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その後、演劇部は1度解散となり、「後日また集まるように」そう言われて終わった。
【翌日・1年A組の教室】
らんは席に座りながら、昨日のことを思い返していた。 どう考えても、あの部室は普通じゃない。多分だけど。
「 ねえ、部室、汚すぎるよね? 」
隣のなつと後ろの席のこさめに小声で話すと、2人とも不満そうに頷いた。
「 うーん、何でやろうな。予算? 」
こさめが頬を膨らませる。
「てかさ、部室があんな遠いって事ある?ないよね?絶対ないよね?」
「「 分かる 」」
2人も完全に同意。
演劇部の部室は、現在はほぼ廃校状態になっている旧夢学園校舎。 暗くて、古くて、廊下はギシギシ、照明は半分つかない。
かろうじて使えるのが、あのボロい部室だけだった。
らんがまたら呟く。
「 なんで“演劇部だけ“、あんな場所が部室なんだろう…?」
すると、なつが視線を落としながら言った。
「 俺、子役時代…撮影はだいたい綺麗な場所だった。だけど、作品のイメージ作りで、雰囲気に合わせた場所で演じることがあった。 …だから、ボロい場所を使う理由も、まぁ……わかるっちゃわかるけど 」
プロの視点での言葉に、らんとこさめが「なるほど…」と感心する。
……だが。
「………でもさ」
なつが眉を寄せ、ぽつりと続けた。
「明るい作品だって、演技するはずだろ? なのに……」
「なのに?」
「暗い場所ばかり使うのおかしくない?」
なつは頭を抱えていた。
こさめも腕を組む。
「たしかに、夢学園って明るい未来に役立つ才能を伸ばす学校って聞いてたんやけどなぁ…」
「でも、部室あれだよ?明るくないって 」
らんは2人の言葉を聞きながら、胸の奥に少し不気味な違和感を覚えていた。
(何か、理由があるのかな…)
その時だった。
教室の前の方から、少し聞き覚えのある声がした。
「なつ、こさ。あとついでにらん、いる?」
3人は一斉にドアの方へ向いた。 そこにはいるまが立っていた。
「げっ…」
なつが心底イヤそうな顔をする。
まあ昨日、突然抱きつかれた“あの事件”の首謀者の一人だ。 そりゃ警戒もする
らんが小声で言った。
「 俺ら指名だよね?アレ、行った方がいいやつ?俺、呼ばれたこと無さすぎて、わかんないんだけど。」
「 陰キャが 。でも、行った方がいいお思う。」
こさめも同意して席を立つ。
いるまは軽く手を振った。
「先輩、どうかしました?」
こさめが代表して尋ねると、
いるまはスッと真面目な声になった。
「今日、集まりあるよ。活動の方針と、今後の活動内容。それと、作品決め。」
「はい!分かりました!まにき!」
こさめが元気よく返事すると、 いるまは一瞬、目を瞬かせた。
「……まにき? ああ、俺のことね。」
どうやら理解したらしい。
苦笑いしながら、「じゃ、またあとで」と言って教室を出ていった。
ドアが閉まると、しばしの沈黙。
「まにきって……」
「いやこさめ、なんで急にあだ名で呼んだん?しかと、先輩に…」
「え、フィーリング!」
なつがため息をつき、らんは苦笑した。
いるまが出て行ったあと、 静かになった教室の空気を破ったのは、 後ろの席あたりから聞こえてきた小さな ひそひそ声だった。
「確か、演劇部…だよな?」
「うん。やばい人ばっかって聞いた。」
「しかも舞台だけの活動でしょ?テレビ出たことある人なんて一人もいない素人集団らしいよ、あそこw」
くすくす、と笑い声まで混じる。
らんが眉をひそめた。
椅子から立ち上がりかけて、口を開く。
「いや、それは_
しかし、そのらんの袖をすっとつかんだのはなつだった。
「 やめとけ。」
なつは低い声で言う。
目は前を向いたまま、冷静だった。
「 でもっ、…! 」
らんが食い下がろうとする。
「 言ってても無駄。」
なつはきっぱりと言った。
その瞳は、経験から来る強さと冷たさが混じっている。
「こういうのは、何言ってもだめなんだよ。」
「 っ、… 」
らんは悔しそうに唇を噛んで、 それ以上は何も言えなかった。
こさめが、らんの背中をぽんと軽く叩く。
「まぁ、こさめらが結果出したら黙るよ、ああいうタイプは。」
「……こさめ、珍しくいいこと言うやん。」
「珍しくは余計。」
3人はちらりと周りを見たが、
クラスメイトたちはまだ興味津々にこちらを見たり、コソコソ話したりしている。
「 え、でもさー 」
教室の片隅から女子の声が聞こえた。
「いるま先輩って、結構イケメンだよね?」
「あ、分かるー!クール系みたいな?」
女子達がキャッキャッと盛り上がるのを聞きながら、なつは小さく呟いた。
「何がクール系だよ…」
その声に気づいたらんが、こさめの顔を見て意見を求める。
「クール系っぽく見える感じはあるけど、多分クール系ではなさそうだよね。」
すると、こさめが少しひらめいたような顔をする。
「 あれだよ、水餃子系男子 。」
「「 はい? 」」
2人が同時に首をかしげる。
「ほら、外面は『俺、女に興味ないから』みたいな雰囲気を出しておいて、 好きな子にはめっちゃ肉食ってやつ!」
「「あー…」」
らんとなつは納得したように頷く。
こさめは満足げに微笑む。
「ね?わかりやすいでしょ?」
「 でもそれ普通に、餃子でよくね? 」
「 それは…!こさめが水餃子派だから!」
「 お前の素性を持ち込むな。」
部活へ向かうための薄暗い廊下。
天井には蜘蛛の巣、足元にはたまった埃。
窓から入る光は弱く、どこか湿った空気が漂っている。 いかににも何かが出てきそうな、そんな最悪な場所。
そしてそれは、暇 南月にとって本気で最低最悪の場所だった。
本来なら、らんとこさめと3人で部室に向かっていた。だが途中で、こさめが悪ノリでこう言いだしたのだ。
「よーし!最後に部室ついた人、奢りね!!」
「え」
「 位置についてー…よーい…ドン!!!!」
その瞬間、らんとこさめは競走モードになり、あっという間に走り去ってしまった。
「 あ、おい! 」
当然、運動能力ゼロのなつは追いつけるはずもなく、 体力が尽き、ぜぇぜぇ言いながら、今こうしてひとり取り残されて歩いている。
「絶対……なんか出てくるよ……」
細い肩を震わせながら、なつは半泣きで前を歩いた。
まだ目的地の部室までの半分ほど。
廃校同然の旧校舎の廊下は、歩けば歩くほど不安を煽ってくる。
「もうやだ……」
ぼそりと呟いた、その瞬間。
とんとん。
「 ひっ!? 」
ゴンッッ!
「 い”っっったぁ!!!! 」
突然肩を叩かれたなつは、ビクッと跳ねて、
そのまま壁に頭をゴンッとぶつけてしまった。
少しどっかで見たことがある。
「あ、ごめん。そんな驚かれるとは思ってなかった。」
落ち着いた声が、薄暗い廊下に響く。
その声は、いるまだった。
振り返ったなつの目は涙目。 そのまま泣き出しそうな表情で、肩を震わせている。
「……なつ?」
いるまが覗きこむと、なつはぷるぷるしながら絞り出した。
「……脅かし、た……んじゃないの……?」
声は完全に泣きかけだった。
「 …… 」
いるまは一瞬だけ固まり、 次の瞬間、ため息とも困った笑いともつかない声を漏らした。
「……そんな泣きそうな顔すんなよ。笑」
そう言って、そっと距離を縮めた。
「 てか、なんで先輩がここに…?」
なつが涙目のまま見上げると、 いるまはあきれたように言った。
「なんでって……部室行くからに決まってんじゃん。あほ?」
「なっ……!アホじゃないです!」
ぷんっ、と頬を膨らませる。
怒っているというより、子犬が噛みつく前みたいなかわいさで。
「……っ //」
(あ、やば……// )
読者ならもう知っているが、
いるまは幼少期からの暇南月ガチ勢なのである。
推しがこんな可愛い怒り方をしてるだなんて、彼からしたらもう…
(…これ、現実?いや、夢か?ぇ、でも現実だよな?感触あるし、…え???)
心の中のオタクが暴れすぎて、
いるまは一瞬言葉を失った。
なつはそんなこと知らず、ぷくーっとしたまま言う。
「アホとか言うの失礼でしょ!俺、怖いの我慢して歩いてたのに!」
「……あーうん、ごめん。」
いるまは頭をかきながら、推しが怒ってる=最高+なんかごめん×幸せ みたいな複雑な表情になる。
その時
ガッシャーン!!!!
「 うわっ!?!!!?! 」
「 は!? 」
突然の大きな音に、なつは思わず反射的に飛びつく。 ぶつかる勢いで、二人はそのまま廊下に倒れ込んでしまった。
(な、なにが…お、おきて…)
身体が重なり、視界が混乱する。
なつの顔が近い。それに、唇が、違和感が…。
「 … ! 」
いるまは、動きを止めた。
(ま、まさか…今!?)
手が離せず、視線を逸らせない。
推し…いや、暇南月の唇が、自分と触れ合ってしまった。いわゆる、
事故ちゅーである。
(…まずい、)
いるまの心臓は早鐘のように打ち、息が少し乱れる。普通なら、すぐに距離を取るところだ。
しかし、今の状況は普通じゃない。
(離したら、もう二度とこの感触を味わえないかもしれない…でも、好きな人でもない人に、俺かキスするなんてなつが可哀想にもほどがある…。)
頭の中で、天使と悪魔が戦っている。
いるまは唇をわずかに噛み、視線を下に落とす。 だが、その手はまだなつの肩に触れたままで、体も離せない。
視界の端で、なつの目が開いた。
その瞳は驚きでまん丸になり、顔は赤く染まっていた。少し汗が頬を伝っている。
(……やばい……これは完全にアウト……)
なつは頭の中でそう思ったが、体が動かない。
唇を離せば、事故ちゅーが確実にバレる。
(え、ど、どーゆう顔をすれば…)
二人は互いの顔を見つめ合ったまま、時間だけがゆっくり流れる。
廊下にかすかに風が吹き、カーテンが揺れる。
その音が、妙に二人の静寂を際立たせる。
なつの心臓はドクンドクンと跳ね、いるまの手は自然と彼の肩に残ったまま。
(…やらなきゃ、害悪ファンだ)
いるまは決意を固めたように、そっと重なっていた唇を離す。 その瞬間、なつの目が大きく見開かれる。
(……あっ……今……あれ……!?)
なつの頭の中で事故チューのすべてが一気に理解された。 顔は真っ赤に染まり、汗がほんのり額ににじむ。
「……///」
視線が定まらず、必死にいるまの目を避ける。
あっちをちらり、こっちをちらり……
いるまの目はそんななつを優しく見つめるが、言葉は出せない。
二人の間には、先ほどまでの緊張感とはまた違った、微妙な空気が漂う。
なつは口を小さく開けるが、言葉が出ず、ただ目線だけを泳がせる。
かいててめっさ楽しかった☺️
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フィーリングとは、英語の「feeling」に由来し、感覚、感情、雰囲気、相性といった直感的な受け止め方や持続的な感覚を指します。 ※コピペ