テラーノベル
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朝焼けが港町を淡い橙色に染めていた。
潮の香りとカモメの鳴き声が響く中、セトは白衣の袖をまくり、魚を運んでいた。
「ルル、これで最後。」
「ありがとう、セト!」
ルルは笑いながら魚の入った木箱を受け取る。
「最近ほんと頼りになるな。」
「……そうかな。」
照れたように頬をかくセトの長いポニーテールが、海風に揺れた。
青から水色へと溶けるような髪。
同じ色合いの狼耳がぴくりと動く。
帽子を被っていても、ルルと二人きりの時は隠さない。
「そうだよ。」
ルルは優しく笑う。
「最初は包丁も持てなかったのに。」
「今じゃ俺より魚さばくの上手いし。」
「それは……ルルが教えてくれたから。」
その言葉に、ルルは少し照れて視線を逸らした。
「そういうことサラッと言うなよ……。」
「?」
「……いや、何でもない。」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
そんな穏やかな時間が、いつまでも続くと思っていた。
港から少し離れた丘。
黒い高級車が静かに停まる。
助手席から降りた男は、鋭い目つきで町を見下ろしていた。
短く切り揃えられた黒髪。
黒いコート。
そして右目には古い傷跡。
男の名は――神代鷹真。
新たな研究責任者であり、特殊回収部隊の指揮官だった。
「ここか。」
双眼鏡を覗く。
画面の先には、笑い合うセトとルル。
神代は眉一つ動かさなかった。
「……これが実験体No.0124。」
助手が資料を差し出す。
「能力は陸上戦、水中戦ともに最高ランク。」
「ただし精神状態は安定。」
「保護対象と一般人との交流により、情緒が大きく発達しています。」
神代は資料を閉じる。
「だからどうした。」
「感情など任務には関係ない。」
冷たい声だった。
「確保する。」
「それだけだ。」
その日の夕方。
セトは海で泳いでいた。
海に入ると下半身は鮫の姿へと変わる。
銀青色の尾びれが水面を切り裂く。
(気持ちいい……。)
研究所では泳ぐことさえ観察対象だった。
でも今は違う。
誰にも命令されない。
自由な海。
自由な時間。
自由な自分。
「セトー!」
岸からルルが手を振る。
「夕飯できるぞー!」
「今行く!」
笑顔で返事をした、その瞬間。
セトの耳がぴくりと動いた。
(……?)
海中に、何かある。
人工的な金属音。
低いモーター音。
「……!」
次の瞬間、水中から黒い影が飛び出した。
「捕獲開始。」
海中用ドローンだった。
鋼鉄のワイヤーがセトへ向かって伸びる。
「セト!!」
ルルが叫ぶ。
セトは反射的に潜る。
だが、水中ではドローンの方が速い。
(逃げきれない……!)
その時。
ドォン!!
海面が大きく爆ぜた。
漁船だった。
源じいが船を横付けし、ドローンへ体当たりしたのだ。
「何しとるかぁ!」
「うちの海で勝手なことするな!」
ドローンはバランスを崩し、岩へ激突する。
ルルは海へ飛び込んだ。
「セト!」
「ルル!」
セトは人の姿へ戻り、ルルに抱きつく。
「大丈夫か!」
「うん……。」
だが、その様子を丘の上から神代が静かに見ていた。
「住民が介入するか。」
「想定以上だな。」
彼は無線を取る。
「作戦変更。」
「正面からの回収は中止。」
「対象を孤立させろ。」
「一般人には手を出すな。」
助手が驚く。
「しかし、それでは……。」
「感情は最大の弱点だ。」
神代は双眼鏡越しにルルを見つめる。
「セトを捕まえたければ、ルルから引き離せばいい。」
数日後。
食堂に一本の電話が鳴る。
「もしもし?」
ルルが受話器を取る。
『港沖で漁船が故障した!』
『応援を頼む!』
「分かった!」
ルルは慌てて準備を始める。
「セト、少し留守番頼む!」
「うん!」
ルルは漁船へ向かって走っていった。
しかし、それは罠だった。
港を離れたルルの船を、神代は双眼鏡で確認する。
「成功。」
静かに立ち上がる。
「今なら、実験体は一人だ。」
その頃、食堂では。
セトは一人で皿を洗っていた。
カチャ、と食器を片付けながら、ふと窓の外を見る。
(……ルル、遅いな。)
胸が少しざわつく。
嫌な予感。
狼耳が小さく震えた。
「こんばんは。」
店の扉が静かに開く。
セトは笑顔で振り返る。
「いらっしゃ……。」
その笑顔が消えた。
立っていたのは神代だった。
「初めまして。」
「実験体No.0124。」
セトは一歩後ずさる。
「……僕は。」
震えながらも、神代を見据える。
「セト。」
「そう呼ばれているらしいな。」
神代は店内へゆっくり足を踏み入れる。
「安心しろ。」
「今日は暴力を振るうつもりはない。」
「少し話をしよう。」
セトは逃げ道を探すように辺りを見回す。
ルルはいない。
源じいたちも海へ出ている。
食堂には、自分と神代の二人だけだった。
神代は静かに椅子へ腰掛ける。
「座れ。」
「……嫌。」
「そうか。」
神代は小さくため息をつく。
「なら、立ったままで構わない。」
彼はポケットから一枚の古い写真を取り出し、テーブルの上へ置いた。
「これは……君がまだ五歳だった頃の写真だ。」
そこには、幼いセトを肩車して笑う若い博士の姿が写っていた。
セトは目を見開く。
「……これ。」
「知らなかっただろう。」
神代は静かに言う。
「君が知らない真実を、私は話しに来た。」
店の外では、海風が暖簾を静かに揺らしていた。
そして遠く沖では、ルルの乗った漁船が、まだ帰港していなかった。
コメント
1件
くぅ〜〜〜!!第九章、めっちゃエモくてヤバかった😭💕 前半の海辺の日常とセトの笑顔、ルルとの温かいやり取りがもう…尊すぎて胸がギュッてなったよ!! そこから一転、神代の登場で空気が凍る感じ、鳥肌立った…。 ドローンからの追跡シーン、源じいの体当たりでちょっと涙出たw 守られてる感が沁みる… 最後の「君が知らない真実」って…次の話が待ちきれないよォ!!! #推し発見
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(株)姫神V
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