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ベッドの上、窓から月明かりが差し込んで、1箇所だけカーテンを閉め忘れていたことに気が付いた。
カーテンを閉めようと窓に近付くと、隣に座っていた兄が「まって、まだ閉めないで」と僕をとめた。
「…あ、満月か」
月は十五夜_秋頃が最も美しく見えると言うけれど、晴れていればいつだってその美しさが分かる。満月なら尚更だ。
『月が綺麗ですね』
かの夏目漱石が生徒に教えたとされる言葉。
『I love you』を直訳するのは行間がなくナンセンスだ、ということらしい。
でも、この言葉が有名になってしまったがために、直接的な告白よりも言葉にするハードルが高くなっている。
今の時代に遠回しな告白はそぐわないのかもしれない。
そんなことを考えながらぼんやりと月を眺める。
次第に眠くなってきて欠伸をすると視線を感じて、僕も目線を返した。
「なに?」
「言ちゃんが今考えてたこと絶対分かる」
ほら、夏目漱石の…と言い出した辺りで思わず笑みが零れる。生まれてからずっと一緒にいるからこういうのには慣れているけど、やはり笑ってしまう程シンクロすることもある。
問の話を最後まで聞いてから「あってる」と伝えると、続けてからかうように視線を寄越した。
「自分には言えない、とかも思ってた?」
「うーん…どっちかって言うと直接的な方が言いやすいかな」
質問の意図が分からなくて頭に疑問符を浮かべる。「なんで?」と言う前に再び問から言葉をなげかけられた。
「その割にはあんまり言ってくれないよね」
僕は結構言ってるのに、と不貞腐れた声で不満を述べられて、少しバツが悪くなる。
「いや、それはまた別の話で…」
「僕は伝えてくれた方が嬉しいけどな〜」
居づらくなって立ち上がって逃げようとすると、「ねえ」と先程とは違う低くて甘ったるい声色で呼び止められて、思わず動きを止める。
「言ちゃん、すきだよ」
こういう時は流されると明日の僕に怒られるので、問のペースに呑まれないようにしなければならない。
「分かったよ…大好きだから、」
問の言う通り、普段の僕なら素直に言うことはほぼ無い。微弱に揺れている瞳を見つめると、その瞳に熱が籠るのを感じ取って心臓が跳ねる。
「……ちょっと可愛すぎるでしょ…」
お前が言わせたんだろ、と心の中で突っ込みながらも、その熱に期待する自分が悔しい。
観念して座り直すと、その瞬間優しく押し倒される。
「…いい?」
この状況で断る奴があるか。そもそも答えがひとつしか無いのを分かって聞いてきているのだからタチが悪い。
わかるでしょ。と問の首に腕を回すと、彼は目を細めて微笑んだ。