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少し眠ってしまったみたいだ。ここはホワイトハウスにある一室、貴賓室の類いなのか明らかに高級な調度品で溢れてる。それでいて品の良さが感じられるお部屋で、私はベッドで俯せになって爆睡していた。
そりゃあ相手はアメリカの大統領、滅茶苦茶緊張したし、ニューヨークでの事件でも動き回ったからなぁ。正直今日はこのまま休んでしまいたいんだけど、そう言うわけにはいかない。大切な会食がある。
話し合いも大切だけど、やっぱり地球の食べ物をまた食べられるようになるなんて夢みたいだ。
『その場で解析を行います。おそらくティナが口にすることが出来ない食材もあるかと思われます』
「それは仕方ないよ」
アード人にとっては毒になるような成分も存在する筈。ある程度はアリアが事前にインターネット上で確認してくれたけど、現物を直接解析したほうが早い。
食べられるものはアードに輸入しても良いかもしれない。魚はまだしも、新鮮な野菜やお肉なんて庶民は先ず手に入らないからね。いや、お魚も美味しいけどさ。
その為かアードにある料理は魚料理がメインだけど、食材さえあればアードの食文化を発展させることが出来るかもしれない。少しでも政府が興味を持ちそうなものを持ち帰らないとね。
身形を整えていると、ドアがノックされた。誰だろう?
「はーい?」
「起きていましたか。そろそろお時間なので声をかけに来たんです。入っても宜しいですか?」
女の人の声だ。
「どうぞー」
「失礼します。また会えましたね、ティナさん」
優しげな笑顔を浮かべているのは、メリルさんだ。ビシッとしたスーツ姿が良く似合ってる。
「メリルさん?」
「実は上からの指示で滞在中ティナさんの身の回りのお世話を任されたんです。構いませんか?」
「はい、問題はありませんよ?此方こそ宜しくお願いしますね」
むしろ面識があるメリルさんなら気軽に出来る。ジョンさんの妹さんだしね。
「それでは会食の準備が整いましたので此方へ。可能な限りの料理を御用意させていただきましたから」
「楽しみです」
一番心配なのは、全部食べられなかった場合なんだよねぇ。不安だ。
メリルさんの案内でホワイトハウスの大広間にやって来た私は、ビックリした。たくさんのテーブルに和洋折中様々な料理が並べられて、済みには調理機材と数人の料理人さんまで居た。
「あっ、圧巻ですね」
「いろんな種類があるでしょう?楽しんでくださいね」
こと料理に関してはアードより地球のほうが遥かに進んでる。アードじゃ手に入る食材も少ないし、料理のレパートリーもそれに合わせて少ない。ここ数百年は栄養スティックが主流だし。
「ティナ嬢、驚いてくれたかね?」
「ハリソンさん、素敵な歓迎会を開いてくれてありがとうございます」
大統領が笑顔で近付いてきたから、私も笑顔を返した。
「なに、君は大切な客人だからね。心配なのは君が食べられるものがあるかと言う点だが……」
「はい、調べてみますね」
ブレスレットをかざすと、青い光線がたくさん放射されて料理を解析していく。周りの皆さんは驚いていたけど、調べているだけだと伝えたら落ち着いてくれた。
「どうかな?アリア」
『結論から申し上げれば、大半の食材はアード人が口にしても問題ありません』
「良かったぁ。食べられないものは?皆さんにも教えてあげて」
『では』
ここで使われている食材のうち、アード人が食べられないものをアリアが挙げていく。同時に翻訳して皆さんにも伝わるようにしたからメリルさん達が熱心にメモしてるし、ハリソンさんは補佐官さん達と話をしてる。
私としては食べられるものが多いのは非常に助かる。
「あー……幸せ……」
一通り調べ終わり、ご好意に甘えて料理を堪能してる。個人的には日本料理へ飛び付きたいけど、先ずはアメリカの料理を食べる。招待してくれたんだもん。そのくらいは分かる。
アメリカらしく肉料理が中心で、何故かハンバーガーみたいなファーストフードまでたくさんの種類があって笑ってしまった。
本当に色んな料理を用意してくれたんだなぁ。前世以来久しぶりに食べたハンバーガーは、本場らしく豪快だったけど美味しかった。
「どうだね?地球の、我が国の料理は口に合ったかな?」
「とっても美味しいです!アードじゃこんな料理は食べられません!」
「ほう?そうなのかね?」
『アードは惑星そのものは地球の1.5倍ほどありますが、陸地の面積は半分以下。大陸と呼べるようなものはなく、様々な小島で形成されています』
私の代わりにアリアが答えてくれた。
「つまり農作物の生産力に限りがあると」
「長年の試行錯誤で食料問題はありませんけど、食べるにしても魚料理がメインですね。それか、これです。栄養スティック」
栄養スティックを取り出して見せる。日本のお菓子、う◯い棒くらいの大きさだけど、これ一本で一日に必要な栄養が全部採れる優れもの。ただしアード人用だからカロリーはすんごく高い。間違ってもダイエット中の人が食べるものじゃないね。
「栄養スティック、カロ◯ーメイトみたいなものと考えて良いかな?」
「その究極系ですね。これ一本で一日生きられます」
「それは凄いな、是非とも地球へ輸入したいものだ」
『地球人の体に合わない物質が含まれていますので、このまま摂取することは推奨しません』
「それは残念だ」
「でも、地球とアードの交流が深まれば新しく地球人用のものを開発するのも難しくないと思います」
「是非ともそうしてほしいな。栄養スティックがあれば、地球の食料問題を一気に解決出来るだろう」
まあその場合アードみたいに新鮮な料理は富裕層だけで、庶民はスティックか魚料理だけしか口に出来ない。そんな社会になるかもしれないけど。
ハリソンさんの後ろでは他の人達がさっき書いたメモを見ながら熱心に相談してる。食料の輸出を考えてるのかな?
「私は商人ではないので詳しい商談はアリアに任せてしまいますが、新鮮な食べ物はアードでもたくさんの需要があると思います。特に私みたいな庶民に」
私の言葉でハリソンさんは何となく察してくれたみたいだ。ディストピア小説なんかでも良くある設定だもんね。庶民は栄養保存食だけ、特権階級や富裕層は豪華な食事とかさ。
「詳しい話はこの後の会談でまとめよう。今は地球の料理を堪能してほしい」
「はい」
「えっ……にっ……兄さん……」
ハリソンさんとお話をしていたら、私の側に居たメリルさんが入り口を見て固まってた。お兄さん、ジョンさんかな?
私も入り口を見て……固まった。
「……え?」
そこには何故かボディービルダーみたいにムキムキでスキンヘッドになったジョンさんが居た。
……なんで?