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お股ポテト
29
はるにし
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僕は森に向かい、必死に走った。
(オバケオオカミの発生場所、森の家の近くだって言ってた)
だったら、場所もわかる。
「あにゃっ」
気持ちが焦って、転びそうになった。
羽を使って浮き上がる。
飛ぶのは得意じゃないけど、真っ直ぐなら飛べる。
すぐに、森の裾が見えてきた。
森の中に入り、また走り出した。
(森の家、僕とバルトの家……)
近くには、シュメリとお茶をした丘の草原もある。
(僕の大事な思い出の場所、失くしたくない)
シュメリとバルトも、怪我させたくない。
だから僕が行くんだ。
役に立つために行くんだ。
近付くにつれ、クロノアの言葉やマイナスな考えが浮かんでくる。
僕はそれらの思考を頭を振って、追い出した。
崖を駆け上がり、木の根を追い越して走る。
森の家が見えてきた。
(着いた、丸太の家……)
周囲をキョロキョロ見回す。
陽が傾きかけた森は既に暗い。
そろそろ、屍狼が現れる時間だ。
(騎士団も魔術師団もいない。ここじゃないのかな)
僕は家の前に回った。
人の姿に戻り、玄関から全体を眺めた。
「今なら、シュメリがくれたリボン、持って帰れる」
僕の伸びた髪を結ってくれた。
シュメリが初めて僕にくれた、思い出のリボンだ。
僕は、家に近付き、玄関の取っ手を掴んだ。
瞬間、ぞくりと寒気が走った。
(何か、いる)
獣の気配だ。
かなり近い。
僕は後ろを振り返った。
真後ろで屍狼が呻っていた。
「ぐるるる……」
屍狼の胸に、赤い光が見える。
遠くにアレが見えたら、僕は逃げてた。
足が竦んで、ガタガタ震える。
「あ……あ……」
逃げなきゃいけないのに。
少しでも動いたら、きっと襲ってくる。
僕は動けなくて、玄関の扉に背中をピタリとくっ付けた。
「ガル……ガッ!」
屍狼が飛び掛かってきた。
「ひぃっ」
僕はその場に蹲った。
シュン、と何かが空気を切る音がした。
真っ白な閃光が、横から屍狼の胸を貫いた。
「ギャゥッ」
短い悲鳴と共に、屍狼が地面に転がった。
身体が黒い煤になって、風に流れた。
「リンネ!」
その声に胸が震えた。
聞きたかった声、会いたかった声。
大好きな声だ。
「シュメリ……」
シュメリが僕に駆け寄った。
僕はシュメリに抱き付いた。
「どうして、こんな所に」
シュメリが僕を抱き返してくれた。
(シュメリの体温だ。シュメリの匂いだ)
シュメリの匂いをいっぱいに吸い込む。
いつの間にか、震えは収まっていた。
「シュメリ、鎧が」
出発した日に身に着けていた鎧が、ボロボロだ。
よく見たら、擦り傷みたいな怪我をしてる。
「手当しないと」
「この程度は平気だよ。私より負傷している団員がいる」
「そんなに、大変なの?」
「親狼の核が、捉えられなくてね。身を隠すのも上手い。梃子摺っているんだ」
魔術師団で聞いた、伝書鳩の報せを思い出した。
(親を退治しないと、子はまた蘇る。減らないんだ)
目の前で、煤のような黒い塊が動いた。
揺らめく煤が、屍狼の姿に変わる。
「生き返った」
「屍狼は死体が動いているようなものだ。その上、魂を喰らうから厄介なんだ」
シュメリが屍狼に剣を向けた。
「白刃閃光」
シュメリが唱える。
剣先に凝集した白い光が閃光となって、屍狼を貫いた。
屍狼の体が煤になり、消えた。
「あれもまた蘇る。イタチごっこだよ」
「親を倒さないと、ダメなんだ」
僕はシュメリの服を握り締めた。
「親狼は、見付けた?」
「今宵は、これからだ。人間がいれば、必ず出てくる。奴らの好物は人の魂だからね」
「僕が核を見付ける」
「え?」
シュメリが顔を顰めた。
「僕なら、屍狼の核が見える。僕がシュメリに教えたら、正確に攻撃できるよ」
僕はシュメリを見上げた。
シュメリが険しい顔をした。
「そのために、ここに来たのかい」
「僕もシュメリの役に立ちたいんだ」
シュメリが泣きそうに目を潤ませた。
僕の肩を、ふわりと抱いた。
「ダメだ。帰ってくれ」
シュメリの声が掠れていた。
「リンネを危険に晒したくない。誰かに見付かる前に、この場を離れてくれ」
シュメリの声が揺れている。
(シュメリがこんな風に自信なく話す姿なんか、初めて見る)
きっとわかっているんだ。
僕がいれば、勝率が上がる。
それでもシュメリは僕を守るほうを選んだ。
それが騎士団長の判断として正しくないって、わかってる。
(立場を悪くしてまで、僕を守ってくれてるんだ)
じわりと滲んだ想いが、胸に広がっていく。
「シュメリ……」
どうしよう、シュメリが好きだ。
大好きだ。
愛おしい気持ちが、どんどん溢れてくる。
抱きしめてくれるシュメリを、僕は強く抱き返した。
「ありがとう。シュメリの気持ち、嬉しい」
だから僕は、やるべきことを決めた。
「じゃぁ、戻って……」
「シュメリ、治癒術師が到着した……は? リンネ?」
駆け付けたバルトが、シュメリの言葉を遮った。
バルトが驚いた顔で僕たちを眺めている。
そんなバルトも、所々服が千切れて、傷だらけだ。
「バルト、すまない。リンネを連れて首都に帰ってくれないか」
シュメリが表情を改めて立ち上がった。
バルトが僕らに駆け寄った。
「リンネ、まさか勝手に来たのか。なんて無茶して……この馬鹿!」
バルトが本気で怒っている。
ごめん、バルト。
でも、僕の気持ちは揺らがない。
「オバケオオカミの巣、僕は知ってるよ」
「は? 何で、そんなもん、知ってんだ?」
「魔窟の森は僕の遊び場だもん」
この森で生まれて、育った。
猫魔の僕のテリトリーだった。
人間のバルトが気付かなかった魔獣だって、獣人の僕はいっぱい知ってるんだ。
「僕が案内するから、付いてきて!」
そう叫んで、僕は駆け出した。
「ダメだ、リンネ!」
シュメリの手が、僕の手を掴んだ。
その手をするりと抜けて、僕は猫魔の姿に変化した。
森の奥に向かって駆け出した。
「リンネ!」
追いかけようとしたバルトを、シュメリが止めた。
「私がリンネを追う。バルトは騎士団と魔術師団を連れて、私の後を追え」
「後を追えって」
「リンネのチョーカーを辿って来い。私も、魔力の目印を残しておく」
そう言って、シュメリが駆け出した。
良かった。
ちゃんと追いかけてくれた。
「……わかった」
バルトが来た道を駆け戻った。
シュメリが僕の後を付いてくる。
「絶対に怪我などさせないよ、リンネ」
シュメリの顔が怒っているけど。
僕は後悔していなかった。
どうしても頑張りたいんだ。
早くシュメリに帰ってきてほしいから。
(シュメリがいないお屋敷は、心が寒いから)
シュメリもバルトも、無事でいて欲しいから。
(だから、僕が終わらせるんだ)
その気持ちだけで、僕は全力で走った。
コメント
1件
あ〜〜〜もうヤバい、この回エモすぎる!!😭💕 リンネが「僕が行くんだ」って自分で決めて走り出すとこ、めちゃくちゃ成長感じたし、シュメリが泣きそうになりながら「ダメだ」って言うシーンでこっちも泣きそうになったよ… お互いを想い合う気持ちが痛いくらい伝わってきて、胸がぎゅってなった🥺💖 猫魔になって走り出すラスト、もう続きが気になりすぎる!!はやく次読みたい〜!!🔥