最後の朝。
私は、水辺の道を歩いていた。
ジェイドに会わないように、こっそり抜け出す。
あの人の顔を見たら、きっと……泣いてしまうから。
けど――
「……ユメ」
その声は、どうしても、優しすぎて。
「……どこへ行くつもりですか?」
振り返ると、そこにいたのは、
いつもと同じ、でもどこか苦しげな顔をしたジェイドだった。
「……推しにフラれ続けたので、姿を消すことにしました」
そう言った私の声は、情けないくらい震えてた。
「もう、限界。どれだけ好きって言っても、届かないなら……」
「ユメ」
彼が一歩、近づいた。
「ダメです」
「……え?」
「あなたがいなくなるのは、ダメです」
その目は、今まで見たことのない、強い色をしていた。
「僕は……自分があなたを好きだということに、ずっと気づいていませんでした」
「……うそ」
「いいえ、本当です。気づいたのは、
あなたがいなくなる夢を見た夜。
僕は、泣きながらあなたを呼んでいた」
言葉の一つ一つが、胸に、ずしんと落ちてくる。
「……バカじゃん……」
「はい。まったく、どうしようもないくらいに」
彼の手が、私の頬に触れた。
優しくて、あたたかくて、
その指先に触れた瞬間――
私は、やっと。
やっと、泣いた。
「じゃあ、142回目の告白」
「はい」
「ジェイド、好き。付き合ってください」
「……はい、喜んで」
推しが、
私の恋人になりました。