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気づけば、土方の足はあの場所へ向かっていた。無意識だった。
言い訳も、理屈もない。
人気のない路地を抜け、見覚えのある建物の前に立つ。
外観は質素で、どこにでもある古びた家屋。
(こんな所に……)
あの数日間。
閉じ込められ、叩きつけられ、告げられた言葉。
「好きだ」と。
銀時の怒り、焦り、悲しみ。
そして今日、石畳に落ちた涙。
土方は目を伏せる。
(あいつは……どんな顔でここに立ってたんだ)
しばらく考え込んだあと、土方はゆっくりと扉に手をかけた。
軋む音。
自分が監禁されていた、あの部屋。
自らの意思で足を踏み入れる。
薄暗さも、冷たい空気も、変わらない。
部屋の中央に立ち、ぼんやりと天井を見上げる。
鼓動だけがやけに大きい。
どれくらいそうしていたか。
背後で、扉が開いた。
「……なんでお前がここに…」
振り返る。
そこにいたのは、
銀時だった。
驚きと困惑が混じった顔。
その表情を見た瞬間、土方の胸に得体の知れない感情が溢れた。
怒りでもない。
恐怖でもない。
罪悪感でもない。
それでも、胸を締めつける何か。
土方は無意識に立ち上がり、銀時へと歩み寄る。
一歩。
また一歩。
「土方……?」
声が震えているのは、どちらだったか。
気づけば、視界が滲んでいた。
頬を伝う熱。
「……っ」
止めようとしたのに、止まらない。
「すまねぇ……」
ぽつりと零れる。
自分でも、何に対して謝っているのか分からない。
「すまねぇ……すまねぇ……」
繰り返す。
何も悪くなかったはずだ。
攫われたのは自分。
閉じ込められたのも自分。
それなのに。
目の前の男を傷つけた気がして。
拒絶したことが、胸を抉る。
銀時は呆然と土方を見つめていた。
やがて、そっと腕を伸ばす。
優しく。
壊れ物に触れるように。
土方を抱きしめた。
「……謝んなよ」
低く、囁く声。
温もりが、背中に回る。
土方はその胸に顔を埋め、泣き続けた。
嗚咽が、静かな部屋に響く。
その視界の外で。
銀時の表情が、ゆっくりと変わる。
涙に濡れた副長を抱きしめながら。
誰にも見えない位置で。
口元が、歪む。
――まるで。
狙い通りだった、とでも言うかのように。
薄暗い部屋の中。
「愛情」という名の、目には見えない拘束具が土方には着いていた。