「麗華、あのね。私もずっと慶都さんが好きだったの。ごめん、黙ってて。でも、言えなかった。雪都を授かって身を引こうとしたけど、再会して、自分の気持ちに気づいて……」
「やめてよ! 裏でこそこそして、結局、自分1人だけ幸せになるなんて。そんなのズルい! さっさと別れなさいよ! 慶都さんは私の婚約者だったんだから」
麗華の勢いに思わず後ずさる。
「でも、麗華にはたくさんボーイフレンドがいて、それはきっと慶都さんも知ってたはずだよ」
「何? 私が悪いっていうの? みんな友達よ。結婚したいと思える人なんていなかった。慶都さんみたいなハイスペックな人、他にいるわけないじゃない。それに、結婚するから友達と会っちゃいけないなんて決まりないでしょ? 慶都さんなら、全て受け入れてくれると思ってた。なのに、彩葉さんに乗り換えて。どうせあなたが誘惑したんでしょ、私への腹いせに」
辛辣な言葉が私の胸をえぐる。
「腹いせなんて。私はね、麗華のことを本当に大切な妹だと思ってる。お母さんを亡くしてから、あなたはものすごく苦しかったんだよね」
母になってわかったことがある。
自分がいなくなったら雪都はどんなにつらいだろうか、その悲しみを背負うことがどんなに苦しいことだろうか。
だから、いつも笑って、元気に生きていたいって。
なのに麗華にはお母さんがいなくて……
それを思うと胸が締め付けられる。
でも、私の母だって、本当は麗華の前でずっと笑っていたかったはず。
どうすることもできなくて、だんだん笑えなくなった母のつらさも、子どもを持った今だからこそよくわかる。
「やめてよ! あなたに何がわかるの? わかるはずない。私達は……住む世界が違うんだから」
「私はずっと麗華と何でも話せる友達みたいな関係になりたかった。今でも同じ気持ちだよ」
「無理だよ。彩葉さんやあなたのお母さんとは交われない。お母さんが死んじゃって、あなた達がやってきて、その時から私の人生は変わったの」
「……麗華」
もう、これ以上、何を言えばいいのかわからなくなった。
麗華の言うように、もう交われないの?
家族にはなれないの?
「でも……」
そう言った瞬間、麗華の憎しみに満ちた顔が、ほんの少しだけ緩んだ気がした。
そして、言葉を続けた。
「安心して。あれからいろいろ考えた。私は……日本を出るわ」
「え!?」
「私、海外にいくの。向こうで好きな絵を描いて暮らすわ」
「麗華?」
あまりにも突然の告白に驚いた。
「もう、あなた達がいる日本にはいたくないから。向こうにね、大金持ちの友達がいるの。しばらくは彼の別荘でゆっくり暮らすわ。アトリエもあるのよ。そこで好きなだけ絵を描けばいいって言ってくれてる。素敵でしょ? だから、この家にあなたのお母さんを呼び戻して、みんなで仲良く暮らせばいいわ」