テラーノベル
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ただ前だけを見て、懸命に走った。
後ろにシュメリの気配を感じながら。
(森の奥、もっと奥)
バルトにはあんまり奥に行くなって言われていたけど。
冒険しているうちに奥に迷い込んじゃった。
その時に偶然、見つけた。
(付いてきて、シュメリ!)
一際大きな樹が茂る場所に出た。
周囲は大きく開けている。
その奥に、太い木の根が大きく隆起して、洞穴ができている場所がある。
そこが、屍狼の巣だ。
(さっき見たオバケオオカミより、ずっと大きなヤツが住んでる。あれがきっと親なんだ)
洞穴から、濃い気配が漂ってきている。
間違いない。
僕は人の姿に戻った。
「あの洞穴だね」
追いついたシュメリが剣に手をかけた。
「さっき倒したオバケオオカミより、ずっと大きいのが住んでるよ」
「気配だけでも、親狼だとわかるよ」
むせかえりそうな魔獣の気配が漂う。
洞窟の奥から、息遣いが聴こえてきた。
シュメリが剣を抜き、構えた。
「私の後ろに」
言われた通り、僕はシュメリの後ろに下がった。
足に冷たい感触がした。
下を見たら、足元に蛇がいた。
「あっ!」
魔力の気配がクロノアだ。
きっとクロノアの使い魔だ。
蛇が足を伝って僕の腕に巻き付いた。
『前を向け、リンネ。魂の場所を見極めろ』
クロノアの声が聞こえた。
「わかった」
僕は気を引き締めて、洞穴を見詰めた。
シュメリが横目で、ちらりと後ろを眺めた。
「余計なお世話だね、クロノア」
膝を低くまで折って、下肢に力を籠める。
次の瞬間、シュメリが飛んだ。
ほぼ同時に、洞穴から屍狼が飛び出した。
「え……え?」
あまりの速さに、付いていけない。
『核の場所を探して、シュメリに伝えるんだ』
「核の場所」
僕は屍狼を目で追った。
赤く灯る核が、右胸に見える。
「シュメリ、右胸だ!」
「わかった」
屍狼の爪の攻撃をかわして、軌道を変える。
右胸に向かって剣を突き刺した。
赤い灯が、パリンと割れた。
「やった!」
シュメリが後ろに下がり、また剣を構えた。
「まだだ」
屍狼が地面に着地する。
その身体は、シュメリを一飲みで着そうなほど大きい。
屍狼が顔を上げて、咆哮を上げた。
地響きするような声に、僕は耳を塞いだ。
「核を壊したのに、どうして……」
僕は目を泳がせた。
視線が、屍狼の腹で止まった。
下腹部に、別の灯が揺れている。
血みたいに赤い色をした核だ。
「腹にもある……赤い核!」
「一つじゃないのか」
シュメリが屍狼を見据えて、構えた。
「腹のどの辺りだい」
「下腹の、真ん中!」
「心得た」
シュメリが屍狼に向かって、低く走った。
剣を立てたまま、屍狼の腹の下に滑り込む。
屍狼の体が真っ二つに切り裂かれた。
僕は息を飲んだ。
屍狼の体を切り裂いた剣が、下腹部の真ん中にある核を砕いた。
「凄い……」
『リンネ、気を抜くな。よく見ろ。まだ核は見えるか』
見惚れる僕を、クロノア蛇が突いた。
僕は気合を入れ直して、目を凝らした。
黒い煤を上げて崩れる屍狼の額が、赤く灯っている。
(灯りは暗いのに、一番濃い。あれが、最後の核だ)
僕は屍狼の眉間に目を凝らした。
「シュメリ、次は額だ!」
屍狼の下から滑り出たシュメリが、即座に立ち上がった。
大きく飛び上がり、屍狼の前に回る。
崩れかける屍狼の額に、深く剣を突き刺した。
「もう、眠れ」
シュメリが剣を引き抜く。
屍狼の体が、黒い煤となって弾けた。
ゆらゆらと揺れて、黒い煤は空気に流れて消えた。
「……さすがに、やったか」
シュメリが剣を下ろした。
僕はシュメリに駆け寄った。
「シュメリ……」
「リンネ、まだ下がって!」
シュメリが声を張った。
ビクリとして僕の足が止まった。
「気配が消えない」
言われてみれば、濃い獣の気配が薄まっていない。
「まだ、いるの……?」
親狼を倒したはずなのに、何が残っているんだろう。
シュメリが注意深く周囲の気配を窺う。
瞬きの刹那、洞窟の中に赤い目が光ったような気がした。
「え……?」
その瞬間、何が起こったか、わからなかった。
目の前で、クロノアの蛇が切り刻まれた。
「クロノア!」
「リンネ、逃げろ!」
シュメリの声が飛んできた。
どこに逃げればいいのかわからなくて、体が動かなかった。
シュメリの匂いが濃くなって、大好きな体温が僕を包んだ。
「え……シュメリ?」
「くっ」
苦しそうな声が耳元で聞こえた。
嫌な予感が体を駆け巡る。
シュメリが、僕にもたれかかった。
支えきれなくて、僕は地面に尻もちをついた。
「シュメリ、どうし、た……え?」
シュメリの背中に伸ばした僕の手が、赤く染まっている。
美しいシュメリの服が、ボロボロに破れてる。
背中に大きな傷が三本も付いて、血が出ている。
「はっ、ぁ……うっ」
「シュメリ!」
僕を庇って怪我をしたんだと、ようやく理解した。
洞穴の前に、やせ細った屍狼が立っていた。
「何で、どうして」
シュメリの体が震えている。
血が出過ぎているんだ。
シュメリが、僕の腕の中に倒れた。
「リンネ、走れ。走って、にげ……ろ」
シュメリの目が、どんどん閉じていく。
息が細くなっていく。
身体が、冷たくなっていく。
(魂が、傷付いてるんだ)
身体も大怪我だけど、魂が切り裂かれた痕が酷い。
このままにしたら、シュメリが死ぬ。
直感的に、そう思った。
ぞくりと、血の気が下がった。
「早く……早く、治療、しないと」
震える手をシュメリに伸ばす。
「ぐる……」
屍狼が、前足を蹴った。
ビクリと手が震えた。
(さっきのじゃなくて、あの痩せてるのが本当の親狼なんだ。どうしよう、どうしよう)
シュメリの背中の傷に触れる。
あまりに深くて、恐ろしい。
(本当に、シュメリが死んじゃう……いやだ)
シュメリが死ぬなんて、絶対に嫌だ。
「シュメリ、シュメリ!」
シュメリが、薄らと目を開けた。
「リンネ……は、生きて」
僕の腕を掴んでいたシュメリの手が、地面に落ちた。
ドクンと、心臓が大きく下がった。
ドクドクと自分の血脈が強く、早くなる。
(シュメリが、シュメリが……シュメリ)
頭が真っ白になった。
「……絶対に、助けるから」
僕はシュメリの体を地面にうつ伏せに寝かせた。
立ち上がって、屍狼に向き合った。
「お前がいるとシュメリの治療ができないから、排除するよ」
屍狼に向かって、手を翳す。
「ぐるる……」
身を低くして、屍狼が後ろに下がった。
「お前の核は、右目だね」
屍狼の右目に向かい、翳した手から魔力を飛ばす。
逃げようとした屍狼の右目に、魔力のナイフを差し込んだ。
「きゃい、きゃいん!」
屍狼がその場で、もがき始めた。
「その核を衰退させる。お前のような魔獣が二度と、生まれてこないように」
屍狼の核に送り込んだ魔力を引き戻す。
僕は、何も考えずに反転術を使った。
「ぎ、ぎぎ」
歯軋りするような唸り声を上げて、屍狼がその場に蹲った。
魔力を吸い上げ続ける。
その身体が、みるみる地面に沈んでいく。
赤く灯った右目の色が、褪せていく。
僕はゆっくりと手を握っていった。
握り潰す動作と連動して、屍狼の魔力が吸い上げられていく。
「終わりだよ」
自分の手を強く握り締める。
光を落とした屍狼の右目が、パァンと音を立てて割れた。
屍狼の体が黒い煤に変わる。
沈んだ地面に沁みて、消えていった。
「ふぅ……」
僕は息を吐いて、手を降ろした。
すぐに振り向いて、シュメリに駆け寄った。
「シュメリ……シュメリ!」
声を掛けても返事がない。
今にも息が止まりそうだ。
「魂の治療、急がなくちゃ」
僕は息を飲んで、シュメリの胸に手を触れた。
コメント
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うわっ、第52話めっちゃ熱かった…!🔥 親狼との連戦、まさか核が複数あるとは思わなかったし、最後の痩せた親狼が本体だった展開にはゾッとしたよ。 シュメリがリンネを庇って大怪我した場面は本当に胸が痛んだ…「リンネ、逃げろ」って言われた時は泣きそうになったわ。でも、その後のリンネの「絶対に助けるから」って覚悟決めて反転術使ったシーン、めっちゃかっこよかった!✨ 魂の治療、無事に成功してほしい…次話が待ちきれない!
お股ポテト
29
はるにし
72