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第二話 四人目のフレーム
―前編―
春は、不思議な季節だ。
昨日まで他人だった人と、
気づけば隣で笑い合っている。
その逆もある。
近かった人が、
少しずつ遠ざかっていくことだってある。
だから春は少し怖くて、少しだけ好きだった。
*
翌朝。
目覚まし時計が七時を告げる少し前に、
湊は目を覚ました。
カーテンを開けると、
雲ひとつない青空が広がっていた。
窓の外では、
近所の公園の桜が朝日に照らされている。
「……晴れたか。」
小さくつぶやき、制服へ着替える。
机の隅には、一眼レフカメラが置かれていた。
父が昔使っていたカメラ。
レンズには小さな傷がいくつもある。
でも湊にとっては、新品より大切な宝物だった。
出かける前、湊は昨日撮った写真を見返す。
桜。
校舎。
青空。
そして、一枚だけ人物の写真。
髪に桜の花びらを乗せて笑う朝比奈紬。
その写真を見た瞬間、
昨日の屋上の風がよみがえった気がした。
「……。」
画面を閉じる。
人物を撮ったのは、あれが初めてだった。
写真を見るだけで少し照れくさい。
そんな自分に苦笑しながら、
カメラバッグを肩に掛けた。
*
学校へ向かう坂道。
昨日よりも少しだけ足取りが軽い。
その理由を考えないようにしながら歩いていると、
「神崎!」
後ろから大きな声が飛んできた。
振り返る。
制服のネクタイをゆるく締めた男子生徒が、
大きく手を振りながら走ってくる。
「やっぱり神崎だった!」
息を切らしながら笑う。
「久しぶりだな!」
湊は少し驚いた。
「……蓮?」
「おう! 橘蓮!」
勢いよく肩を叩かれる。
「まさかまた同じクラスになるとはな!」
湊は思わず笑ってしまった。
蓮とは中学三年間同じクラスだった。
誰とでもすぐ仲良くなれる人気者。
運動神経もよくて、勉強もそこそこ。
でも、困っている人を放っておけない性格で、
湊にとって数少ない
「気を遣わなくていい友達」だった。
「昨日見つけたんだけどさ。」
蓮は頭をかきながら言う。
「お前、すぐ帰っただろ?」
「人が多かったから。」
「相変わらずだな。」
そう言って豪快に笑う。
「でも安心した。」
「何が?」
「知ってるやつ、お前しかいなかったんだよ。」
その言葉に、湊は少しだけ嬉しくなった。
蓮は人気者なのに、そんなことを気にするんだ。
「今年もよろしく。」
「こちらこそ。」
二人は並んで坂道を歩き始めた。
昔と変わらない距離感。
言葉がなくても、不思議と居心地がいい。
*
教室へ入ると、窓際の席で紬が本を読んでいた。
昨日と同じように、
朝の光を浴びながら静かにページをめくっている。
「あ。」
こちらに気づいた紬が、柔らかく笑う。
「おはよう、神崎くん。」
「……おはよう。」
そのたった一言だけで、
昨日より自然に笑えた気がした。
「友達?」
紬は隣に立つ蓮を見た。
「ああ。」
「中学から。」
すると蓮が一歩前へ出る。
「橘蓮! よろしく!」
人懐っこい笑顔。
紬も笑い返す。
「朝比奈紬です。」
そのときだった。
「紬、おはよー!」
元気な声とともに、
一人の女子生徒が教室へ飛び込んできた。
肩で切りそろえた髪。
大きな目。
どこか子猫みたいな雰囲気の女の子。
「もう! 置いていかないでよ!」
「美桜、おはよう。」
紬が笑う。
「寝坊したの?」
「あと五分寝ようと思ったら二十分寝てた!」
教室中から笑いが起こる。
「紹介するね。」
紬が湊たちへ向き直る。
「この子、白石美桜。」
「小学校からずっと一緒なの。」
「よろしく!」
美桜は元気よく頭を下げた。
その勢いに少し驚きながらも、
湊と蓮も挨拶を返す。
まだぎこちない四人。
でも、この日がきっかけで、
四人の高校生活は少しずつ重なり始める。
それは、誰もまだ知らない物語の始まりだった。
コメント
4件
ほんとですか!?そう言ってもらえてすごく嬉しいです! タイトルにもこだわっててちゃんと最後回収するので楽しみに待っててください! あ!ほんとですか!? 今回結構章に分けて書いてるのでそこも注目して見て見て欲しいです! ゆっくりお話進んでいくのでじっくり世界観浸れるかもです! はい楽しみにしててください!
はる。です!第2話読了したわ。 春の空気感とか、カメラ越しに見る世界の描写がめっちゃ刺さった。湊が初めて撮った人物写真が紬っていうのが、静かにときめく感じでいいよね。蓮との再会も自然で、中学からの距離感そのままって感じがして微笑ましかった。 そして最後に美桜が登場して「四人目のフレーム」ってタイトルが回収されそうで、これからどう重なっていくのか楽しみすぎる。まだまだ始まったばかりって感じがして、続きが待ち遠しい🔥