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「璃々子さん、今日からうちの事務所で事務員として働いてみない?」
「え?」
翌朝、朝早くから出掛けた雫さんを見送った私が啓介さんと由季くんの朝食を用意してから共にテーブルに着くと、トーストを食べてからコーヒーを一口飲んだ啓介さんがそう提案して来てくれた。
「離婚した後の事を考えて、自立出来るように職探しもしないとならないだろう? だけど今の状況で他へ働かせる訳にもいかないし、うちも人手不足で事務作業してくれる人が居てくれると助かるから、璃々子さんさえ良ければ是非」
「ありがとうございます、精一杯頑張るのでよろしくお願いします」
「それじゃあ、由季、お前は先に事務所に行って、仕事をしていてくれ。俺は後から璃々子さんを連れて事務所へ行くから」
「分かった。俺が璃々子さんの送迎を担当したいところだけど、どこで監視されるか分からないもんな……」
「そうだ。なるべくお前と璃々子さんが二人きりにならないようにしないとならない。ゴネてる相手はお前と彼女の仲を特に疑ってくるだろうからな」
「すみません、お手数おかけして……私が一人で行動出来れば良いんですけど」
「相手の出方が分からない以上、璃々子さんが一人で行動するのは危険だから、俺らがしっかりサポートする。これが預かる者としての最低限の役割だから、気にする必要は無いさ」
「はい、ありがとうございます」
由季くんは勿論だけど、啓介さんも私の為に色々考えてくれて、私は本当に恵まれた環境に身を置いているんだと再確認した。
朝食の後、ひと足先に由季くんが出勤して行き、私と啓介さんは分担して家事をこなす。
由季くんから遅れる事、約一時間半、啓介さんと共に事務所へやって来た私は早速、資料整理を任された。
「悪いね、普段なかなか整理出来てないから量が多くて」
「いえ、むしろこれくらいの方がやり甲斐があります」
「はは、そう言ってもらえると助かるよ」
私が仕事を始めてから少しして、由季くんは啓介さんに頼まれた用事をこなす為出掛けてしまったので、事務所内には啓介さんと二人きり。
啓介さんは啓介さんで机に着いてノートパソコンを弄りながらも時折私を気に掛けて声を掛けてくれる。
「あの、普段はお二人とも外へ出る事もあるんですよね?」
「まあ、何か用事があったり、依頼を分担したりすれば、そういう事はあるな」
「そうなると、その間は私が一人で事務所に残る形になりますけど……その際はどうすればいいんでしょうか?」
今みたいにどちらかが居てくれれば良いけれど二人とも外へ出てしまった場合、私に出来る事があるのか分からず質問をしてみる。
「万が一二人とも出掛ける事がある場合には、事務所は閉めて行くから璃々子さんが一人で接客する事は無い。仕事内容は予め伝えていくからそれをこなしてくれれば構わないよ。ただ、電話応対だけは覚えて貰えると助かるから、後で分かりやすいマニュアル作っておくよ」
「はい、ありがとうございます」
「それから、俺が外へ出て事務所内で由季と二人きりになるとしても、この中は防犯の為に常にカメラが作動しているから、何かを疑われてもそれを提出して見せれば問題無いだろうから変に構えなくていい。それと、帰りは雫が早く終わればここへ寄って璃々子さんを拾うようになってる。無理な場合は朝同様俺と帰ろう」
「すみません、何だか余計な負担を掛けてしまって」
「謝らなくていいって――と、悪いけどこれから少し電話で先方との打ち合わせがあるから、暫く応接室に篭もるよ。何かあったら声掛けて」
「分かりました」
「もし電話が掛かってきたら、ひとまず名前と用件だけ聞いて後でこちらから掛け直す事を伝えておいて」
「はい」
「それじゃあよろしく頼むよ」
ひと通りの話を終えた啓介さんは打ち合わせがあるからと応接室に篭ってしまったので、私は資料整理を再開しつつ、由季くんが戻るのを待っていた。