テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「うわ……マジで“女王様の受付”って感じだな、お前」
「は? それ褒めてんの?」
「……褒めてない、けど似合ってる」
文化祭当日。3人のクラスは定番のメイド喫茶。
桃香はスカート断固拒否で、制服+白エプロンの受付担当。
一方、鼓一朗はというと――
「いらっしゃいませ、お嬢様。お席へご案内しますね」
笑顔、爽やか、仕草キレイ。
完ッ全に“ホンモノのメイドカフェ店員”みたいに仕上がっていた。
しかも、ちょっと落ち着いた敬語で話すもんだから女子たちは沸騰。
「やば……鼓一朗くん、あれで彼女いないの!?無理尊い」
「落ち着き方がプロ、なにあれ」
「……」
(はあ!? お前いつから“鼓一朗王子”になったんだよ!?いいな。この片思いが)
受付でパンフレット配りながら、桃香の中で警報が鳴り続ける。
胸の奥がモヤモヤ、じりじり、バチバチ……。
(その笑顔、誰に使ってんの……馬鹿なの?私か?お前は私の何なの??)
でも表情は変えない。変えられない。
だって受付業務中。接客スマイル。仮面で笑顔。
「受付、これ渡しておけばいいの?」
「……あー、うん。そこ座って待ってて」
思わず口調が冷たくなってしまった相手は、たまたま別クラスの女子だった。
(しまった……)
そして、そんな様子を静かに見ていたのが――晴人。
(……あーあ、嫉妬してんな)
晴人は手際よく裏方をこなしつつ、桃香と鼓一朗の間に漂う空気に薄く笑っていた。
2人が意識してることなんて、周囲はもうとっくに気づいている。
(でも、桃香は“自分が嫉妬してる”って認められないだろうな。鼓一朗も、たぶん気づいてない)
(……なら、もう少しこのままでいっか)
彼はひとつ深呼吸して、皿を下げに行った。
昼過ぎ。
ひと段落した頃、鼓一朗が控えスペースに戻ってきた。
「受付、お疲れ様。桃香……なんか機嫌悪い?」
「別に。疲れただけ」
「……ならいいけど」
少しだけ心配そうな顔をして、彼はペットボトルを差し出す。
桃香は受け取りながら思う。
(そうやって優しくするの、やめてよ……。こっちの嫉妬、どんどん増えるじゃん)
そして放課後。
片付けを終えて、3人で一緒に帰る途中――
「でも、鼓一朗すごかったな」
晴人がぼそっと言う。
「は?」
「女子の視線、全部かっさらってたじゃん」
「な、なにその……そういう言い方、やめてくんない?」
「あー、やっぱ気にしてたんだ」
「……っ!!おい?晴人、お前は一旦こっちに来い」
桃香は怒りに任せた顔で晴人を連れていく。
鼓一朗はその横で、ちょっとだけ照れて笑った。
「ただいま〜」
「た、だいま」
「……でも、桃香の受付、安心感あったよ。なんか……“俺の居場所”って感じだった」
その言葉に、桃香の心はふっと揺れた。
誰かに見られる笑顔も、
誰かに向けた優しさも、
全部、自分のものだったらいいのに。
そんな独占欲が、文化祭の夕焼けにゆらめいた。
コメント
1件
鼓一朗×桃香の予感((((꒪꒫꒪ ))))