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「あの、ね……」
そう前置きして元貴は話し始めた。怯えたように震えながら、目には涙をいっぱい溜めて。たっぷり時間をかけて、話してくれた。
「元貴、ごめんね……ありがとう、守ってくれてたんだね」
すっかり指先が冷えてしまった元貴を温めるように、ぎゅぅと強く元貴を抱きしめた。
元貴は我慢していたものが壊れたように、声を上げて泣き始めた。俺も元貴の涙につられて、ボロボロと涙が溢れてきた。2人して涙で体が溶けそうなくらい泣き続けた。
「ふたりとも、どうしたの……?」
元貴が休みたくないと言うので、俺たちは目を腫らしたまま収録現場に来た。今日はラジオの収録しかなくて良かった。
でも、涼ちゃんはすっごく驚いた顔をして俺たちを見た。昨日今日で目が真っ赤になってたら心配するよな。あとで話すからと一旦は収録に集中する。きっと涼ちゃんに話すと泣いてしまって収録にならない。元貴は俺に話したことで少し心が晴れたのか、今日は楽屋でマネさんとも話せていた。その姿にこっそりマネさんが涙ぐんでいたことを俺は知っている。
「それで、ふたりしてそんな目で、何があったの?」
元貴の家に3人で帰ると、すぐに涼ちゃんが聞いてきた。一日心配させっぱなしで、申し訳なくなった。俺が話そうかと元貴に目配せすると、緩く首を横に振られる。
「でも、ちょっと怖いから、手繋いでて……?」
こてりと首を傾げて見つめられ、久しぶりに甘えてくる姿に俺はちょっと感動した。
涼ちゃんの膝の上に座り、俺の手を強く握って元貴は涼ちゃんにも話し始めた。
あのプロデューサーに脅されていたこと。
俺たちやチームの人達を人質に取られていたこと。
守るために、元貴の体を要求されたこと。
体を捧げている様子が撮られていて、もう逃げられないと自棄になっていたこと。
救いだったのは、まだ中までは暴かれていないことだろうか。それでも、元貴の心は壊されていた。
話終わると、涼ちゃんは大粒の涙を流しながら元貴に抱きついていた。元貴が泣き続ける涼ちゃんの頭をぎこちなく撫でるから、余計に涼ちゃんは涙を流していた。
時計の針が1周しないぐらいで、涼ちゃんは泣き止んだ。顔を上げて元貴をジッと見つめた後俺の方を向いて口を開く。
「それで、どうする?」
いつもより一段低い声の涼ちゃんに、元貴はビクッと体を震わせる。大丈夫だよと言うように涼ちゃんは頭を撫でているが、正直怖い。
それでも、元貴を守るためには動かないといけない。
「そうだね……とりあえず、しっかり罰を受けさせる必要はあるよね」
「そう言うと思って、もういくつか証拠を押さえてるんだよね」
えッと元貴が声を漏らす。俺も知らなかった。
マネージャーさんに協力してもらったんだよねと言いながら、あの男の悪行の証拠を並べる涼ちゃんはめちゃくちゃ怖い。涼ちゃんっていうか藤澤涼架だ。
「元貴は何も心配しなくていいから、俺たちに任せて」
俺も協力したいと言う元貴に、俺たちはそれだけを言い聞かせた。明日からまた忙しくなると思いながら、元貴のベッドに3人で川の字になる。
世界が元貴に優しくなるように願って、眠る元貴を抱きしめた。