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#ローファンタジー
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13-1◆教室を揺るがす論理の刃◆
俺のカーストスカウターが、二人の内面の劇的な変化を表示した。
【Target: 松川、中河】 >
【感情:共鳴 覚醒、熱狂】 >
【思考同期率:天宮 蓮司と、95%一致】
彼らの瞳に再び光が宿るのを、俺は確かに観測した。
俺の脳内に、ミラーからの興奮したメッセージが届く。
ミラー:「おまえの言葉が彼らにハマったな。見ろよ奏。
眼。松川、中河はもう諦めてなんかいない。お前が再び火をつけたんだ」
奏:「ああ。彼らが本当に望んでいたのは、楽な喫茶店じゃない。
王が僅かにその興味を示した、あの気高い『挑戦』の舞台だ」
ミラー:「そうだ。お前がその道を照らしてやったんだ。さあ、とどめを刺せ。この偽りの空気を、完全に破壊しろ」
俺はその二人の完全な覚醒を確認すると、再びゆっくりとクラス全体へと視線を戻した。
天宮 蓮司本人は驚いたように目を丸くし、
そして――ふっと楽しそうに笑った。
否定しなかった。それが答えだった。
そして俺は最後の論理という名の刃をこの教室の偽りの調和へと振り下ろす。
「喫茶店は確かに効率的でしょう。しかしそれは日常の延長線上に過ぎない、『休憩時間』です。
文化祭は、非日常の『祭』私たちのような挑戦する意欲を持ったクラスが
そこで『休憩』を選ぶのは、あまりにももったいない。
このクラスの真の『品格』を示すには『挑戦』こそがふさわしい。
演劇は確かに大変です。しかしそれはクラス全員で、
一つの高みを目指す『勝利』にも等しい『挑戦』ではありませんか?」
俺の言葉は明確な波紋となって、教室の「空気」を揺らし始める。
久条が作り上げた「喫茶店」への圧倒的な空気が音を立ててひび割れていく。
クラス全体の*【喫茶店賛同率】が、92%から、60%、40%へと、急降下していく。
「確かに、そうだよな」
「なんか、演劇の方が、俺たちらしいかも」
久条亜里沙はその信じられない光景をただ呆然と見つめていた。
彼女のその完璧な笑顔が初めて引きつっているのを、俺は確かにこの眼で観測した。
俺のスピーチが終わる。教室は水を打ったように静まり返っていた。
誰もが言葉を失い、ただ俺と教壇の上の烏丸とそして凍りついたように表情を無くした久条亜里沙を見比べている。
その張り詰めた静寂を破ったのは、たった一つの乾いた音だった。
パチン。全ての視線が、音の発生源へと向かう。
バスケ部の松川だった。 彼は真っ直ぐに俺を見つめていた。
その瞳にはもう侮蔑の色はない。
そこにあるのは一種の驚きと誠に宿った新しい「敬意」だった。
パチン、パン。松川のそのたった一人の拍手に、隣にいた中河が続く。
一人、また一人と体育会系の連中がまるで眠りから覚醒するように、その大きな手と手を打ち合わせ始めた。
パラパラと鳴り響いていた拍手の音。
それがやがて一つの巨大な「うねり」となり、そして静かに消えていく。
13-2◆観客席からの卒業◆
教室には、先ほどとは全く質の違う張り詰めた静寂が訪れた。
クラスの全ての視線が、今たった一人の人間に注がれている。
教壇の上の神だったはずの男。担任、烏丸だ。
彼はその視線の意味を、正確に理解していた。
俺のカーストスカウターが彼の無様な内面を表示する。
【Target: 烏丸 剛志】 >
【感情:完全な敗北感】 >
【思考:久条からの、叱責への恐怖】
担任の烏丸は、助けを求めるように視線を泳がせた。
だがその先にあるはずの玉座――久条亜里沙は能面のように冷え切った無表情で彼を見つめ返すだけだ。
切り捨てられたのだ。
無能な駒として。
その無言の圧力に耐えきれなくなったように、烏丸は観念したように大きく息を吐いた。
額から脂汗が滴り落ち、チョークを握る手が小刻みに震えている。
そしてマイクの電源が切れたかのような、弱々しい声で告げた。
「ごほん。う、うむ。非常に熱心な意見が出たようだ。
ではこの場の空気を見れば明らかだろう。文化祭のクラス企画は――『演劇』で最終決定とする」
その敗北宣言が落ちた刹那。
教室を支配していた重苦しい気圧が爆発音を立てて弾け飛んだ。
「っしゃああああああ!!!」
バスケ部の松川が、机を叩いて拳を突き上げる。演劇を提案し
一度は潰されかけた桜井恵麻が信じられないという顔で口元を覆い、その瞳から大粒の涙を溢れさせた。
「嘘?決まった本当に!」
彼女の周りに女子生徒たちが集まり、手を取り合って喜んでいる。
教室中が新しい熱狂に包まれていく。
それは単なる文化祭の演目が決まった喜びではない。
「あらかじめ決められた退屈な未来」を「絶対的なヒエラルキー」を
俺たちが自らの手で覆したという革命の勝利の音だった。
俺の全身を脳内麻薬めいた全能感が駆け巡る。
やった。やってやったぞ。俺の言葉一つで世界が動いた。
その喧騒の向こうで俺の視線は、磁石に吸い寄せられるように
教室の中心――支配者の元へと向かった。
久条亜里沙。彼女は騒ぎ立つクラスメイトたちの中でただ一人、彫像のように静止している。
取り巻きたちがオロオロとする中、
彼女だけがその張り付けたような完璧な笑顔を剥がし捨て、凍てつくような能面で真っ直ぐに俺を見ていた。
彼女の手元で、乾いた音がした。パキリ。
握りしめていたシャープペンシルが、ミシリと音を立ててへし折れた音だ。
【Target: 久条亜里沙】
【感情:屈辱(MAX) / 殺意(20%) / 興味(10%)】
【認識変更:『路傍の石』『排除すべき仇敵(ネメシス)』】
視界の隅で明滅する、真っ赤な警告アラート。
だが今の俺には、それが勝利を称えるファンファーレのように心地よかった。
最高だ。その顔が見たかった。
高みから見下ろすだけだった女王を同じ土俵まで引きずり下ろしてやったのだ。
(初めて見える。これが「観客席」からの景色とは違う、ステージの上の景色なのか)
その冷え切った殺気の籠もった瞳と俺の視線が交差する。
俺は彼女の視線を正面から受け止め、挑発するように口の端を吊り上げた。
「上等だ」
俺は音のない勝利宣言を、敗北に濡れる女王へと送った。
退屈な「観客席」はもうおしまいだ。
俺と女王の、本当の戦争(ゲーム)がここから始まる――。
――なんて格好をつけてみたものの。
机の下で握りしめていた俺の手のひらは、びっしょりと冷や汗で濡れていた。
(ああ、怖かった。心臓が止まるかと思った)
俺は大きく息を吐き、震える足をこっそりとさすった。