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#ローファンタジー
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12-1◆蜘蛛の糸と反逆のシナリオ◆
ミラー:「終わるぞ。諦めるのか?」
奏:「手がない」
ミラー:「本当に手がないのか?あの王様が何を考えているか。お前なら観測できるだろう」
俺は一度、天宮の方へと視線を向けようとした。
天宮の席は俺の斜め後ろ。
彼は窓際で、この成り行きを静かに見守っている。
肯定も否定もせず、ただ柔らかな微笑みを浮かべて。
だがすぐに思いとどまる。
俺の全身をまるで蛇に睨まれた蛙のような硬直が襲った。
奏:「無理だ。あいつだけは見れない」
ミラー:「なぜだ?」
奏:「もし俺のこの呪われた能力が俺と天宮との絶対的な性能差を無慈悲な数値として表示したら?」
ミラー:「表示したら?どうだというんだ?」
奏:「俺は、その真実の重さに耐えられない」
ミラー:「怖いのか?格の違いを知るのが。太陽を直接見れない臆病者がどうやって勝つつもりだ?」
その言葉が俺の思考に火をつけた。
奏:「そうだ。太陽が見れないのなら」
ミラー:「ほう? なんだ?」
奏:「その光を反射する惑星(とりまき)の光から観測するしかない」
ミラー:「それなら早く観測しろ。時間がない」
俺のその思考はもはやただの発想ではない。
それは絶望の淵で見つけた唯一にして細い蜘蛛の糸だった。
俺はその逃げた視線の先にいたバスケ部の松川と中河を捉えた。
彼らは天宮の側近ではないが、部活という濃厚な時間を共有している「惑星」だ。
俺はこめかみを押さえ、意識を極限まで集中させる。
脳が焼き切れるような負荷。熱した鉄を頭蓋骨に流し込まれるような激痛。
【Target: 松川、中河】 >
【Thinking Echo: Scanning…】
俺のカーストスカウターが、彼らの思考の残響を、ノイズの中から拾い上げる。
【Target: 松川、中河】 > 【感情:諦め(80%)、無気力(20%)】
(だろうな)
そう思ったその刹那。
俺のカーストスカウターが彼らのその表面的な感情のさらに奥底にある微かな思考の残響を拾い上げた。
それは昨日のバスケ部の練習後の彼らのささいな記憶の断片だった。
【Memory Fragment Playback: バスケ部・ロッカールーム】 >
松川「今日の練習も、キツかったなー」
天宮「ああ。だがこの挑戦する感じ。悪くない」
中河「文化祭も、どうせなら、そういうのがいいよな」
天宮「そうだな。もし演劇をやるなら、どんな役割があるんだろうな?」
その情報を掴んだ瞬間、俺は相棒に短いメッセージを送る。
奏:「見つけた。これだ」
ミラー:「ほう。何が見えた?」
奏:「天宮は『挑戦・演劇』に対して否定的な感情は持っていない。天宮の友人たちの記憶と感情から推測できる」
ミラー:「だが結城と三好たちは『配慮』を大義名分に怠惰を正当化している。
この教室を支配する絶対的な「空気」は、その土台から崩壊するということになるな」
奏:「そうだ。天宮は、否定的どころか、僅かばかりだが『面白そうだ』と感じているようだ」
ミラー:「肝心の天宮自身が、その「配慮」を求めていない?」
奏:「そういうことだ」 ミラー:「なるほどな。面白い。女王の『論理』の最大の欠陥だ」
奏:「ああ。つまり、俺の狙いはこうだ」
ミラー:「ほう? 聞かせてみろ。お前の脚本を」
奏:「第一に、Elysionが掲げる『天宮への配慮』という大義名分が、ただの偽善であることを暴く。
第二に、バスケ部というクラスの隠れた実力者たちを、演劇派へと引き込む」
ミラー:「悪趣味な脚本だな。だが、悪くない。で?そのハンマーをいつ振り下ろす?もう時間がないぞ」
奏:「まあ、見ていろって!」
その言葉と同時に、烏丸の声が響く。
「――では、喫茶店で決定とす――」
「待ってください」
ガタリ、と椅子が倒れる音がした。
俺の声が、烏丸の言葉を遮った。俺は躊躇なく立ち上がっていた。
12-2◆王の思考の“残響”◆
教室中の視線が、驚愕と侮蔑の色を浮かべて俺に突き刺さる。
三好が「あ?またお前かよ」と嘲笑う。
久条が冷ややかな視線を向ける。
俺は、震える膝を机の下で隠し、その全ての視線を正面から受け止めて静かにそして冷徹に口を開いた。
「先生。そして結城さん。お二人のおっしゃる通り『調和』と『効率』は何よりも重要だと思います」
俺はまず相手の言葉を肯定する。
俺の視界の隅で、女王久条亜里沙の【感情】タグに【油断】と【嘲笑】の文字が浮かんだ。
(それでいい。お前はそこで俺を見下していろ)
「ですが、皆さんは、このクラスの持つ『潜在能力』を過小評価しているのではないでしょうか?」
俺は一度、言葉を切る。そして視線を、天宮の近くに座るバスケ部の連中へと送る。
「考えてみてください。私たち2年4組には、
天宮くんのようにバスケットボールで全国レベルの高みを目指す『挑戦』の精神を持った人が何人もいます。
その『挑戦』の精神こそがこの私立洛北祥雲学園の『品格』を象徴するものではないでしょうか?」
中河や松川たちバスケ部員の顔色が変わる。
彼らの感情データが【諦め】から【共鳴】へと急速に変化していくのが、俺の眼には見えた。
そしてさきほど思いついた逆転のフレーズを出す。
俺はもはやクラス全体には語りかけない。
ただ真っ直ぐに松川と中河、その二人の瞳だけを見据えて
静かに、しかしその脳髄に直接響かせるように言った。
「想像してみろ」
俺の声は、囁きに近かった。
だがその静けさは教室の隅々までを支配していた。
「もし演劇をやるならどんな役割があるんだろうな?」
それは天宮蓮司が、昨日、彼らに投げかけた何気ない問い。
しかし俺が今、それを口にした瞬間。
その言葉はもはやただの問いではない。
俺の声帯を通して、王の言葉を代弁する預言者の神託へと変わった。