テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
下りの通路は、思った以上に長かった。
緩やかな傾斜が続き、気を抜けばそのまま滑り落ちてしまいそうになる。
だが、不思議なことに――進めば進むほど、視界は明るくなっていった。
「……増えてるな」
壁に目をやる。
発光する苔。
それが、明らかに増えている。
最初に見つけた場所とは比べ物にならないほど、広範囲に広がっていた。
ぼんやりとした緑の光が、通路全体を包み込む。
暗闇だったはずの場所が、今では薄明るい。
歩くのに支障はない程度には、見える。
「……都合がいいな」
ぽつりと呟く。
まるで、進む先を照らしているみたいだ。
そんな考えが、頭をよぎる。
誰かが、意図的に。
いや、そんなはずはない。
ここに人の気配はない。
それでも――
“導かれている”。
そんな感覚が、消えなかった。
足を止める。
振り返る。
来た道は、すでに薄暗い。
苔の光は、進行方向に向かうほど強くなっている。
「……気のせい、か」
自分に言い聞かせるように呟き、再び前を向く。
今は進むしかない。
それだけだ。
しばらく進むと、通路は開けた。
小さな空間。
天井は低く、圧迫感がある。
その中央――
何かが、散らばっていた。
「……骨?」
近づく。
白く乾いたもの。
人のものだと、直感で分かった。
頭蓋骨、肋骨、腕。
ばらばらに散らばっている。
そして、その周囲には――
壊れた装備。
折れた剣。
ひび割れた盾。
朽ちかけた革鎧。
ここで、何かがあったのは明らかだった。
「……やられた、のか」
喉の奥が、わずかに乾く。
ここは安全じゃない。
改めて、そう理解する。
その時だった。
カツン、と音がした。
硬いものが、石を叩く音。
反射的に、顔を上げる。
そこに――いた。
「……っ」
岩陰から、ゆっくりと現れる影。
横に広い体。
硬そうな甲殻。
鋭く光る二本のハサミ。
脚をカツカツと鳴らしながら、こちらへと近づいてくる。
「カニ……か」
言葉が、自然に出た。
だが、普通のカニではない。
人の胴体ほどもある巨体。
そして、その目は――明確に、こちらを“獲物”として捉えている。
距離が縮まる。
カニの魔物が、ハサミを持ち上げた。
振り下ろされる。
――速い。
だが。
俺の体は、迷わなかった。
踏み込む。
横へ。
わずかにずらし、攻撃を外す。
そのまま、腕が動く。
刀が、自然に振るわれる。
甲殻の隙間へ。
狙いすましたように。
ザン、と手応え。
カニの動きが、一瞬止まる。
次の瞬間、体が崩れた。
脚がばらばらと力を失い、その場に倒れ込む。
「……え?」
思わず声が漏れた。
今の動き。
考えていなかった。
体が、勝手に動いた。
最適な位置に入り、最適な角度で斬った。
まるで――何度も繰り返したかのように。
「……なんで」
刀を見つめる。
震えはない。
恐怖も、ほとんど感じていない。
ただ、違和感だけがあった。
記憶はない。
なのに、戦える。
それも――かなり慣れている。
「俺は……何なんだ?」
答えは出ない。
だが、一つだけ分かることがある。
ここでは、戦えなければ死ぬ。
それだけだ。
倒れたカニの魔物を一瞥し、俺は再び前を向いた。
光は、さらに奥へと続いている。
まるで――誘うように。
俺は、歩き出した。
違和感を抱えたまま。
その正体も知らずに。
コメント
1件
おお、第3話読んだよ! この“導かれてる感”と、主人公の体が勝手に動く違和感、めっちゃ気になる展開だわ。カニの魔物との戦闘、描写がリアルで一瞬で情景浮かんだ。それにしても「何度も繰り返したかのような動き」って、過去になんかあったっぽくて……続きが気になる! この不気味な明るさと、進むほど強くなる違和感、うまいなあ🔥