テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
深夜0時過ぎ。
部屋の電子ロックの音が小さく響き、玄関の灯りがともる。
「……ただいま」
「……おかえり」
先に帰宅していた、藤沢の声は低く落ち着いていた。
足音を立てぬよう、靴を脱いだ元貴はリビングのソファにふわりと身を沈める。
ふたりきりの部屋は、やけに静かだった。
「風呂、あとで入る……涼ちゃん、先でいいよ」
「ん、あとで一緒に入る」
「……え、あ、うん」
返された言葉に、元貴の耳がぴくりと動いた。
ソファの背にもたれて天井を見上げたまま、口元がすこしだけ緩む。
「今日の事、気をつけるから」
元貴がくしゃっと頭をかく。
「やっとわかった?」
藤沢の声は責めるでもなく、静かでやさしい。
「でも、元貴の“そういうとこ”が好きなんだよ」
「……急にそゆこと言うの、ズルい」
「今、俺たちしかいないでしょ?」
藤沢がキッチンでコップに水を注ぎ、元貴の手元に置いてから、自分も隣のソファに腰を下ろした。
そのまま、少し身を寄せる。
夜の照明がほんのりあたたかく、ふたりを包む。
「今日は、ずっと我慢してた」
「なにを」
「……元貴を、触りたい気持ち」
「っ……バカ、何言ってんの……」
元貴の耳が、途端に真っ赤になる。
「さっきの収録中、ずっと隣にいたでしょ。声も、香りも、近すぎて……大変だったんだよ?」
「……俺のせいじゃないし」
「そう。だから我慢してた」
藤沢が、静かに元貴の指先を取る。
すべてを包み込むような、少し熱を帯びた掌。
「……ねえ」
「ん?」
「涼ちゃんさ、怒ってんの?それとも……甘やかしたいモード?」
「どっちも。元貴が可愛かったから、つい構いたくなるし。……でも今日、誰かに元貴の“顔”を見せすぎてたのは……すこし、妬けた」
「……そんなん、涼ちゃんしか見てないって」
「俺は全部、独り占めしたいって思ってる」
「涼ちゃん、けっこう独占欲強いよね……」
「うん、強いよ。元貴に関しては、特にね」
藤沢の手が、元貴の顎にそっと触れる。
自然と顔が上向くように導かれ、視線が絡まる。
「……もっとこっちおいで」
「……うるさ」
そう言いながらも、元貴は観念したように身を預けた。
藤沢の膝に頭を乗せ、そのままゆっくりと目を閉じる。
指先が、優しく前髪をすくっていく。
「なにそれ、子ども扱い?……」
「元貴が甘えてきたんじゃないか」
「……ムカつくけど…安心する」
「俺も。元貴がここにいると、ちゃんと“戻ってきた”って思える」
囁くような声。
ふたりの間にある温度が、ふわりとひとつに溶けていく。
「……キス、して?」
「あれ? さっき“うるさ”って言ったの、誰だったっけ」
「…うるさいけど、してほしい、かも。……今の俺は涼ちゃん不足です」
藤沢が苦笑した。
そして身を屈め、そっと額に、鼻先に、唇を落とす。
最後に口づけたのは、唇。
触れるだけのキスが、次第に深くなっていく。
「……ベッド、行こうか」
「……やっぱ今日は、甘やかすモード?」
「何度だって言うよ。元貴は、俺にとって特別だから」
「……っ、ずる……それ、いちばん効くやつ」
元貴の声がかすれた。
それでも、その頬はどこか嬉しそうに染まっていた。
ふたりの夜は、静かにふかく、閉じていく。
名前のない関係は、こうしてひとつ、確かな愛を重ねていく。
一応これで終わりにしようかなと思ってますが…この後、こうして欲しい!とかあったら続き書きます😆
ご希望ありましたらぜひぜひに!!