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こはる
97
「――それで、家庭教師って何ですか?」
食べるものも食べ終え、あとはお茶を飲むだけ。
セミラミスさんの様子を眺めながら、私は聞いてみることにした。
「えっ……? あ、あの……。
グリゼルダ様……? アイナ様には何も……?」
「うむ、何も伝えておらんぞ」
「ひっ……」
セミラミスさんはおどおどした表情でグリゼルダの顔を窺った。
うーん。立場や格が違うのは分かったけど、何ともやり難いなぁ……。
でも実際、彼女たちの中では……この上下関係は、絶対に譲れないものなのだろう。
「もし説明し難ければ、グリゼルダの方からしてもらいますけど……」
「それでも良いんじゃが、セミラミスにも会話に慣れて欲しくてのう」
「説明してくれたら『竜の秘宝』を差し上げますよ」
「なんと!? ……仕方あるまい。妾が説明してやろう♪」
好物のお酒がもらえると聞いて、グリゼルダは上機嫌で意見を撤回した。
しかし話の発端はグリゼルダのようだし、それこそ本人から説明するのが筋だと思うんだけど……。
「改めて紹介しよう。こやつは氷竜のセミラミスじゃ。
ここから東、海を挟んだ大陸に住んでおる」
「え? グリゼルダは一週間で、そんなところまで行ってきたんですか?」
「ふふふっ。たまには飛びたくなってのう。
妾の力も多少は戻ってきたから、ちょっぴり試してみたんじゃよ」
「へー……。
船ではまだ誰も渡っていないのに、それを飛び越えて、空からかー……」
「おう、そう言えばそうじゃな。
ちなみに向こうの港町でも、この街のことは噂になっておったぞ?」
「あ、そうなんですか。
さすがにもう、何か月も経っていますからね」
「酒場で情報収集をしたところでは、やはり興味を持っている者が多かったのう。
しかし元締めが保守的――変化を嫌う人間のようでな。まだ交渉の途中で、良い返事をしていないそうじゃ」
「確かポエールさんも、そんなことを言っていましたね……。
なるほど、それじゃその人をどうにかすれば、どうにかなるのかな?」
「必要があれば、妾がまたひとっ飛びしてきても良いぞ?
駄賃は必要になるが、気安く相談すると良い♪」
「……高く付きそうですね」
とは言え、『竜の秘宝』の一本で済むとなれば、それはお安い話だ。
船で渡るとなれば|人手《ひとで》もいるし、そもそも船がいるし――
……って、あれ?
「そういえば、向こう側には港町があるんですね?
こっちは全然、そんなのは無いのに」
「ああ、海の難所と言われていたのはこちら側が原因じゃったからな。
向こう側は、他の港町との交易が活発なんじゃよ」
「おぉー……。となると、最初のひと山さえ越えれば、この街にも一気に人が来そうですね!」
「うむ。……ただし、こちらから出すものがあればな。
ここには産業があるわけでもないし、人口もまだ少ない。それに、王国とは袂を分かっておるからのう……」
「あー、それはポエールさんにも言われました。
それで結局、私が輸出用の何かを作ろうって話になっているんですよね」
「ほう、それは良いな。
『竜の秘宝』以外なら、どんどん作ってしまっても良いぞ。
ほれ、酒のレシピもいろいろと教えてやったじゃろ?」
「2、3は作ってみたんですけど、まだ本格的には作っていないんですよね……。
味の評価を聞いてみたいので、あとでグリゼルダに飲んでもらうことにしましょう」
「うほっ♪ さすがアイナは話が分かるのー♪」
「そんなわけで、まずはセミラミスさんの話からお願いします」
「おっと、そうじゃったな。
えぇっと、どこから話すべきか……」
「最初からで良いですよ?
今日はもうやることは無いし、夜まで語ってもらっても大丈夫です」
「いやいや、さすがにそんな長くは掛からんからな。
……まぁ簡単に言うと、アイナに強くなってもらおうかと思ってのう」
「え?」
「妾も最近、いろいろと忙しかったじゃろ?
……あまりアイナの相手もしてやれんかったし」
グリゼルダには人魚の島にいてもらっているから、会える時間は以前よりもかなり少なくなっている。
たまに会っても、楽しく過ごして終わることが多かったかな。
「そうですね……。以前、変化の魔法も教えてくれるって言っていましたし。
もしかして、そういうところからの家庭教師……ですか?」
「そういう上位の魔法であれば、やはり妾が教えてやるんじゃがな。
ほれ、これからアイナがどうなっていくか分からんじゃろう?
今は仲間がおるから、平穏には過ごせているのじゃが」
「そうですね……。
人生、上手くいく時期もあれば、悲惨な時期もありますし……」
「ひ、悲惨……っ」
私の口から出た否定的な単語に、セミラミスさんが速攻で反応した。
いやいや、そんなところは敏感でなくて良いですから。
「私もそれなりに強くなりましたけど、応用が利きませんからね。
射程が短いですし、あとは効果が偏っているというか……」
「そもそも相手を素材に見立てているわけじゃからのう。
そんなことをしてしまえば、その相手は死ぬしかあるまいて♪」
「ひ、ひぃ……っ」
「グリゼルダ? セミラミスさんが怖がっていますよ?」
「ふふっ。実際のところ、アイナの錬金術は凶悪じゃからな」
「錬金術以外では――私の場合は、魔法ですか。
氷と水の攻撃魔法に、あとは便利な魔法を少々……」
「そこなんじゃよ。
その辺りの魔法が増えないから、少し量を増やそうと思ってのう」
「なるほど、セミラミスさんは魔法の先生なんですね!」
「うむ、アイナの魔法適性とも合っておるじゃろう?
ただ、そこまでの話であれば、セミラミスである必要は無いんじゃよ」
「ふむ? ……と、言いますと?」
「いや、他の者に教われば良いじゃろ?」
「え? ま、まぁそうですけど……」
……確かに魔法を教えてもらうのに、わざわざ氷竜を捕まえてくる必要は無い。
高位の魔法まで教えてくれるのであれば、最初からずっと見てくれるのは効率的かもしれないけど――
「実はこやつな、ユニークスキルを持っておるんじゃよ」
「えっ、凄い!!」
その言葉に、私は強く反応してしまった。
ユニークスキルは私も持っているけど、それ以外で持ってる人を、私はシェリルさんしか知らない。
ちなみにシェリルさんは……私の想像だと、『創造才覚<魔法>』のようなものを持っているはずだ。
「で、でもアイナ様は……5個も、持っているんですよね……?」
「セミラミスよ、こやつは規格外じゃぞ?
何せ、絶対神アドラルーンの加護を受けているんじゃからな」
「ひ、ひぃっ」
「ほらほら。そういうことを言うと、また怖がられちゃうじゃないですか。
それでセミラミスさんのユニークスキルって、どんなのなんですか!?」
「あ、あの……。あんまり大したものでは無いんですけど……」
「まぁ、弱いがな」
「うぅ……」
セミラミスさんの控えめな言葉に、グリゼルダの容赦ない言葉が飛んだ。
グリゼルダ―。少しは空気を読んでくださーい。
「でも、強い弱いで言ったら、私の『収納スキル拡張』だって弱いですよ?
スキルなんて使い方次第なんですから、もっと自信を持ってください!!」
「あ、ありがとうございます……。
アイナ様、一生付いていきます……」
「お、良かったのう。ドラゴンの仲間を獲得じゃ」
「えぇー……」
……仲間になってくれるのは嬉しいけど、何だか見せ場もなく仲間になっちゃったよ?
あれ? ドラゴンなんだよね? こんなに簡単に仲間になって良いの?
「さて、セミラミス。話を続けるのじゃ」
「は、はい……。
私のユニークスキルは……『魔法理論合成』というもので……。
あ、これは学術系のスキルなんですが……」
「理論……。私の、苦手そうなところですね……」
名前を聞いてもよく分からない。
ユニークスキルの名前って、分かりやすいのと分かり難いのがあるよね……。
「アイナは実践主義じゃからのう。
『魔法理論合成』はな、すでに存在する魔法系統の理論を掛け合わせて、新たに構築するスキルなんじゃよ。
まぁ、そもそも不可能なものは合成できないがな」
「へー。例えば火と水の魔法を合成する……みたいな感じですか?」
「うむ、大体はそんな感じじゃ。
それでな、『魔法理論合成』の優れたところは、片方が魔法であれば働いてくれるんじゃ」
「へー? よく分からないですけど、凄い……んですか?」
「そっ、そうですよねっ、申し訳ありませんっ!?」
……おっとこれは失言だ。
セミラミスさんを凹ませてしまった……。
「ああ、すいません。そういうつもりでは無かったんですけど……!
あ、お菓子食べます?」
そう言いながら、アイテムボックスから『きんつば』を出してあげた。
凹んだときは甘いもの。これは、どこの世界でも共通なのだ。
「お、恐れいります……。
ああ、これはグリゼルダ様が延々と自慢していた逸品の……!!
――お、美味しいっ!!」
早速『きんつば』を口に運んだセミラミスさんは、目を輝かせて喜んだ。
……ドラゴンって餌付けをするの、結構簡単そうだよね……。餌がいつも良すぎるのかな……。
「それでな、アイナの場合は――ほれ、錬金術があるじゃろ?
これをもう少し、魔法体系化できないかと思ってな」
「ほぇ……?」
グリゼルダの言葉に、私は意表を突かれてしまった。
錬金術と――魔法? 何だか近いようで、近くないような感じだからなぁ……。
……合成するって、一体どんなイメージなんだろう……。
コメント
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うわあああ新キャラ・セミラミスさん来たああ!!🌸💕「一生付いていきます」って即仲間になるの可愛すぎるし、グリゼルダの「弱いがな」の容赦なさに草生える😂✨ でも「魔法理論合成」ってユニークスキルめっちゃ気になる…!アイナの錬金術×魔法ってどんな化学反応起きるんだろ…ワクワクが止まらんよ〜!