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#しーちゃんの小説コンテスト
めんだこ🤍🐙✨️
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(株)姫神V
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研究所の襲撃から三日。
港町には穏やかな朝が戻っていた。
「セト、おはよう。」
「おはよう、ルル。」
食堂にはいつものように笑い声が響く。
「セトくん! 魚さばくの上手くなったね!」
「ありがとう、ございます。」
最初は包丁すらまともに持てなかったセトも、今ではルルの手伝いをしながら少しずつ料理を覚えていた。
そんな平和な時間は、一人の来客によって静かに崩される。
昼過ぎ。
食堂の扉が開く。
「いらっしゃ……」
ルルの言葉が止まった。
店の入口には、一人の男性が立っていた。
黒いスーツ。
銀色の髪。
眼鏡の奥の冷たい瞳。
セトの顔から一瞬で血の気が引く。
「……博士。」
店内が静まり返る。
博士は静かに店内を見回した。
「久しぶりだね、セト。」
セトは無意識にルルの後ろへ隠れる。
身体が震える。
ルルは一歩前へ出た。
「帰ってください。」
博士は穏やかな口調で答える。
「今日は捕まえに来たわけではない。」
「話をしに来ただけだ。」
「信用できません。」
「当然だろう。」
博士は否定しなかった。
博士は店の隅の席へ座る。
「少しだけ時間をくれないか。」
ルルは警戒したまま頷く。
セトはルルの隣に座り、小さく袖を掴んでいた。
「……怖い。」
ルルはその手をそっと握る。
「大丈夫。」
博士はその様子を静かに見つめていた。
「セト。」
「君は私を恨んでいるか。」
その問いに、セトは俯いた。
答えは決まっていた。
「……うん。」
「痛かった。」
「苦しかった。」
「ずっと、一人だった。」
声が震える。
「僕を……番号でしか呼ばなかった。」
博士は黙って聞いていた。
反論はしない。
「……そうか。」
その一言だけだった。
「だが、一つだけ伝えたい。」
博士は静かに眼鏡を外す。
「私は君を拾った日のことを覚えている。」
「雪の日だった。」
「君は三日間何も食べていなかった。」
セトは驚いた。
博士が昔の話をするのは初めてだった。
「私は……」
博士は苦しそうに目を閉じる。
「最初は、本当に君を育てようと思っていた。」
「家族として。」
ルルは眉をひそめる。
「だったら、どうして。」
博士は小さく息を吐いた。
「私には病気の娘がいた。」
「……え?」
「治療法のない病だった。」
セトもルルも息を呑む。
「娘を救う方法を探しているうちに、人間と動物の細胞融合研究へ手を出した。」
「そして、研究は次第に暴走した。」
博士は拳を握る。
「私は研究者であることを優先し、人として大切なものを見失った。」
店内は静まり返っていた。
「君を家族として見ることができなくなった。」
「実験体としてしか見られなくなった。」
その声には後悔が滲んでいた。
セトはゆっくり立ち上がる。
博士の前まで歩き、静かに尋ねた。
「……僕は。」
「一度でも。」
「息子だった?」
博士は震える声で答えた。
「……ああ。」
「君を初めて抱き上げた日は、確かにそう思っていた。」
「だが、その気持ちを私自身が壊した。」
セトの瞳から涙がこぼれる。
「だったら……。」
「どうして途中でやめてくれなかったの。」
「どうして助けてくれなかったの。」
博士は何も答えられなかった。
その沈黙こそが、答えだった。
ルルは静かにセトの肩へ手を置く。
「セト。」
セトは涙を拭き、博士を見る。
「僕は……もう研究所には戻らない。」
「ここが僕の家だから。」
博士はゆっくり頷く。
「分かっている。」
そして立ち上がる。
「今日は、それを聞きに来ただけだ。」
店を出ようとした、その時。
博士は振り返らずに言った。
「研究所には、私以外にも君の能力を狙う者がいる。」
「私が止めている間はいい。」
「だが、私が止められなくなれば……。」
ルルの表情が険しくなる。
「どういう意味ですか。」
博士は小さく笑った。
「私はもう、長くない。」
そう言い残し、博士は静かに店を後にした。
夕暮れ。
港に立つ博士を、一人の男が迎える。
「所長。」
黒いスーツ姿の男だった。
「理事会が決定しました。」
「あなたは研究責任者を解任です。」
博士は静かに空を見上げる。
「……そうか。」
「そして新たな責任者は。」
男は冷たく告げた。
「捕獲部隊統括──神代 鷹真(かみしろ・たかま)。」
「実験体No.0124は、生死を問わず回収するとの命令です。」
博士はゆっくり目を閉じた。
「最悪の男が動き出したか……。」
港町に吹く風は穏やかだった。
しかし、その風は新たな嵐が近づいていることを、誰にも告げることなく静かに流れていた。
――中編・前半、完。
(ここから中編後半では、神代率いる部隊との戦い、博士の贖罪、そしてセトとルルの恋愛が大きく進展していきます。)
コメント
1件
読み終えました。第八章、凄く重くて美しい回でしたね。 セトが「痛かった」「苦しかった」「一人だった」と震えながら伝えるシーンは心臓がぎゅっとなりました。そして博士が「君を初めて抱き上げた日は確かにそう思っていた」と認めた瞬間、ああこの人は本当にどこかでセトを息子だと思っていたんだな、と。でもそれを自分で壊したという自覚があるから、なおさら苦しい。 それにしても新キャラ・神代の登場。生死を問わず回収って……次の展開が想像できて怖いです。博士の「長くない」という言葉も気になりますね。この穏やかな港町に、もう嵐が来るんですね。続きが待ち遠しいです。