テラーノベル
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ども
校門をくぐった瞬間、視界いっぱいに桜が広がった。 風が吹くたび、花びらが舞い降りて、まるで異世界に迷い込んだようだった。
いや、迷い込んでないけど…
(すごい…みんなテレビとか雑誌で見たことある人ばっかり…)
舞台俳優、アイドル、モデル。
名前を挙げればキリがないほどの有名人が普通に歩いている。 それだけで胸がざわざわして、足がすくむ。
そんな時だった。
「 ねね、君 」
ぽんぽんと方を軽く叩かれる。
振り向くと、そこには年下にも、同い年にも見える可愛らしい子が立っていた。 柔らかい雰囲気で、少し首をかしげて笑っている。
「 もしかして、不安 って感じ? 」
「 !? 」
心を見透かされたようで、胸がびくりと跳ねた。 驚きすぎた俺は、後ずさって
「 うわぁぁぁ!? 」
ゴンッ!
そのまま後ろの壁に頭をぶつけた。
「 だっ、大丈夫!? ちょっと! 」
彼は慌てて俺に近づき、すっと手を差し伸べてくる。
周りの視線も一斉に向いてきて、顔が熱くなる。 恥ずかしさで耳まで赤くなってるのが分かった。
「 だ、大丈夫 … 」
情けない笑みを浮かべながら、その子の手を取った。
手、柔らか…
「 俺、男子校 だったから 女の子 には、慣れてなくて… 」
「 え? 」
「 え? 」(顔あげる
その子は俺の言葉にぱちぱちと瞬きをして
「 男だよ? 」
首をこてん、と首を傾げた。
「 え、えぇえぇえええ! 」
ごんっ!!!
「 い”っっ! 」
驚きすぎて、さっきと同じ壁に頭をぶつけた。
「 あっ、… 」
涙目になりながらも、俺はその子をじーっと見つめる。
「 ほ、本当に…男、なんだ… 」
まだ信じきれない。
でも、たしかに俺より背は高いし、よく見れば喉仏もある。 顔立ちはめちゃくちゃ可愛いけど、言われてみれば、男の子、だ。
「 えー、疑うの?笑 」
くすっと笑われる。
「 女の子と関わりが無さすぎて……まったくもって男女が区別しにくい……」
「 何それ、変なこと言うね〜、あははっ!」
楽しそうに笑ったあと、その子は手を差し出してきた。
「 あ、名前教えてっ!俺は雨乃こさめ。よろしく。」
「 川瀬らん。よろしく」
二人の手が軽く触れた瞬間、 さっきまでの不安が、ほんの少しだけ消えていく気がした。
「あっ、これクラス発表の紙じゃん!」
こさめが貼り出された紙を指さす。 俺も急いで近づいて目を走らせる。
「本当だ! 俺たちのクラスは……あっ! こさめと一緒だ!」
思わず声が弾んだ。 不安だらけだった入学初日、その中で “知ってる人が同じクラスにいる” というだけで胸が軽くなる。
「一年A組だね。……よし、行こ!」
こさめは当然のように、俺の手をぎゅっと掴んだ。
「ちょっ、え、ひっぱ 」
「早く早く!」
廊下に響く靴音。こ さめの勢いに引っ張られる形で、俺まで全力で走ることになる。 手を引かれたまま、なぜか頬まで熱くなる。
教室につくと、こさめが勢いよく前へ出た。
「この教室だね! それでは、レッツ・オープン・ザ・ドアー!」
「 ま、待って!心の準備! 」
バンッ!!
勢いよく開かれた扉の先には、 テレビで見たことのある有名人たちが、まるで普通の高校生として雑談している光景が広がっていた。
「おお……有名人だらけ……」
俺は思わず一歩後ろに下がってしまう。
「 席は…あっ、ここか」
こさめは慣れた様子で席表を確認し、冷静に自分の席へ向かっていった。
(す、すご……俺、絶対場違いじゃん……)
でも、逃げるわけにもいかない。
指定された席へと歩く。コツ、コツ、と自分の足音がやけに大きく聞こえた。
席につく前に、まず隣の人に挨拶しなきゃ、 そう思い、勇気を出して声をかけた。
「 よ、よろしく… 」
そこで言葉を止まった。
だって、隣に座っていたのは
「 …なに? 」
顔を上げると、赤い瞳がこちらをじっと見ていた。 金髪、白い肌、整いすぎた顔、 右側に留められたヘアピン。
間違いない…
「 い、暇 南月 ? 」
元・大人気子役、暇 南月がそこにいた。
「 …… そうだけど 」
返ってきた声は低くて、そっけなかった。
塩対応……というより無関心そのもの。
(えっ……え? ちょっと待って? 小役時代あんなに可愛かったよね!? 『みんな大好き!』とか言ってたよね!? キャラ違いすぎない!?!?)
「えっ? あ、えっ? んん?」
動揺で言葉にならない俺を、南月はただ冷たくじっと見ていた。
「 うるさ…はぁ、何?キャラ違いすぎて引いた?w 」
なつは机に頬杖をついたまま、面倒くさそうに言う。 その言い方も、目線も、完全に塩。
「いや……これこれはこれで良し! ツンデレ好きだよ! グッジョブだよ!!」
「……あっそ」
塩対応、継続。 でも俺はめげない。むしろテンションが謎に上がった。
「 俺ね、なっちゃんのこと好きだよ!ほら、ロック画面なっちゃん!」
スマホを見せる。
俺のロック画面は、子役時代のなつ。
テレビの企画で中にすっぱいレモンが入っているけど気づくかというドッキリで、 レモンを食べた瞬間に顔をくしゃっとさせたあの名シーンの写真だ。
くしゃっ、と笑うように目を細めた、あの天使みたいな顔。 そして俺は何気なくいや無意識に、口走った。
「 なっちゃん。」
言った瞬間、 なつの赤い目が、ぴたりと俺に向いた。
「……なっ、」
一瞬、眉がピクリと動いた。
「誰がなっちゃんだよ」
低い声。 ぶっきらぼう。 でも、ほんの少しだけ耳が赤くなっていた。 俺は気づかないふりをした。
「ねえ、なっちゃん!」
らんが、なつの顔に至近距離でぐいっと近づく。
「うるさい……耳元で叫ぶな」
なつが眉をひそめる。
でも避けないあたり、意外と根は優しいのかもしれない。
「なっちゃんは何の部活入るの?」
夢学園では、必ずどこかの部活か委員会に所属しなきゃいけない。 クラス発表よりも地味に重大イベントだ。
「……演劇部」
短く、それだけ答える。
「おぉ!!」
らんの目が一気にキラッキラになる。
「俺もなんだ! なっちゃんと一緒なんて、すごすぎる!!」
大興奮でなつの肩をがしっと掴む。
「……触るな、暑苦しい」
塩対応は続く。
だが、らんはそんなものでは止まらない。
「こさめも演劇部入るよー」
こさめが、ひょいっと歩きながら自然に会話へ入ってくる。
「……誰?」
なつがこさめを睨む。 明らかに警戒している。
「へぇ、これが元人気子役の裏側か〜」
こさめが口角を上げ、挑発とも無邪気ともつかない笑みを向ける。
「……文句?」
低く、刺すような声。
「 文句ナッシング!俺はどっちかっていうと、なつくんと仲良くなりたい!」
「 分かったから、早く名乗れ。」
「 雨乃こさめ、中学時代は将棋部やってました!特にルールも分からず!」
ピースを作って、なつの目の前までぐいっと突き出すこさめ。
パシッ
そのピースをなつは容赦なく振り払う。
「 触んな。」
さらにもう一段階、睨みが鋭くなる。
「何?そんな睨んで…あれ、もしかしてさ こさめのこと、怖いの?」
こさめの挑発は止まらない。 ニコニコしているのに、言ってる内容が挑戦状丸出しだ。 なつのこめめがぴくりと動く。
「 ちょちょちょ、2人とも!喧嘩なし!」
らんが慌てて2人の間に飛び込んでくる。
「放課後、三人で見に行こ? 演劇部!」
両手を広げて、仲裁しながら笑顔を作るらん。
「……俺、別に行くとは言ってないけど」
なつがそっぽを向く。
「行こ!ね?ね?ね?」
らんは食い気味に詰め寄る。 なつはしばらく沈黙して。
「……勝手にしろ」
完全拒否ではない返事。
その瞬間、こさめが小声でつぶやく。
「 ツンデレだ…笑 」
少し薄暗い廊下。 夢学園の中でも、この一角だけは時代に取り残されたように古びている。
壁にはひびが入り、床板はところどころきしんでいた。
「えっと、演劇部の部室は…たしかここら辺だった気がするんだけど…」
らんが頭をぽりぽりとかく。 廊下には他の部員らしき人影もなく、妙に静かだった。
「……もしかしたら、もう無くなってたり」
なつがぼそっと呟く。
「えええええ!!??」
こさめがなつの耳元で大絶叫。
「うるせえよ!」
パシッ。
なつがついに反射的に、こさめの頭を軽く叩いた。
「 いったぁ!暴力反対!」
「 お前がうるさいからだよ! 」
2人の小競り合いが再開しかけたその時――
「あっ、ここかも」
らんが指差した先。
そこには、半分剥がれかけたプレート。
【 演劇部 】
紙にマジックで書かれた文字を、セロテープで貼ってある超手作り仕様。
「……ボロすぎ」
なつが露骨に顔をしかめる。
「とりあえず入ってみよう!」
「え、ちょっ、まっ……!」
らんの制止を無視して
ガラッ!!
こさめが勢いよく扉を開ける。
「たのもーー!!」
「うわぁぁっ!?!」
どこか抜けてるような、ひっくり返った声が響いた。
「あれ?新入生さん?」
ふわりと柔らかい、癒されるような声。
「体験?」
低くて落ち着いたイケボが続く。
三人は思わず固まる。
「 あのっ…体験しにきました…」
らんが恐る恐る口を開いた。
「…………」
なつはらんの背中から半分隠れるようにして、
三人の先輩たちをじっと睨んでいる。
「 よろしくね、俺は2年生の翠川須知。」
ふわふわした柔らかい雰囲気の先輩が、にこっと微笑む。
「 同じく、2年の西園寺尊だよっ!よろしく!」
「2年、伊龍入間… 」
三人の視線が、らん達に集中する。
「 みんな、お名前なんて言うん? 」
ふわふわした声で須知が問いかける。
らんはビクッと背筋を伸ばして、
「い、1年1組の!川瀬蘭です! 」
「お前は?」
いるまの方を見る。
「雨乃こさめです!中学時代は将棋部入ってました!特にルールも分からず!」
………
「え、なんで入ったの?」
みことがつっこむ。
すちが気を取り直して、次の人物に視線を向ける。
「で、君は?」
そう言って、なつのほうを見た。
なつは突然、らんの袖をぎゅっと握りしめる。
「なっちゃん?」
らんが心配そうに覗き込む。
「 い、暇…南月です。」
なつが小さく名乗った瞬間――
先輩たちの表情が一斉に変わった。
すちの目が大きく見開かれ、みことは声を震わせながら
「 …暇、南月…って 」
と呟く。
らんが驚いていると、 なつは突然、らんにしがみつくように抱きついた。
「な、なつくん!?どうしたの??」
こさめは混乱する。
「え、なっちゃ何で先輩のことそんな睨むの…?」
と小声で言う。なつは先輩たちを鋭く睨みつけたまま、震えている。
すると、いるまが 一歩前に出て、重く低い声で言った。
「今、暇南月って言った?」
「言って、ました…ね 」
らんが代わりに返す。
すちは静かに歩み寄り、
そっとなつの肩に手を置いた
「 …? 」
「 俺らね、君のこと…ずっと待ってた 」
「 …はい? 」
なつが顔を上げた瞬間、 その目は恐怖で揺れていた。 すちがゆっくりと続ける。
「ずっと探してたんだ… 子役引退後、君……突然表舞台から消えたでしょ。」
「 俺たちの演劇部は、先輩たちが卒業して人が足りなくなって、 そのせいで、まともに演劇なんてできなくなったんだよ……」
いるまが、なつの肩を軽く引っ張りながら話す。
「引っ張んなッ……!」
なつが、上目遣いで鋭く睨らむ。
「 ……… 」
いるまは真顔でじっと見つめ返す。
「 何? 」
「 嗚呼……気にしなくてもいいよ」
みことが呆れたように言う。
「……暇ちゃん」
独特な呼び方に、らんもこさめも思わず目を見合わせる。
「 暇ちゃんって、俺のこと? 」
「 うん、」
「だから、君のような元人気子役が、俺たちの演劇部に入ってくれること願ってたんだ…特に、いるまちゃん」
「う”うぅんつ! 」
いるまはその話題から避けるように、大きく咳をした。 なつはまだ小さく肩を震わせながら、らんの袖を握る。
すちが少し不安そうに、手を差し出すように訊いた。
「入ってくれる……?」
教室の空気が、一瞬止まる。
なつはらんの袖をぎゅっと握りながら、少し間を置いてから小さく頷いた。
「……別に、いいけど」
その一言で、すちの顔がぱぁっと明るくなる。
「ありがとうー!!」
思わず、なつに飛びついたすち。 なつは真っ赤な顔のまま固まって、微動だにしない。
その光景を見たらんは、負けじと手を挙げる。
「あ、俺も入ります!」
「こさめもー!」
「えぇ!? ありがとう!」
みこともこさめに飛びつく。
「うわぁぁ…」
こさめはいやそうな顔をする。 すると、らんがハッと気づいて手を大きく広げた。
「いるま先輩! いつでも大丈夫です!」
教室の視線が一斉に集まる。
しかし、いるまが選んだのは
ぎゅっ
「 …!?⸝⸝ 」
なつだった。
「 なぜ!? 」
コメント
2件
相変わらず好き
ファンアートきてすっごい作りたくなった✌️