています。
それでは、皆様。また次の一幕で会いましょう。
コメント
8件
hnちゃんの裏と表が、なんか人間味があって好き....戦闘シーンカッコよすぎよ!!