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【俺はもう、大丈夫だヨ】
Episode.14 今は良かった
《🎼🍵side》
車の中。
後部座席で、ひまちゃんとみこちゃんはぐっすり眠ってる。
海ではあんなに騒いでたのに、今は静か。
🎼🌸「完全に電池切れだな」
兄が小さく笑う。
🎼🍵「……だね」
俺も笑う。
家の前に着く。
エンジンが止まると、夜の静けさが一気に戻ってくる。
🎼🌸「起こすか?」
兄が聞く。
🎼🍵「いや。起こさなくていいかなぁ」
ドアを開けて、後部座席へ回る。
ひまちゃんをそっと抱き上げる。
ずっしり。
🎼🍵「……重」
思わず小さく漏れる。
赤ちゃんの頃は、片腕で軽々抱けたのに。
今は、両腕でしっかり支えないといけない。
首に腕が回る。
無意識に、ぎゅっと掴まれる。
温かい。
成長してる。
ちゃんと。
確実に。
俺がいなくても、じゃない。
俺がいる間に、だ。
その事実が、胸の奥をじわっと満たす。
🎼🍵「成長、してるんだね」
小さく呟くと、兄が運転席から顔を出す。
🎼🌸「ほんと。あっという間だぞ」
分かっているような言い方で、そう笑う。
🎼🍵「……ありがとね、今日は」
🎼🌸「気にすんな」
少し間。
🎼🌸「無理すんなよ」
また、それ。
俺は笑う。
🎼🍵「してないって」
兄は、何か言いかけて、やめた。
🎼🌸「じゃあな」
🎼🍵「うん。またね」
別れる。
*
家の中へ。
布団に、なつをそっと寝かせる。
汗で少し湿った前髪を、指で分ける。
寝顔。
きれいだ。
頬、やわらかそうで。
まつ毛、長くて。
……お母さんに、似てきたね。ひまちゃん。
妻の顔が浮かぶ。
ひまちゃんを産んで、間もなくしていなくなった。
あの日、抱いた小さな命が、
今はこんなに重い。
ちゃんと、育ってる。
俺は、ちゃんと父親やれてるのかな。
───その瞬間。
喉の奥が、急に焼ける。
🎼🍵「っ……」
咳。
一度。
二度。
三度。
止まらない。
肺が軋む。
ぎゅうっと、内側から潰されるみたいな痛み。
慌てて、口を押さえる。
ひまちゃんを起こさないように。
🎼🍵「……っ、は……」
呼吸が、うまく入らない。
苦しい。
体が言うことを聞かない。
よろめきながら、部屋を出る。
廊下を掴みながら進む。
洗面所へ。
ドアを閉める。
やっと、手を離す。
───ポタ。
───ポタ。
赤い。
手のひらに、べったり。
血。
🎼🍵「……はは」
枯れた笑いが、喉を焼く。
鏡を見る。
顔色、最悪。
頬、こけてる。
目の下、濃い影。
痩せたな、俺。
健康体とは、もう言えない。
🎼🍵「……はしゃぎすぎたなぁ」
海。
ひまちゃんの笑顔。
みこちゃんの笑い声。
全部、楽しかった。
その代償、かな。
その場に、ゆっくり座り込む。
背中を壁につけて、
目を閉じる。
呼吸が、不規則。
吸って、止まって。
吐いて、咳き込んで。
でも。
今で、よかった。
ひまちゃんの前じゃなくて。
それだけで、十分だ。
《🎼🍍side》
数日後。
朝。
🎼🍍「行ってきます」
いつも通り。
父さんは、キッチンに立ってる。
また少し、前より痩せた気がするけど、
いつも通り、笑う。
🎼🍵「行ってらっしゃい」
声は、少しかすれてる。
🎼🍍「風邪?」
🎼🍵「ちょっとだけね」
軽く言う。
でも、夜中。
咳、聞こえた。
起きちゃったんだ。
トイレの水の音も。
大丈夫って言ってた。
父さんは、大丈夫。
そう言ってた。
だから、大丈夫。
……そう、思いたい。
もう、『大丈夫だよ』なんて。
心の底から言えてないことに、気づいてるのに。
ランドセルを背負って、玄関を出る。
振り返ると、
父さんが立ってる。
手を振る。
その姿が、少し小さく見えた。
気のせいだ。
きっと、光のせい。
学校へ向かう。
でも、胸の奥に、
小さな不安が、残ったまま。
next.♡1000
コメント
14件
代償…ねぇ…、 かなしいよぉ…、 吐血とかさ、健康体とはもう言えない…、か…
咳したら吐血しちゃうって病気がものすごく進行してるってことだよね、、 ここで何言っても変わらないけど🍵くん本当に無理しないでほしいなぁ、、、
代償かぁ……辛い(( 赫君も前まで疑念?だったのに今は確信になってるんだね……