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<近い未来、また会う日まで>
2024-10-19
目を開く。眩しい、とは到底言えない天気が私を包む。おどろおどろしい黒と紫が混じったような空、 雨が降りそうな黒雲。久しぶりの景色に、まだぼやける頭が危険信号を出す。
それを無視して、私はコツコツとそのコンクリート造りの道を歩く。1歩1歩と歩いていく内に、視界は晴れ、思考回路も段々と動いていき、目的地へと近くなっていくのを感じる。
「···此処は、ずっと変わんないなぁ…」
長い長い道を歩きながら、そうぽつりと呟く。
数年前と変わらぬ景色が懐かしい。また来るとは思いもしなかったが、仕方ない。
「…待っててね、今行くから。」
私は目の前の校門に書かれている校名を見ながら、そう決意した。
✦✦✦
「…オーター。ちょっといいかな?」
白髪に赤色のリボンが特徴な神覚者-炎の神杖は真面目に仕事をこなしていく仕事仲間-砂の神杖に声をかけた。
「…なんだ。私も暇では無い。」
「先日の『生徒誘拐事件』は覚えているかな?」
「…嗚呼。それがどうした。」
オーターは動かす手を止めない。期限が差し迫っているからとか、そう理由では無い。最近は色々と立て込んでいるから早く終わらせないと徹夜になってしまうのだ。現に、カルドは二徹、オーターは三徹目に突入しているところである。
「…実はね。それに続きライラも居なくなったんだ。」
カルドがそう深刻そうに言うと、流石のオーターも手を止めた。そのライラというのは、風の神杖の称号を授かった、正真正銘の神覚者なのだが…。
「…は?バカを言うな。遂に徹夜で元々おかしい頭が更におかしくなったのか?シャレにならん」
「…一言余計だな…。…これが現実じゃなかったら良かったんだけどね。僕もさっき事情を聞いたばっかりで、細かいことは何も知らないんだ。」
「…仮にも彼奴は世界最強だ。そんなことがあっていいはずがない。その情報は誰から聞いた?」
そう。彼女はこの世界で最強と呼ばれる。その由来は過去の功績()であったり、実際にその実力を見た人達の証言であったり…天は二物を与えずと言うが、彼女は二物どころか三物も四物も与えられてしまった、 いわば最高の神覚者である(まぁどっかの金髪神覚者(失礼)に言ったら張り合われそうではあるが)。
「…ソフィナとレインからだよ。二人とも焦った様子で魔法局に居たもんだから声をかけたら、息切れしながら状況を伝えてくれた。」
「…詳しく。」
「そのつもりだよ。…まず、発端はレインが─」
「…なるほど。把握しました。」
オーターはいつもの癖をする。一見冷静に見えるが、その実、その手は微かに汗をかいている。
「つまりは、ライラが禁書を使ったと。 」
「いやざっくりしすぎじゃない?僕の説明だいぶ端折ってない??あとまだそれ確定してないからね!?あったってだけで!!」
まぁあれだけ言われても何も分からないので補足。レインがライラの部屋に訪れたところ、誰もいなく、1冊の本が机の上に置いてあった。よくよく見れば、その本は1ヶ月ほど前からレインが探していた禁具書だった。どうしたものかとしていたら偶然学校に来ていたソフィナに出会い、それが最凶レベルの禁書だということを発見した。ということだ。だいぶ端折ったせいで意味が分からない文になっているが、仕方ない。
「わざわざ長い説明を復唱するのは無駄だ。…ソフィナとレインはどこにいる?」
「イーストンに。今は二人ともウォールバーグさんに話をしてるよ。」
「…そうか。…カルド、お前はどうしますか?」
「僕は指示があるまで待つよ。下手に動いて僕までどっか行かされたら嫌だしね。」
「なら私はイーストンへ向かおう。レナトスやツララが来たら事情を説明しておいてくれ。」
「了解。行ってらっしゃい。」
「嗚呼。」
その穏やかな笑顔に、オーターは見送られた。
✦✦✦
綺麗な内装で保たれている校内を見て、変わってないな、と言葉をこぼす。
「…本当に、何も変わってない。」
壁一面に並ぶ絵画も、天井に吊るされるシャンデリアも、床に敷かれるカーペットも、全て。
塗装が取れぬようさらっと壁に軽く触れると、すこしだけ懐かしい魔力を感じた気がした。
壁から手を離すと、少し先から足音が聞こえる。
「…おや?…誰かと思ったら、ライラさんじゃないですか。」
「…!」
足音がした方を向くと、そこには黒で統一された服を着ている人がいた。目的の人だった。
「…学園長。」
「はい。お久しぶりです、ライラさん」
綺麗なお辞儀で私に挨拶をする、ここの学校の学園長。その声色が何か嫌だった。
「…それにしても、ライラさんから来るなんて…何かあったんです?」
「……とぼけないで、学園長。分かってるでしょ。私がこっちに来た理由。」
「いいえ?何も分かりません。」
わざとらしい笑みで。口元しか見えないけれど、多分目元は笑っていない。でもそんなの今に始まったことじゃない。ずっとそうだった。今更気にするまでもない。
「嘘つかないでよ。アイル・スローン、学園長なら聞き覚えのある名前のはずだよ」
「…ふむ、アイルくんに何か用ですか?」
「…うん。とってもとっても大事な用事。私…いや、私達にとって、ね。」
「…変わりましたね、ライラさん」
「…うん。でも学園長はまったく変わってない」
服装も声も身長も、何もかも。変わっていない。
静かに火花を散らしながら、私達は会話する。何か間違ったことを言えば、速攻で戦闘開始になりそうな、そんなピリついた雰囲気で。
「…アイルくんから、少しだけ聞いたことがあります。親友が”いた”と。」
その過去形の言葉に、心が痛む。でも、それは紛れもない事実だから。反論ができない。
「”中等部までは一緒に居たのに、高等部に上がった途端関わってくれなくなった”と。」
「…違う」
否定。
「”いつも避けられ、目線を合わすことすらいつしか叶わなくなった”と。”ライラは自分を嫌っている”と。」
「違う、そんなの違う」
否定、否定。
「彼は、貴方が___」
「違う!!!」
否定、否定、否定。
「…私、は…嫌って、ない…違うんだよ、…」
そう自分に言い聞かせるように、私は壊れた蛇口のように止まらぬ言葉を自分に突き刺す。
だって、あれは。あのときは。
「……………………」
「…ーい、学園長ー。まだ、ぁ………!!」
体感2、3分。聞き覚えのある声が遠くから聞こえる。嗚呼、出来ることならそのままそこに居てこっちに来ないで欲しい。
「あぁ、アイルくん。ちょうどいい所に。」
そんな願いも叶わず、彼は目の前に来る。
「な、は、…なんで、居る…? 」
困惑している、と言わんばかりの表情だった。仕方ない。彼を目的にしていた私だってそんな感情を抱いてるくらいなのだ、何も分かってない彼が困惑してても何ら不思議では無い。
「ライラさんは貴方に御用があるみたいですよ?アイルくん。」
「…アイル…」
「………っ、………!!」
私が名前を呼ぶと、アイルは走ろうとしたのか反対方向を向く。でも私はそれを引き止める。
だって、今ここでアイルを離したら、離しちゃったら。私はこの先後悔する。
「…待って、アイル…!!」
「離して、…やめて、今更何?」
ぎゅっと握った手を離そうとするアイルに、私は離さぬよう、手を傷つけぬよう手を握った。
「っ、…君を助けに来た。」
「助けに?なんなのさ、今更。」
うん。分かってる。
「…アイル…、私は君のこと、嫌ってないよ…」
だからせめて、言い訳を聞いて欲しい。こんなに惨めな言い訳の 内容なんて、頭に入れなくてもいいから。せめて言わせてほしい。
「…じゃあなんで、あの時僕を置いていったの?あの時僕を避けたの?遠ざけたの?」
「…それ、は………」
否定したいのに言葉が出ない。頭が真っ白になって、ただ目の前で私を罵倒しているであろうアイルが目に入るだけ。
「…結局ただ善人ぶりたいだけでしょ、やめてよ。そんな人だと思ってなかった。」
「違うよ、…私は君のこと助けたいって思ってるし、嫌ってない。」
全部が私の心に突き刺さっても私は諦めない。それが当たり前だと思われるほどに、私はアイルに酷いことをしたから。
「嘘だ。どうせ今だって心の中で笑ってるんでしょ。僕はもう騙されないよ。 」
『違う、お願いだから信じてよ、…!!』
「…信じられない。早くどっか行ってよ、今更僕を追いかけてきて馬鹿みたい、」
ここまで来るともう、ただの言い合いだ。ならばもう引き上げないと戦闘になってしまう。私は諦めたように目を閉じて、パッと手を離す。
「……わかった。でも、いつかまた私は来る。アイルのこと、諦めないから。」
「…勝手にして。どう言われても僕は今更そっちに戻る気はないよ。」
「…じゃあまたね。学園長、アイル。」
「ええ。さようなら、ライラさん。」
転移魔法を発動して視界が暗転するまでの数秒、アイルの目が動いた気がした
✦✦✦
「…ん、んんー……?」
「お、ここは…イーストン近くの…森かぁ…」
どうせなら部屋に転送してほしかったなぁ、と思いつつ、学校近くとしか設定していなかった自分も悪いのでゆっくりと歩みを進める。
「ライラ!」
まだぼんやりする視界に映る黒色と黄色。見覚えのあるその配色に、その人物だろうと目星をつけ名前を呼ぶ。
「…レイン?どーしたの?そんな急いで。」
晴れていく視界のもや。
「お前、どこ行ってた…!?」
「んー?ちょっとね。」
私が能天気にそう答えると、
「流石にちょっとで片付けられないだろう、これは。…もうすぐオーターさんが来る。ちゃんと事情を話せ。」
「えっちょっとまって今なんて言ったのオーターが来るなんて私聞いてな」
「ライラ」
あっ私終わった死んだ…
「……事情は後で聞きます。貴方の様な人が禁書を使うなんて、只事じゃないことは分かります。とりあえず貴方はウォールバーグさんの所へ。」
「…ありがとね、オーター。わかったよ。」
予想外の返答に驚きつつも、その優しさが嬉しかったので大人しく従うことにした。
オーターの優しい所なんて滅多に見れないからね、摂取できる時に摂取しないと。
「じゃ、私は行ってくるね!」
多分色々と聞かれるだろうし、できるだけ早く行って終わらせたい。転移魔法を発動して、校長の居るイーストンへと私は向かった。
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