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とにかく赴任先での業務は熾烈を極めていた。
忙しすぎた。
その為、
妻のこちらに帰って来なくてもいい、仕事に打ち込んでほしいから……の
言葉に甘えてしまった。
今更ながら8年は長過ぎた春だった?
……もとい確かに長い年月だった。
しかもその間、一度も家族に会ってない。
そんなことは重々わかっているさ。
だからって離婚?
それっていつのことなんだ?
何もかもがわからないことだらけで不安ばかりが募る。
義母に教えられた住所を疲れた身体をひきずりようやく探し当てた。
出て来たのは由宇子と彼女の従兄弟だった。
由宇子からいきなり玄関先で、泊まりはホテルを取ってほしいと
言われ俺は面くらい戸惑うばかり。
疲れていたのと話を聞かないと到底納得できない今の状況に
話を聞かせてもらおうじゃないかと言った。
「もう今日はこんな時間だし、あなたも疲れてるでしょ?
話は明日にしませんか?」
由宇子の提案で翌日訪ねることにして、俺は泊まる部屋を探した。
◇ ◇ ◇ ◇
結局最寄り駅近辺でホテルを探して宿泊した。
混乱や不安を抱えつつも、どっと襲って来た疲労感に包まれて
その夜は爆睡し、クリアーな頭と少し元気を回復した身体で
翌日由宇子の元を訪ねた。
通された広いリビングは、優に畳20畳分はあろうかと思うほど
広くて、全てが白一色という訳でもないが、ぱっと部屋を見た瞬間
白での統一感のある、そしてすぐに子供たちのいるファミリー用
なのだと分かるブランコがふたつも備え付けられていた。
そこには昨日見かけた由宇子の従兄弟の北嶋薫が
まだいた。
その北嶋に子供たちが父さんと言ってるのを聞いて俺は驚いた。
何の罰ゲームだ。
「どういうこと?」
「ここにあなたの居場所はないわ」
「何を言ってるンだ。
やっと赴任先から帰って来たと思ったら、そんな訳のわからない
ことを言って」
「私とあなたはもう7年前に別れてるの。
私が離婚届けを出してるから」
「自分が何言ってるのかわかってるのか? 何勝手なことを。
俺の意思確認もなしにそんなの無効だろ。
俺は離婚なんかしないぞ」
「あなた離婚届に署名捺印したでしょ?
あなたの意志入ってる届け出しただけ。
今更取り消しは無理よ」
「最初からそのつもりで届けにサインさせてたのか?」
「そりゃあそうよ」
「信じられない……どうして?」
「どうして?
私を……ううん、私たちを捨てて行ったからに決まってるでしょ」
「捨ててって……
単身赴任しただけだろ?
君も納得してたじゃないか」
「してない。
賛成なんて一度も言ってないし、納得したとも言ってないわ。
あなたは最後まで私の意見聞かなかっただけ。
賛成した覚えはないんだけど?」
「納得してなかったのならどうして俺に強く反対して
言ってこなかったんだ?」
「あなたの意思が固かったし、私に対する気持ちの小ささも
透けて見えたから黙ってた。
もう別れようと思っていてどうでも良かったし」
妻の台詞は胸に刺さった。
毒針のようにジクジクと刺さった所が痛かった。
こんな奇天烈な話は本当なんだろうか。
冗談? サプライズ? だかで、騙されているのではないかとさえ思った。
気持ちをひとまず抑えて俺は尋ねた。
「従兄弟は昨日泊まったのか?」
「昨夜泊まったというか、私たちは家族だから。
薫は7年前からずっと私たちとこの家で暮らしてるわ。
毎晩泊まってる」
俺は頭が痛くなってきた。
毎晩泊まってるって何だよそれ。
問答している俺たちにいつの間にか側にいた由宇の従兄弟
北嶋薫が横から口を挟んできた。
「将康さん、すみません。
俺、由宇子さんと結婚してずっとこの家で暮らしてます。
あなたの奥さんだったのに、いただいちゃってすみません」
「いただいちゃってって……いただいちゃってって……」
変な汗が流れてきた。
頭も気持ちも付いていかない。
浦島太郎のような気分だ。
沢山の貯蓄をして妻を驚かせようと……
由宇子を振り向かせようと……
喜ばせようと……
ガムシャラに8年、独りで頑張ってきたというのに。
何だこれ、この顛末……
有り得ない顛末……
俺は悪い夢でも見せられているようだった。
22-2
「ひどいだろ、こんな遣り方。
ずっと君たちのことを想っていた俺にこんな仕打ち。
何でこんな酷いことができるんだ」
「あなた被害者気取りなのね。
あなたは仕事一筋全力投球も出来たし、いい女とも
仲良くやれていい想いもしてたでしょ?
被害者面しないでほしいなぁ~
あなたと女性たちのこと、いろいろ知ってるのよ。
あなた言い逃れだけは上手かったわよねぇ~?
私が何も知らないと思ってたかもしれないけど結構
知ってるんだなっ、これが」
「赴任する前に来た手紙のことならちゃんと説明したろ?」
「あぁ、あれ? 結局あなた手紙を寄越したのが誰なのか
吐かなかったけどぉ、私はわかってたのよ?
差出人がどんな女なのか。
名前のことだけじゃないわよ?
どんな性格の女なのかっていうこともね。
とにかく、私は単身赴任で行ってしまうあなたのことで
頭を悩ませて暮らすなんて真っ平だったの。
嫌よそんな生活。
それに1度妻を裏切るような人間はまたやるのよ。
実際そうだったわけだし?
言い逃れは出来ないわよ。
証拠あるから。
「何を根拠に知ってるかぶりしてるのか知らないが君の誤解だ。
俺は誰とも浮気はしていないんだからな」