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二人でデートなんて、浮かれていた訳では無い。
それに、買いに行く物が物だけに、こうなることは至極当然の流れだったのだ。
ランドルさんが商談に向かって、宿に残されたのは私とグラディスさんとレジナルド君の三人。
剣術の手袋を買いに行くと言われれば、当然レジナルド君も行くと言い出す訳で……ええ、はい。結局三人で街を歩くことになったのでした。
「武具の店が大通りの外れにあったはずだから、そこに行ってみるか」
「お父さんもこの街に来たことがあるの?」
「ああ、ボロミアとの行き来には通る街だからな」
リベラの街の大通りは、出店も多く、活気に溢れていた。
人通りも多い為に、うっかりはぐれてしまわないようにと、グラディスさんが中心になって三人で手を繋ぐ。
私はもう慣れたものだけれど、レジナルド君はかなり恥ずかしそうにしていた。ふふ、可愛いなぁ。
武具の店で私とレジナルド君は子供用の革手袋を買った。
レジナルド君は新品の武器と防具にも興味津々なようだったけれど、今はまだ必要無いからとグラディスさんに止められてしまった。
まぁ、安い物では無いしね。買うにしても、ランドルさんと相談してからの方が良い。
ということで、今日の支払いはグラディスさんが出してくれた。レジナルド君に「有難うございます、師匠!」って頭を下げられて、少し恥ずかしそうにしていた。
武具の店を出た後は、三人で大通りの出店を回った。
どの店が美味しそうかを物色して歩いた後に、串焼きの屋台に並ぶことにした。
「やっぱり豚よりも鳥かなぁ……」
「ここは両方一本ずつだろう」
悩む私の横で、レジナルド君が何故か自慢げに胸を張る。
両方食べられればそれが一番良いのだけれど、買い終えた人が手に持っている串焼きを見るに、かなりボリュームが有りそうなんだよね。
二本も食べられるか、いまいち自信が無い。
「食べきれなかったら、お父さんが食べるよ」
「お父さんはどれくらい食べるの?」
「……二本ずつくらい?」
さすがはグラディスさん、私とはそもそも食べる量が段違いだった。
屋台に並ぶ間も、食欲をそそる匂いが辺りに漂っている。匂いにつられるようにして、次々に人が並び、列が伸びていく。
冒険者ギルドが活発な街ということだけあって冒険者の姿も多いけれど、それ以外に兵士だったり、商人だったり、親子連れなども列に並んでいる。
「おなかすいたなぁ」
「あと少しだよ」
お腹を鳴らすレジナルド君を笑顔で励ましながら、少しずつ短くなる列を詰めるように、前に前にと歩く。
いよいよ私達の番になって、グラディスさんが懐から財布を取り出しながら屋台の人に声をかけた。
「鳥串を四本、豚串は三……いや、こっちも四本で!」
あ。結局豚串も四本注文することにしたんだ~なんて後ろで眺めていたら、不意に身体がガクリと傾いた。
「……?」
誰かに突然手を引かれて、視界がぐるりと動く。
目まぐるしく景色が変わり、屋台とは別の光景が映し出されたと思ったら、突然視界がぐんと高くなった。
「えっっ」
誰かに抱え上げられたのだと気付いた時には、もう口元を布で覆われていた。
そのまま声を発することも出来ずに、運ばれてしまう。
じたばたと手足を暴れさせても、私を抱えた男はびくともしない。
ふと横を見れば、同じようにレジナルド君も横抱きにされて運ばれていた。
裏路地に入り、停めてあった馬車の荷台に放り込まれれば、間髪入れずに馬車が発進した。
御者台に誰かが乗っていたとしか思えない。
最初から、私とレジナルド君を攫うつもりで動いていたのだ。
「大人しくしていろよ」
「うぐっ」
馬車の荷台には、一人の男が座っていた。
私とレジナルド君を攫ってきた男もそれぞれ乗り込み、今この馬車には御者と三人の人攫いが居る。
男にナイフを突きつけられ、私は咄嗟にレジナルド君を庇うように彼の前に立ち塞がった。
「私達をどうするつもり?」
「そんなの、教えてやる義理は無ぇなぁ」
下卑た笑いが返ってくる。
男がナイフを突きつけている隙に、私とレジナルド君を攫ってきた二人が、私達を後ろ手に縛り上げた。暴れようかとも思ったが、既に馬車は走り出している。馬車から飛び降りるのも危険だし、目の前にはナイフを構えた男が居る。
ここで逆らうのは得策では無いと判断し、大人しく縛られ、猿轡までされるがままにした。
グラディスさんが屋台で支払いを行っている、その隙を狙っての犯行。
周囲には大勢の客が列を成していて、目撃者も多いはず。
あまりにお粗末な犯行と言わざるを得ない。
その割に、男達の態度から余裕が滲み出ているのが不可解だった。
私とレジナルド君を攫ってきた男達は、どちらも冒険者風だ。
私達にナイフを突きつけてきた男は、私服姿ではあるものの、明らかに荒事に慣れた様子。
「こんなガキじゃ、楽しむもんも楽しめねぇなぁ」
「そう言うな。とにかくあいつの子供を連れてこいって指示だからよぉ」
男達の言葉に、ゾクリと寒気が走る。
この男達は、特定の子供を狙って攫ってきた?
あいつの子供とは、私とレジナルド君が攫われたことからして、グラディスさんに間違い無いだろう。
グラディスさんの子供を攫う、その理由。
普段よりも関所のチェックが厳しくて、彼が難しい表情を浮かべていたことを思い出す。
もっと警戒するべきだったのか。今更ながらに後悔の念が押し寄せてくる。
国境を越えるより先に、デインズ家の追っ手に捕まってしまったのだろうか。
どうして、私がグラディスさんと行動を共にしていることがバレたのだろう。
なぜレジナルド君まで一緒に攫われることになってしまったのだろう。
幾つもの疑問が浮かびはするが、猿轡で言葉を封じられては、男達に問い質すことさえ出来ない。
縄で縛られ、馬車の荷台に揺られながら、ただ自分を攫ってきた男達を睨み付けるのだった。
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千椛