テラーノベル
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発作が落ち着いてから、二人はゆっくりとまた歩き始めた。さっきまでのやわらかな沈黙は、安心の色に変わっていた。
天は陸の歩幅に合わせて、そっと寄り添うように隣を歩いている。
陸も時おり空を見上げながら、穏やかな笑みを浮かべていた。
「……ごめんね、天にぃ。せっかくの時間だったのに、俺……」
「りくが謝ることじゃないよ。僕のほうこそ、もっと早く気づいてあげられたらよかった」
「……ううん、気づいてくれて、助けてくれて……俺、すごく安心した。ありがとう」
その言葉に、天はやさしく微笑んだ。
「僕はね、りくが頼ってくれることが嬉しいんだよ。……無理して黙ってるより、ずっといい」
陸はちょっと照れたように目を細めて、「……天にぃって、ほんと優しいな……」とぽつりとつぶやいた。
そんな何気ない時間。少しずつ、また普段の空気に戻りかけていたそのとき――
「……っ、けほっ、……ごほっ、ごほっ……!」
急に、陸が激しく咳き込みはじめた。
「りく!」
天の声が鋭く変わる。
陸は手で口元を押さえながら、何度も咳を繰り返す。身体が小さく震え、呼吸が浅くなる。
「りく、大丈夫? 無理しないで、ここ、座ろう」
すぐ近くのベンチに天が手を添え、陸をそっと座らせた。背中を優しくさすりながら、様子をじっと見つめる。
「……ちょっと、乾燥してたのかな……へへ、ごめん、天にぃ……また心配かけちゃった。」
陸は弱々しく笑うが、その顔色はまだ少し青ざめていた。
「……本当につらいときは、笑わなくていい。僕は、りくのつらい顔も、ちゃんと受け止めたいんだ」
そのまっすぐな声に、陸は目を見開いた。
「……天にぃ……」
「僕はね、りくのそばにいたい。元気なときも、しんどいときも。どんなりくでも、大切だから」
陸の胸に、また何かが溶けるように沁みていった。
「……俺、天にぃがいてくれて……よかった……」
その言葉に、天はそっと笑みを返し、陸の背中をやさしく包む。
「もう少しだけ、ゆっくり歩こうか。焦らなくていいよ。ね?」
「……うん」
夜の空は、二人の上で静かに広がっていた。
歩幅を合わせて歩くその道には、安心と信頼のぬくもりが、確かに残っていた。
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