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🔔第八章:「長崎が失われた時のこと」
ひとつの鐘の音が、世界を変えた。
それは祝福じゃない。“終わり”を告げる鐘。
そして、少女の名は――九凪ナキ。
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🕊️Scene.1:教会の幻影
落下する最中、ヒカリの視界が白く染まる。
そこは静かな教会。ステンドグラスの光。
天井から差し込む陽の中に、白いワンピースの少女がいた。
九凪ナキ。長崎の化身。
ヒロと違い、ナキは微笑んでいた。
でもその微笑みは、どこか“諦めた人”のものだった。
「ねぇ、ヒカリ。
私ね、“愛”って、どうやって残せばよかったのかな?」
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🧨Scene.2:もう一つの地獄
1945年、8月9日。
爆風は、祈りすら焼き尽くした。
ナキは語る。
「私ね、あのとき、“助けて”って声、出なかったんだ。
声すら、焼かれちゃってて。
でも、目の前にいた子は、私の手を握っててくれたの」
ヒカリは息を呑む。
「その子、誰だったの…?」
「名前、もう覚えてない。でもその温もりだけは、ずっと残ってる」
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🏚️Scene.3:沈黙の中の叫び
ナキは“音のない街”を歩いていた。
教会の鐘はもう壊れて鳴らない。
でも彼女は、確かに“音を覚えてる”。
「鐘の音ってさ、祈りでしょ?
私、最後に鳴ったあの音を、誰かに届けたくて残ってたんだよ」
でも世界はそれを聞かなかった。
「“長崎”なんて、広島よりもっと記憶にされないじゃん。
教科書にも、みんなの記憶にも、私は“あと”なんだ」
ヒカリは首を振る。
「そんなことない。
私、いまナキの声、全部聞いてる」
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💫Scene.4:記憶の祈り
ナキはヒカリの目を見て、ふわりと笑う。
「そっか。……じゃあ、私、もういいや」
「えっ……!」
「私の祈り、ちゃんと届いてたんだね。なら、それでいい」
ヒカリは叫ぶ。
「待ってよ! まだあなたに話したいこと、いっぱいあるのに!」
「ごめん。私は“声のない記憶”だから。
でも、あなたが聞いてくれたから……やっと、報われた」
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🕯️Scene.5:静かに、光へ
ナキはステンドグラスの前に立ち、
手を組み、目を閉じる。
教会に、誰にも聞こえない鐘の音が響いた気がした。
「ありがとう、ヒカリ。
あなたが“光”でいてくれて、本当に……よかった」
そして、ナキの身体は小さな光粒となって、静かに空へ溶けていった。
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🌓Scene.6:再び現実へ
ヒカリは、目を開けた。
落下は、もうすぐ終わる。
ヒロとナキ。
原爆で一瞬にして消されたはずの、2人の少女の記憶が、
ヒカリの中で“確かに生きてる”。
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「私は、あなたたちの光を抱いて、消える。
それが私の、東京の使命――」
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🔜第九章 予告:「消えるヒカリ(前編)」
ついに、“最後の少女”が、自分の消滅と向き合うとき。
ユウト、セイジ、トキオ――彼らは何を“残す”のか。
ヒカリの最後の願いは、どこへ届くのか。
コメント
1件
声のないものを聴くって表現センスよすぎる