テラーノベル
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サビ組事務所の重い扉をくぐった瞬間カラスバはシオンを腕に抱いたまま迷わ ず休憩室へ足を踏み入れた。
薄暗い室内に、消毒液と古い革の匂いが混じる。
ベッドにそっとシオンを下ろすと彼女の息はまだ浅く、熱っぽい。
「鼻血は止まったけど、熱は下がらんな……」
カラスバは額に手を当て、熱を確かめていると ふわりとシオンのいつもの甘い匂いとは違う──男物の香水の残り香が、鼻先を掠めた。
「………」
無言のまま、ジャケットの内ポケットから自分の香水を取り出し シオンの首筋と髪に軽く吹きかける。
次に自身のジャケットを脱ぎ、シオンの体に被せるように置く。
そして布団を丁寧にかけ直す。
〖ヂャモモ……〗
〖ギャピ♪ギャピピッ♪〗
アチャモは引いた顔でカラスバを見つめ、ペンドラーは相変わらず嬉しそうに身体を揺らしている。
しばらくすると、ドアが静かに開きジプソがミミッキュの着ぐるみを被ったエムリットを連れて入ってくる。
「すまんな、今日はこっちで作業するさかい」
「かしこまりました。マスカット様にもそのように伝えておきます」
ジプソは一瞬、風邪がうつるのではないかと心配そうな視線をシオンに向けたが、すぐに思い直した。
こんな時でなければ、カラスバはシオンと過ごす時間を作らないだろう──そう思い静かに頭を下げ、その場を去った。
シオンの周りには、アチャモたちが群がっている。
リザードンが優しく頭を寄せ、 心配そうに彼女を見つめている。
「此奴が熱出るなんて、珍しいもんな……」
リザードンの大きな頭を撫でながら、カラスバは小さく呟いた。
その時、再びドアが開き視線を向けるとアザミが両手にレジ袋を抱えて立っていた。
「とりあえず、いつもの病院からの薬と…あとリンゴとかゼリーとか買ってきたから。姉さん起きたら食べさせてね」
「ありがとさん。あと、丁度お前に少し聞きたいことがあるんや」
「何、仕事?」
「ちゃう。お前のにーちゃんについてや。アンヴィとか言う」
アザミの瞳が、ぱっと見開かれた。
「アイツと会ったの?」
「彼奴がシオンを抱いて歩きよって、そこで鉢合わせたんや。その様子やと、兄っちゅーんはマジなんやな」
「うん……といっても、最近知り合ったばかりだけど……」
アザミは静かに話し始めた。
アンヴィは18歳の時に施設を出て、シンオウ地方で任務をしていたこと。
4年前、首の装置が外れたのを機に、唯一の家族であるシオンたちを探し続けていたこと
そして兄妹感の事だからカラスバに話す必要はないと思い、話さなかったと
「……なるほどな。やけど、お前達はアンヴィとは面識ないんやろ?」
「私も姉さんも、覚えてなくて。なにせ私たちより上の兄妹は施設内で暮らしてた部屋が違かったし」
「ほうか。まぁ今んとこ、怪しいヤツではないんやろ?ちょっとデリカシーないだけで」
「え、あの人もしかしてなんか気に障るようなこと言った?」
若干怒ってる様子のカラスバを窘めたあと、 アザミは立ち上がり、冷蔵庫に買ってきたものを丁寧に収めていく。
「とりあえず、姉さんの事はよろしくね。仕事の事は任せといて」
そう言ってシオンを優しく見つめた後、アザミは休憩室を後にした。
部屋に残されたのは、カラスバとシオン、そしてポケモンたちだけ。
しんどそうに息をするシオンの頬をそっと指で撫で少し見つめたあと 首筋に、ゆっくりと唇を寄せる。
───チュ
小さな音が、静かな部屋に響いた。
唇を離すと赤い跡がくっきりと残っていた。
その跡を親指で優しくなぞる。
「…お前はほんま危なっかしいからな」
掠れた声で呟き、シオンから少し離れ ベッドの端に腰を下ろし、彼女の寝顔をじっと見つめた。
熱で赤らんだ頬。弱々しい息。
なのに、どこか安心したような表情。
そんなシオンに対し、つい欲情が湧いてしまい慌ててそれをかき消す
「(あかんあかん、病人やぞ!何考えとんや阿呆!!)」
そう思いつつも、シオンの手を握りそっと額に自分の額を寄せる。
「はよ治しや」
熱い体温が、互いに伝わる。
静かな部屋に、二人の息遣いだけが重なる。
アチャモとエムリットはシオンのすぐ側で横になり、ペンドラーはカラスバの後を追いかける。
リザードンはその様子を静かに見守った。
コメント
2件
カラスバさんスパダリ!!今自分はバレンタインに渡すマカロン試作中!