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nanami
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夏の始まりの匂いがする日だった。
窓から入ってくる風が、少しぬるくて。 カーテンがゆらゆら揺れてる教室で、私はひとり、ぼーっと外を眺めてた。
「……またサボってるの?」
後ろから声がして、振り返る。
「サボってないし。休憩」
そこにいたのは、同じクラスの男子───平野悠真。
運動できて、顔もよくて、いわゆる“人気者”。
正直、あんまり関わるタイプじゃなかった。
「授業中だよ?」
「ノート見せてもらうし問題ない」
そう言うと、悠真は呆れたように笑った。
「ほんとテキトーだよな」
でも、その言い方はどこか楽しそうで。
「てか、お前ってさ」
「なに」
「なんか一人でいるよな、最近」
ドキッとした。
図星すぎて。
「別に。気分」
そう答えると、悠真は少しだけ黙ってから、
「ふーん」
って、それ以上は何も聞かなかった。
──その距離感が、ちょっとだけ心地よかった。
それから、なぜかよく話すようになった。
休み時間とか、放課後とか。
「今日も帰るの遅いの?」
「部活ないし、適当に」
「じゃあさ」
ある日、悠真が言った。
「コンビニ寄って帰らない?」
なんとなく頷いた。
特に理由はなかったけど、断る理由もなかったから。
夕焼けの中、並んで歩く。
2人はコンビニで買ったサイダーを片手に、学校の裏のベンチに座った。
「……なんかさ」
悠真がサイダーを開けながら言う。
「こういうの、青春っぽくない?」
「なにそれ」
笑ってしまう。
炭酸の音が、しゅわっと響いた。
「やっぱ青春ってもっとキラキラしてるな」
「いや、まぁこれはこれでよくない?」
そう言うと、悠真は少し驚いた顔をした。
「……そういうとこ、好きだわ」
一瞬、時間が止まった気がした。
「は?」
「いや、なんでも」
さらっと流されたけど、耳が熱い。
心臓も、変な速さで鳴ってる。
(今の……なに?)
それから、放課後に一緒にいる時間が増えた。
くだらない話して、笑って。
気づいたら、その時間が一番楽しみになってた。
でも____
ある日、クラスの女子の会話が聞こえた。
「平野くんって、○組の子といい感じらしいよ」
胸が、ぎゅっとした。
(……そっか)
人気者だもんね。
そりゃ、そういう話もあるよね。
分かってたはずなのに。
なんでこんなにモヤモヤするの。
その日、私はわざと悠真を避けた。
放課後も、「用事あるから」って先に帰った。
スマホが震える。
『今日どうした?』
既読をつけるのも、なんか嫌で。
そのままポケットにしまった。
次の日。
教室に入ると、すぐに悠真が近づいてきた。
「昨日さ」
腕を掴まれる。
「避けてたでしょ」
「避けてないし」
目を逸らす。
「嘘」
真っ直ぐな声。
逃げられない。
「……なんでもないってば」
そう言った瞬間、ぐいっと引っ張られた。
「ちょ、どこ行くの!?」
そのまま連れて行かれたのは、人気のない階段の踊り場。
誰もいない、静かな場所。
「ちゃんと言って」
「だから、なんでも____」
「俺、なんかした?」
その一言で、我慢してたものが溢れそうになる。
「……してないよ」
「じゃあなんで」
少しだけ、沈黙。
言うか迷った。
でも、もう隠せなかった。
「……他の子といい感じなんでしょ」
小さく言う。
「え?」
「聞いたから」
俯いたまま続ける。
「だから、別に私がいたら邪魔かなって——」
最後まで言えなかった。
だって、声が震えてたから。
その瞬間。
「はぁ……」
ため息。
「それ、デマ」
「……え?」
顔を上げる。
悠真は少し困った顔で笑ってた。
「俺が好きなの、お前だし」
思考が止まる。
「……は?」
「だから」
一歩近づいてくる。
「お前のことが好き」
心臓がうるさい。
さっきまでの不安が、一気にひっくり返る。
「一人でいるとこも、強がってるとこも、全部」
近い。
近すぎる。
「ずっと言おうと思ってたけど」
少し照れたように笑う。
「先越されそうだったから、言った」
「……意味わかんない」
「いいよ、分かんなくて」
そして、少しだけ優しく言う。
「で、どうなの」
答えなんて、もう決まってた。
「……好き」
自分でもびっくりするくらい素直に出た。
悠真の目が少しだけ柔らかくなる。
「やっと言った」
「うるさい」
でも、笑ってた。
その日の放課後。
いつものベンチに並んで座る。
「なんか、変な感じ」
「なにが」
「距離」
「じゃあこうする?」
そう言って、自然に手を握られた。
「ちょ、普通にやるのやめて」
「彼氏だからいいでしょ」
ずるい。
ほんとにずるい。
「……まあ、いいけど」
そう言うと、悠真は嬉しそうに笑った。
サイダーの炭酸が、またしゅわっと弾ける。
空は少しオレンジ色で。
風が気持ちよくて。
その全部が、さっきまでよりちょっと特別に感じた。
「ねえ」
「ん?」
「明日も、ここ来よ」
「毎日でもいいけど」
「それは多い」
笑い合う。
こういう時間が、ずっと続けばいいのにって思った。
たぶん、これが───
私の青春。