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金は、尽きることがなかった。
竹を割れば、光が落ちる。
拾い集めれば、それだけで暮らしは変わる。
やがて
小さな家は、屋敷へと姿を変えた。
山の縁。
竹林を背にして建てられた、大きすぎるほどの住まい。
白い壁。 広い庭。
不釣り合いなほど整えられた空間。
その中心に、少年はいる。
何も変わらないまま。
「外に出てはだめですよ」
老婆は、やさしく言う。
「どうしてですか?」
「……大切だからよ。」
少しだけ言葉に詰まりながら。
少年は頷く。 理解はしている。
だが納得はしていない。
それでも従う。
ここにいる理由が、自分にはないから。
噂は、自然と広がった。
山の奥に、異様に美しい者がいる。
竹から金を生む家がある。
最初は、ただの好奇だった。
やがて
“価値”として語られるようになる。
気づけば
屋敷には、人が訪れるようになっていた。
貴族。 役人。そして 名のある者たち。
理由は一つ。
――求婚。
広間の奥。
薄く垂らされた布が、一枚。
その向こうに、影がある。
光を通す白布は、輪郭だけを曖昧に映す。
長く流れる髪。細い肩。しなやかな線。
それだけで、十分だった。
「……なんと美しい」
誰かが、息を漏らす。
姿は見えない。 それでも分かる。
――美しいのだと。
「お声を、頂戴できますか」
一人の男が言う。 慎重に、丁寧に。
布の向こうから、声が落ちる。
「必要ですか」
静かで、温度のない声。
だがその響きは、澄んでいる。
広間の誰もが、疑わない。
“女だ”と。
「ぜひ、お聞かせください」
別の男が続ける。
布越しに語りかける言葉は、どれも柔らかい。
守るだの、愛するだの。
耳障りのいいものばかり。
そのすべてを
布の向こうは、ただ受け流している。
「……興味がありません」
短く、切る。 空気が冷える。
それでも男たちは諦めない。
“手に入らないものほど価値がある”と
知っている顔で。
その中で
一人だけ、沈黙している男がいた。
視線は、布ではなく。
その“奥”に向けられている。
形ではない。
気配を見ているような目。
「……お前」
唐突に、口を開く。 場違いな声。
他の誰とも違う、遠慮のない響き。
「なぜ、隠れている」
広間がざわめく。
無礼。
そう言われてもおかしくない問い。
布の向こうが、わずかに揺れる。
「必要だからです」
変わらない声。
「あなた方には、関係がありません」
男は、そこで初めて布を見る。
ゆっくりと 観察するように。
「違うな」
ぽつりと、言う。
「隠しているんじゃないか?」
一歩、踏み出す。
誰も止められない。
「見せられないんだろう」
空気が、止まる。
沈黙。
ほんの一瞬。
布の向こうの気配が、わずかに変わる。
「……どうして、そう思うんですか」
初めて。
わずかに、問い返す。
男は、迷わない。
「他の連中を見ていない」
淡々とした声。
「見られる側の目じゃない」
言い切る。
「お前は、“選ぶ側”ですらない」
さらに一歩。
距離を詰める。
「ただ、ここに置かれてるだけだ」
その言葉は、初めてだった。
誰も言わなかったこと。
布の向こうで
少年の指が、わずかに動く。
「……面白いことを言いますね。」
声は変わらない。
だが
ほんの少しだけ、間があった。
男は、そこで笑う。
ほんのわずかに。
「それで?」
低く、続ける。
「お前、どっちだ」
沈黙。
「女か」
一拍。
「――男か」
広間が凍りつく。
誰も呼吸をしない。
布の向こう。 その問いに。
少年は、初めて“考える”。
これまで、誰にも問われなかったこと。
意味は分かる。
区別も知っている。
けれど
どちらにも、実感がない。
「……どちらでもありません」
静かに、答える。
男は、目を細める。
「そうか」
一言。
そして
確信したように言う。
「なら、なおさらだ」
「欲しくなる」
その言葉だけが
やけに、はっきりと残った。
広間に、男たちが並んでいる。
皆、整えられた姿で。
言葉を選び、態度を繕い
“選ばれる側”として。
その奥に、少年は座っている。
白い衣をまとい、静かに。
まるで飾られたもののように。
「どうか、私にお仕えさせていただきたい」
「一生をかけて、お守りいたします」
言葉が並ぶ。
丁寧で、美しい言葉。
だが少年は、それをただ聞いているだけだ。
意味は分かる。
構造も理解できる。
けれど
どれも同じに見えた。
「……興味がありません」
静かに言う。
一人、また一人と 言葉を失い
諦め、去っていく。
ただ一人の男だけを除いて。