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第9章 体育祭
校庭は朝から熱気に包まれていた。赤や青のはちまきを締めた生徒たちが、声を張り上げて応援している。
私はといえば、本来は応援するだけの予定だったけど、友達が体調を崩してしまって急遽チアの代役を頼まれてしまった。
「え、ほんとに私がやるの!?」
「お願い!衣装ももうあるから!」
渋々着替えたチアの衣装は膝上のスカートにリボンのついたトップス。
普段の制服とは違いすぎて、なんだかそわそわする。
校庭の端で練習していると、視線を感じて顔を上げた。そこには亮くん。
借り物競走の練習をしていた彼が、じっとこちらを見ていた。
目が合うとすぐにそらされたけど、耳までほんのり赤いのがわかった。
「……似合ってるよ。」
すれ違いざま、小さな声でそれだけ言って去っていく。その一言に、スカートの裾を無意識にぎゅっと握ってしまった。
午後の競技、男子の借り物競走。
亮くんの順番になると、観客席からはひときわ大きな歓声が上がる。
「がんばれー!」
トラックを駆け抜け、カードを引いた亮くんが立ち止まった。
お題を確認した彼の目が、真っすぐにこちらを射抜く。
「え……?」
次の瞬間、彼は観客席に駆け寄ってきた。
「〇〇、来い。」
「えっ、ちょっと待って!」
強引に手を取られ、トラックへ引っ張り出される。
ざわめく観客、沸き上がる歓声。
亮くんが審判に見せたカードには、はっきりとこう書かれていた。
『大切な人』
「な……なにこれ……!」
顔が熱くなる私に、亮くんは少し照れたように笑う。
「文句あんのか? 俺の大切な人なんだから。」
その言葉に心臓が跳ね上がる。
でも、告白ではない。ただの競技の一場面。
そう分かっているのに、胸がぎゅっと苦しくなるほど嬉しかった。
ゴールテープを一緒に切った瞬間、観客席から大きな拍手と歓声が響いた。
私は頬を赤くしながら、まだつながれた手をそっと見つめていた。