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<才能がない私と、英雄のような君>
2024-09-30
ある冬の夜のこと。冷えた寒空の下、”私”は凍えていた。理由は単純なもので、親からの躾だった。とろくて魔法が全然使えない私だから、こうしてネグレクトに近いことをされるのも当然だとも思ってしまうけれど、やっぱり寂しいし悲しい。
実の両親から吐かれる暴言、行き場の無くなったストレスを一気に発散するように何度もされる暴力。これが普通でないことなんて、幼馴染や使用人の反応を見れば直ぐに分かった。
『あ、今普通じゃないことされてるんだ』
納得するのは早かった。きっと、躾だと言い聞かせられていたけれど、ずっとどこか変だと思っていたからだろう。それから直ぐにわかった。
「あぁ、これ反抗しないとだめなやつだ」って。実際幼馴染は言っていた。
「そんな酷いことされているならちゃんと嫌だって伝えないと、■■■が壊れるよ⋯」
心配してくれていたんだろう。その言葉は私にとって嬉しい言葉となった。
でも、私の存在が、この虐待以上に普通ではないから。だから、何をされても我慢していた。普通では無い私に普通じゃないことをするのは普通。そう教えられてきたんだ。
「⋯もう、無理だなぁ」
でも、それももう10歳の頃になればいい加減無理だった。そんな自分で自分に催眠をかけるようなこと、限界だった。我慢出来なくなった。不意に涙が出てきて、悲しくないのに、声を上げて泣いた。普段は親から泣くなと言われていたから、てっきりもう涙なんて枯れたものだと思っていた。⋯でも。
(なんだ、私辛いんじゃんか)
どうして気づけなかったんだろう。辛いなんて、とっくのとうに分かっていたはずなのに。
常識とかけ離れ過ぎた異常な家庭環境、見て見ぬふりの使用人、薄気味悪い笑みを浮かべて、質問をしても何も教えてくれない周りの大人達。
全部全部、私を傷つける鎖となっていたのに、何故分からなかったんだろう。
両親からの純粋な期待すら、辛いと感じてしまうほど弱っていたのに。
何故周りの環境に疑問を持たなかったんだろう。普通じゃないことなんて、とうの昔に気づいていたのに⋯⋯そこで、気づいてしまった。
(逃げたいのかな、私)
割と正当性はある。私は、毎日のように吐かれる暴言暴力、躾という名のネグレクトを受けているのだ。その辛い状況から逃げ出したい、なんて思うのは当然の権利で、そこから逃げ出すのもまた、私の当然の権利な筈。なら──
「⋯もう、逃げたいなぁ」
暑い夏の日、木陰に二人きり。ほかの誰もいない場所で、私はそう幼馴染に告げた。
「そっか、⋯」
そう返したあと、幼馴染は少しの間沈黙を続けた。考えているのだろうか、俯きながら視線をグルグルしていた。
「じゃあ、一緒に逃げようか!」
にっこりと笑みを浮かべていた。その笑みを見て、何故自ら茨の道を進むようなことを選ぶのか分からなかった。いや確かに態々逃げたいと幼馴染に言ってしまった私も私だが、そこまでして私を助けたいのかと、心の中で嘲笑した。馬鹿でのろまな私なんかに君が手を差し伸べるだなんて、思いもしなかったから。
勇敢に立ち上がり、私の方へと救いを伸ばす君の姿が、いつか見た誰かの影に似ている気がした。
「⋯!」
自分の危険を顧みず、助けるためなら自己犠牲も厭わない。多分私は、君のそんな姿にずっと_
第二章 : 才能だなんて言い訳は fin.
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