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「ごめんね、もう寝るところだった?」
「ううん、まだ」
「何見てるの?」
「雫さんに貰った、DV被害者の相談や支援内容が纏めてある資料」
「ああ」
話しながら由季くんは私の横に腰を下ろす。
由季くんならシェルターについて詳しく知っているかと思い、ひとまず話を聞いてみようと問い掛けた。
「由季くん、このシェルターっていうの、私は入れないのかな?」
「シェルター? ああ、保護施設ね。うーん、まあ璃々子さんの現状なら、恐らく断られる事は無いと思うよ」
「そうなの? それなら、私はこういう施設にお世話になった方がいいと思うんだけど……ほら、私のせいで啓介さんや雫さんが暫く一緒に生活するでしょ? 何だか申し訳無くて……」
「大丈夫だよ、雫さんも啓介さんも別居はしてるけど、何だかんだ言って本当は一緒に居たいんだ。けど、お互い意地っ張りなところがあるから解消出来てないだけ。寧ろ、傍に居られる理由があった方がいいんだよ」
「そうなの?」
「うん。それとさ……実を言うと、俺たちは璃々子さんを保護施設にっていうのも一つの案として考えたんだよ。だけど、シェルターに入ったとしてもあくまでも一時的なものだし、場所によっては制限も厳しい。何よりも俺を頼ってくれた璃々子さんを出来る事なら傍で支えたいって思ったから、シェルターを勧めてくれた啓介さんや雫さんに協力を頼んで……俺らで保護して支援しようって話で纏まったんだ」
「そう、だったんだ」
由季くんのその話は初めて聞くもので、色々と考えてくれていた事を改めて知り、胸が熱くなった。
「迷惑だった? 俺の一存で決めちゃったけど、璃々子さんとしては……シェルターに行く方がいい?」
眉根を下げ、不安そうなどこか悲しげな表情を浮かべた由季くんが少し遠慮がちに問い掛けてくる。
「ううん、迷惑だなんて、そんな事ないよ。色々と考えてくれていたんだって……本当に有り難いなって、感謝してるの。それにね、本当ならばシェルターのような施設でお世話になる方が良いんだろうって思うけど、慣れない場所で一人は不安だから……由季くんが傍に居てくれて……嬉しい……」
ずっと逃げ場が無くて、貴哉の暴力に耐える日々。
我慢すれば、いつかは終わる。
私がもっと頑張れば、状況は変わるかもしれない。
不倫を知るまでは、そう思う事もあった。
だけど、不倫をしている、他に女がいる。
それなのに、私の事は自由にもしてくれない。
彼の気分で抱かれ、殴られ、罵詈雑言を浴びせられ、私は生きる希望すら、失いかける事もあった。
それでも、このまま終わるなんて嫌。
いい加減、貴哉から離れたい。
そんな思いが強くなって、行動しようと一人で少しずつ準備を始めて、あの日、由季くんに出逢った。
由季くんのお陰で、貴哉の元から逃げ出す事に成功した。
そして今、次のステップに進もうとしている。
不安だらけだけど、由季くんを始め、啓介さんや雫さんという味方が居てくれるから、頑張れる。
いつか恩返しが出来るように、私ももっと、強くなろう。
そんな思いを胸に、横に座る由季くんに寄り添うように、身体を預けた。
「璃々子さん?」
「ありがとう、由季くん。本当に、ありがとう。私、負けない。例えどんな事があっても、絶対に貴哉と別れられるように、戦うよ」
「うん、その意気込みが大切だよ。気持ちで負けちゃ、駄目だからね。大丈夫、璃々子さんには味方が居るから。アイツを前にしても怯まず、毅然とした態度で話し合いに臨めばいいから」
「うん」
寄り添う私の肩を抱き、『大丈夫』という言葉をくれた由季くん。
彼の傍に居ると、本当に安心出来る。
不思議と強くなれる。
暫くそのままで居た私たち。
彼に沢山の勇気を貰った私は強くなると心に誓いを立て、明日からの毎日を笑顔で過ごす事に決めた。笑顔が私のこれからに幸福をもたらしてくれると信じて――。