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リビングでは既に支度の終わっているナジュミネと黒猫のケットがいた。
ナジュミネはウェーブの掛かった真紅の髪を運動がしやすいようにポニーテイルにして纏めており、軍服姿で整った状態で立っている。そんな彼女は真紅の瞳を憂いに満たしていて難しい顔をしていた。
ケットは2本の尻尾がぶんぶんと揺れている。
「本当にすまぬ。妾にできることはあるか?」
「気にしニャいでニャ。ニャジュミネさんが言ったわけじゃニャいニャ。ありがとうニャ。お願いすることがあるかもニャ。ご主人にまず相談ニャ!」
「……委細承知した」
ナジュミネはケットに励まされるも沈痛な面持ちは拭い去れきれなかった。それを降りてくるムツキとリゥパが見て、何事かと心配になる。
「おはよう、ナジュ、ケット」
「おはよう、旦那様、リゥパ」
「おはよう、ケット様、ナジュミネ」
「おはようニャ! ご主人、リゥパ。ご主人、大変ニャ!」
1階に降りてきたムツキとリゥパを見て、ケットが慌てた様子で近付いてくる。ケットは尻尾を激しく揺らして、大変さを無意識にアピールしているようだ。
「どうした、ケット」
「困ったニャ! 今夜のパーティーの材料が足りニャいニャ!」
ケットは金色の瞳を少し潤ませて、胸元にある白い毛を両手でいじりながら言う。
「あー、最近、祝い事ばかりだったからな」
「そうでもニャいニャ。在庫はある程度あるニャ。でも、デザート系の材料が足りニャいニャ!」
「まずいな。でも、まあ、落ち着くんだ」
「にゃー」
ムツキはケットの慌てっぷりを心配し、中腰になりながらケットの頭を撫で始める。その心地の良さに、ケットから少しホッとしたような鳴き声が出てくる。
「パーティー?」
リゥパは不思議そうな顔をしてムツキに訊ねる。ムツキは撫で終わったタイミングで中腰を止め、リゥパに話しかける。
「そう。リゥパとルーヴァがこの家に来てくれたことを祝うパーティーだよ。ナジュの祝いもすぐにしたんだよ」
ムツキがそう言うと、リゥパはやはり不思議そうな顔をする。
「材料が足りないなら今度でもいいんじゃない?」
リゥパの言うことは当然である。しかし、そうではないことを彼女以外は分かっていた。
「あー、うちの最強ワガママお姫様がそういうことを許すと思うか?」
ムツキはユウのことをお姫様と呼んだ。もし彼女に聞かれたとしても、お姫様扱いをするので少しだけ和らぐのである。彼の少しばかり姑息に見える生活の知恵である。
「……そうなのね。でも、ないんじゃ仕方ないんじゃない?」
リゥパは把握しつつもそう訊ねるが、ムツキやケットは首を横に振る。
「ユウが拗ねると大変なんだ。特に楽しいイベント、祭事には厳しい」
「困るニャ。前に拗ねられた時は10日間ほどご主人と一緒に閉じこもってしまったニャ」
ケットが当時のことを思い出しながら、本当に困ったような声で話す。
「ふーん。10日間もね……気持ちいいこともした?」
「……ノーコメントだ。いろいろあった、とだけ言っておこう」
リゥパが少しニヤッとしながら上目遣いにムツキにそう訊ねると、彼は突然上を向いて少し濁した言い方で終わらせた。
「そっか。でもまあ、ユウ様とはいえ、独り占めは許されないわね。ここに新妻が2人もいるんだから。いいわ、私も手伝うわ。樹海で取れるものはあるのかしら?」
「あるニャ!」
「ありがとうございます。よかった、手伝えそうね。樹海ならエルフには庭のようなものよ。着替えてくるわ」
リゥパは樹海へ出かけるためにいつもの服装に着替え直しに向かう。
「みんニャ、ありがとうニャ。足りニャいのはこれニャ」
ケットはそう言いながら、大きな葉っぱをムツキに手渡す。彼は手渡された大きな葉を眺めながら、思わず声が出た。
「あー、今回はフルーツ系か。ケットでも取り揃えられないのは珍しいと思ったが、そういうことか。それに結構な種類だな」
「面目ニャいニャ」
フルーツは割と傷みやすいので、あまり多い量をストックする習慣がなく、必要数を都度調達が多かった。全員の通常1食分程度なら問題ないが、パーティーの際は妖精たち全員も数に含めるため、使う量がその倍は必要になり、種類も通常とは異なるほど多かった。いずれにしても、ストックがいくつも足りていない状況である。
「でも、フルーツじゃないデザートだってあるだろう?」
ムツキが何の気なしにそう言うと、ナジュミネがビクリとして、ケットがしまったという顔をした。