そして迎えた週末。
連休をまえに東京入りしていた俺はダンジョンの状況を確認したあと、池袋にて剛志 (つよし) さん家族と合流した。
んっ? ああ、今回東京に出てきたのは俺だけなんだ。
もちろん従魔であるシロとヤカンは俺のまわりをうろちょろしているけどね。
こちらに出てくる前だけど、福岡にて……。
「ゲン様お一人だけでは何かとご不便でしょう。ぜひ私めの同行もお許しください!」
「そうニャ、タマも東京の築地に行きたいのニャ。中トロいっぱいたべるのニャ!」
ムムムムムと下から突き上げるように迫ってくるメイドの二人。
「今回は時間もあまりないし、ふたりには合宿時の買い出しなんかをやってもらわないと困る。それに今からでは帰りの新幹線の座席がとれないだろう」
「「…………」」
「そ、そうだ、キロには京都の観光名所の下調べをたのむ」
「下調べ……ですか?」
「おう、今回どこをまわるかはキロが決めていいぞ。10人を超える大所帯になるから、しっかりした計画を立ててくれ」
そういって新しいるるぶを渡してやると、目を輝かせながらキロはどこかへ去っていった。
そんでもって、もう一人はコレだ。
【ちゅーる贅沢本まぐろ4本入り】
「タマにはコレやるから今回は我慢してくれ」
そういうや否や、シュタッ! と俺の手からちゅーるを奪ってタマはどこかへ去っていった。
――やれやれ。
とまぁ、そんなやり取りもありましたが昨晩、
剛志さんと二人でキャッキャウフフを楽しんでまいりました~。
(せっかくひとりで来ているからね)
どこに行ったか具体的にいうとキャバクラですな。
いや~、さすがに東京といったところかキャバ嬢の質も高いっすわ。
ぜーんぶ剛志さんのおごりだったので他に漏らすようなことはありませんけど、
剛志さん、某キャバクラの『ゆう譲』とはどんな感じなんですかね~?
「おっ、そのバッグ使ってくれてるんだ。うれしいなぁ」
「あったりまえじゃない! 剛志さんの愛が詰まってるもん!」
おや~、酔っぱらってる剛志さんから爆弾発言が飛び出しましたよぉ。
愛がつまってるなんて言ってますけど。(バッグだけに)
んなもん、みんなにおねだりしているに決まってるじゃないですか~。
キャバ嬢の誕生日が年に何回あるか知ってるんですか?
ブランドと形と色を指定されたらアウトです。
あなたの買ったものは今ごろどっかの質屋に流れていることでしょう。
俺も大人ですから、夢を壊すようなことは言いたかありませんけど、何事もほどほどがよろしいかと思いますよ。
まぁ考えさせられることもあったけれど、久しぶりに楽しかったー。
セクキャバも楽しかったー。
どことはいわないけど、丸出しでだっちゅーのはやめろ~~~。(笑)
ただいまの時刻は夜の7時30分。
新幹線で京都駅に着いた俺たちは駅構内の自由通路を通って烏丸口を目指していた。
「ゲンさんすいませ~ん。うちお手洗いに行きたいんですけど」
「私も一緒についていくわ」
「じゃあ、俺もいっちゃおっかな」
「ああ了解です。じゃあ俺はそこのエスカレーターの前で待ってますね」
みんながトイレに行ってしまったので、手持ち無沙汰になった俺はラインの確認をしようとスマホを取りだした。
と、その時である。
「ちょっとすいませんね~。少しだけいいですか?」
声を掛けてきたのは制服を着た二人の警察官。
駅構内を巡回中、荷物を持っていない俺を不審に思ったらしく職務質問してきたのだ。
あらら どうしましょ。
今俺一人だし。シロ呼んだところで役に立たないし。
(…………)
そうだ! アレを使ってみよう。
身分証の提示を求められた俺は、ジャケットの内ポケットから家のエンブレムが入った印籠を提示した。
「俺はゲン。東京から友人家族と共に今こちらに着いたところだ。今はトイレに行ってるからまもなく戻ってくるとおもうけど」
「「これは大変失礼いたしました!」」
俺の言葉を聞いた警察官は揃って敬礼をしている。
「おや、戻ってきたようなのでもう行ってもいいかな?」
「はい! お気をつけてどうぞ」
2人の警察官は敬礼したまま俺を送り出してくれた。
……ナニこれ! 凄いんですけどぉ。
たしかにコレなら身分証の代わりになるよな。ハハハハハ(汗)
お花摘みタイムを終えた俺たち4人は烏丸口を出てタクシーへ乗り込んだ。
向かった先は、前回行きそびれてしまった八坂神社である。
キロからの連絡によれば、みんなはすでに此方へ来て待っているそうだ。
集合場所は合宿をおこなう稲荷山にしてもよかったのだが、
部屋と風呂の用意はできるものの、食事は間に合わないということだった。
初日から弁当というのも味気ないだろう。
それで飲食店が多い祇園に集まって、みんなで食事をしようということになったのだ。
福岡⇔京都 はダンジョンどうしがリンクしているので、
母屋の裏にある転移台座を利用すれば、京都へも簡単に移動することができるのだ。
稲荷山にあるダンジョン・イナリへはもちろんのこと、府内数ヶ所へのジャンプアウトも可能となっていた。
ただ、こちらには転移台座の設置がないため、俺がいなければ一方通行になってしまうけどね。
八坂神社の東に隣接する丸山公園もそのジャンプアウト先の一つだ。
もちろん人の目を避けるため、ジャンプアウト後しばらくは光学迷彩が施されるようになっている。
西の楼門まえでタクシーを降りると、
おおっ、これは凄いや!
夜間にライトアップされている八坂神社はなんとも幻想的でとても綺麗だった。
さてさて、みんなはどこに居るのかな?
『どこだ』とラインで尋ねるてみると、『舞殿にいます』とキロからレスがついた。
剛志さん一家と楼門をくぐり奥へ進んでいくと、
おおぉ、これはまた……。
舞殿を囲むように取り付けられた三段提灯の鮮やかなことよ。
これは写真に撮らなければとスマホを構えていると、
「ゲンパパ~!」
メアリーが元気いっぱい飛び込んでくる。
おいおい、嬉しいのはわかるけどケガしないように気をつけてくれよ。
それに、とても人が走る速さじゃなかったぞ。これが夜じゃなかったら完全にアウトだからね。
紗月 (さつき) ・茉莉香 (まりか) ・楓 (かえで) の三人は久しぶりに会えて嬉しかったのか手を取りあってキャーキャー騒いでいる。
まあ、夜といういこともあいまってテンションが上がっているようだ。
先ほど召喚したシロとヤカンも、なにが嬉しいのか三人の周りをグルグルまわっている。
そして、この八坂神社の境内はペットOKなのである。さすがです八坂様!
まぁ本来はバッグに入れるかペットカートを使用してくれということらしいけど、うちの子たちは見えないから大丈夫。
さてさて、お参りを済ませたら急いでご飯にしますか。
そうしないと健太郎 (けんたろう) が今にも死にそうな顔でうな垂れているからね。
灰になってしまう前に何とかしてあげないとね。 立て! 立つんだケンタロー。
食事を終え、夜の鴨川散策を楽しんだ俺たちは、裏路地から伏見のお山へ転移してきた。
外はもう真っ暗なので、秘密基地のリビングに直接飛んできたのだ。
そして、さくさく部屋割りを決めたら、
水のペットボトル・ティッシュ・タオル・バスローブなどの支給品を配っていく。
足りないものや欲しいものがある場合は、明日の自由時間に駅前にて調達してもらうようお願いした。
まあ、今は各自マジックバッグを所持しているので、旅準備の方も万全だとは思うんだけどね。
スマホに関しては、
『お山だからもしかしたら電波が入り難いかも……』
まわりにはそのように説明しているらしく、こちらも特に問題はないようだ。
お次は温泉浴場へ案内し、女性たちから利用してもらった。
源泉かけ流しになっており、24時間いつでも奇麗な温泉が楽しめるのだ。
女性たちが上がってきたので、今度は男性陣が浴場へとはいった。
男同士、裸のつきあいだね。
自分の身体を洗ったあとはシロとヤカンもごしごし洗ってあげる。
目の前でプルプルされてもこちらも裸なので問題なし。
掛かり湯をした後、俺たちはゆっくりと湯舟に浸かった。
ぷはぁ~~~、いい湯だ。
「こっちの温泉はほのかに硫黄の匂いがしていいね~」
「浴槽も檜が使われていて贅沢だよね」
茂さんのことばを皮切りに、お父さん二人はいろいろと話しを弾ませている。
特に娘の話になると共感するところが多いみたい。
同じ世代の娘を持つ父親どうし話が合うんだろうね。
俺もそれとなく話を聞いていると、
「おや、興味があるのかい?」
「あ、はい。俺も向うに娘が一人いまして。まだ2歳なんですけどね」
「「あぁ~」」
お父さん二人がハモっている。
「そう、あの頃は無垢で、パパ パパと……、うううぅ」
剛志さんが目頭をおさえる。
「そうか2歳かぁ。2歳ならまだ間にあうな!」
茂さんの言葉に剛志さんもコクコクと頷きながら同意している。
えっ、なんなの?
なにが間にあうの!?
「いやね、女の子に訪れる思春期っていうのは案外早いって話だよ」
「へ~。今の子供は発育もいいですから、思春期も11歳ぐらいからですかね?」
「「…………」」
二人が揃って首を横に振っている。
「感受性の強い子なんかは小学校の低学年からだよ」
「そうそう。だから7歳を過ぎたら、一緒にお風呂とかも気をつけた方がいいよね」
代わる代わるお父さんたちが答えてくれる。
「だけど、スキンシップとかは必要でしょう?」
「あぁダメダメ。これは覚えておくといいよ、【娘三原則】」
「「見ない!・言わない!・触らない!」」
「…………」
えぇ――っ! なにそれ。
見ざる・聞かざる・言わざる的な??
「まぁだいたい8歳頃からだね。たとえ娘にせがまれても一緒にお風呂はダメだからね」
「そうそう、胸が膨らんできても鬼の心で無視するんだよ」
「脱衣場で娘の洗濯ものが見えないからって探しちゃダメだからね」
真剣に語るお父さん二人に俺はただただ頷くしかなかった。
「そして紗月のことも頼んだからね。君が向こうに帰っているときの紗月なんて、もうね……、声がかけられないくらい寂しそうな顔をしていたから」
「は、はぁ……」
「あっ、それと言っておくけど、神社の跡取りのことなんて考えなくていいからね。娘の幸せが最優先だから」
「…………」
なにかそれらしいこと言ってますけど……、やんわり押しつけてませんかねぇ?
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