テラーノベル
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扉が、きぃ……と静かに開く。
逆光の中に立っていたのは、小柄な少年。
制服はこの学校のものなのに、どこか古びて見える。
そして――笑っている。
やけに、楽しそうに。
「やっほー」
軽い調子で手を振る。
「呼んだの、君でしょ?」
ゆうなは言葉を失う。
(……人だ)
さっきまでの“あれ”とは、決定的に違う。
息をしている。
ちゃんと存在している。
視線が、合う。
「……お前……誰……」
やっと絞り出した声。
少年はくすっと笑って、部屋の中へと入ってくる。
まるで自分の場所みたいに、自然な足取りで。
「名前くらい、ちゃんと聞いてよ」
少しだけ首を傾げて――
「つかさ。よろしくね」
その瞬間。
放送機材のランプが、一斉にチカチカと瞬く。
ザー………
ノイズが走る。
ゆうなの背筋に、ぞくりとした寒気が走った。
(……こいつ)
(普通、じゃない)
確かに“人の形”はしている。
でも――
“さっきの声”と、同じ匂いがする。
「……お前……」
一歩、後ずさる。
「……あれと同じか……?」
つかさは一瞬きょとんとして、それからぱっと笑った。
「あれ?」
くすくす、と喉の奥で笑う。
「あー、廊下のやつら?」
まるでどうでもいい話みたいに言う。
「違うよ。あんなのと一緒にしないでよ」
その言い方は、妙に軽くて。
だけど。
「だってあれ、“途中のやつ”だもん」
空気が、ぴたりと止まる。
「……途中……?」
ゆうなが問い返す。
つかさはゆうなのすぐ目の前まで近づいてくる。
近い。
逃げ場がない。
「そー」
にこっと笑って。
「君の“中途半端な願い”でできたやつ」
心臓が、ドクンと強く鳴る。
「でもさ」
つかさは🎤をちらっと見る。
「今回はちゃんとしたね」
指で軽くトントン、と🎤を叩く。
コン、コン。
その音がやけに響く。
「“本物の人”って言った」
ゆうなは息を呑む。
「だから、僕が来た」
「……は……?」
理解が追いつかない。
「お前が……“本物”……?」
疑いの目。
つかさは楽しそうに笑うだけ。
「うん、本物だよ?」
さらっと言う。
「だってちゃんと会話できてるし」
「触れるし」
ゆうなの手を、ひょいと掴む。
ビクッと身体が跳ねる。
――温かい。
「ね?」
にやりと笑う。
「ほら、本物」
ゆうなは反射的に手を振り払う。
「……っ、やめろ……!」
距離を取る。
呼吸が浅い。
(温かい……)
(でも……)
(なんでこんなに怖いんだ……)
つかさはそんな様子を見て、くすくす笑う。
「変なの」
「“友達ほしい”って言ったのに」
一歩、近づく。
「来たら怖がるんだ」
「……当たり前だろ……!」
ゆうなの声が荒くなる。
「急に現れて……!訳わかんねぇこと言って……!」
「……お前が普通なわけないだろ……!」
沈黙。
一瞬だけ。
つかさの笑みが、ほんの少しだけ薄れる。
でもすぐに――
「うん、普通じゃないよ」
あっさり認めた。
「でも君、“普通”って言っただけでしょ?」
首をかしげる。
「“安全”とか、“優しいだけ”とか、“人間だけ”って言ってないよね」
言葉が、突き刺さる。
「……っ」
ゆうなが黙る。
つかさは楽しそうに続ける。
「だからさ、ちゃんと来たじゃん」
「条件クリア」
にこっと笑う。
「僕、嘘ついてないよ?」
ゆうなは歯を食いしばる。
(……こいつ)
(言葉の隙を突いてきてる……)
まるで――
この領域そのものみたいに。
「……じゃあ……」
ゆうなが低く言う。
「お前は……何なんだよ……」
問い。
つかさは少しだけ考えるふりをして――
「友達」
即答した。
「君の」
その一言で、空気が重くなる。
「……ふざけんな……」
ゆうなの声が震える。
「そんな簡単に決めんな……!」
「俺は……!」
言葉が詰まる。
本当は、何が欲しいのか。
うまく言えない。
でも。
「……ちゃんと……」
かすれる声。
「ちゃんと……一緒にいてくれるやつがいいんだよ……」
「……勝手に来て……勝手に消えるようなのじゃなくて……」
静かに、吐き出す。
つかさはそれをじっと見ていた。
しばらくして。
ふっと笑う。
「いいじゃん、それ」
一歩、さらに近づく。
「じゃあさ」
「試してみる?」
「……は?」
ゆうなが顔を上げる。
つかさはにやりと笑う。
「僕が君の“ちゃんとした友達”になれるかどうか」
その目は、ぞっとするほど楽しそうで。
「ダメなら、消えればいいでしょ?」
軽い口調。
まるで遊びの提案みたいに。
「その代わり――」
一拍置く。
「途中で“やっぱ怖いからなし”はダメね」
逃げ場を塞ぐ言葉。
ゆうなの喉が鳴る。
(……選ばされてる)
(でも……)
頭の中に浮かぶのは、さっきの“あれら”。
そして――
この静かな放送室。
ずっと、一人だった場所。
「……もし……」
ゆうながゆっくり言う。
「お前が……変なことしたら……」
つかさは即答する。
「したら?」
「……追い出す」
短く言い切る。
つかさは一瞬、目を丸くして。
それから――
心底楽しそうに笑った。
「あはははは!」
「できるならね」
最後の一言だけ、やけに低い。
でもすぐにいつもの調子に戻る。
「じゃあ決まり!」
手をぱん、と叩く。
その音と同時に――
放送機材のランプが、一斉に点灯する。
ザー………
スピーカーからノイズ。
そして。
「契約成立、ってことで」
さっきの“声”が、どこからともなく響いた。
ゆうながはっとする。
そう言って、手を差し出す。
「よろしく、ゆうな」
その手を。
取るかどうか。
ゆうなは、ほんの一瞬迷って――
ゆっくりと。
その手を、握った。
その瞬間。
校舎のどこかで。
“カチン”と音がした。
まるで――
何かの“封”が、解けたみたいに。
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