続き
(ランス視点)
そろそろワースと付き合って5年になる。
あと一歩踏み出そうとここ数ヶ月準備をしていた。
ワースには悪いが、デートはアンナを理由に断らせてもらった。
きちんとアンナにも許可はとった。 アンナに口実にしてもいいかと聞いたら笑顔でいいよって言ってくれた。さすがアンナ。天使だ。
いよいよ来週。カレンダーをみて少し笑む。明日は指輪を取りに行く予定だ。
そういえば明日、ワースが少しでいいから会いたい、と言っていたな。指輪を取りに行くのは午後だから午前中なら会えるはずだ。
俺もしばらくまともにワースと会えていないから会うのが楽しみだ。
次の日
指輪を取りに行くのが朝からの予定になってしまった。つまり会えない。
申し訳ない気持ちでいっぱいのまま連絡をする。少したってから『わかった』 と簡素な返事がかえって来る。いつも通りだ。それを確認して俺は家を出た。
指輪を受け取って帰る途中、ワースから連絡が来ていることに気づいた。
まだ今日は残っている。これから会いに行こうか、なんて呑気なことを考えながらメッセージを見た。まさか、こんなメッセージだと思わなかったから。
『別れよう』
一瞬言葉の意味が理解できなくて頭が真っ白になる。しばらく呆然としたあと、ようやく我に返り、電話をかける。何度かけても出なくて焦燥に駆られる。
確かに最近の自分自身の行動を振り返ってみれば傍から見たら恋人を蔑ろにしてるようにしか見えない。飽きられた、と考えても不思議ではないだろう。
サッと顔から血の気が引く。謝らなくては、そう思ってワースの家に向かう。
だが、ワースはいなかった。
1度家に帰って冷静になろうとするも、どうしてもワースのことが頭から離れなかった。
それから1週間、ひたすら無視された。
家に行ってもいないし、魔法局で通りすがって話しかけても無視される。 当然だ。それくらい最低なことをしてしまったから。
だが、今日は無理やりにでも話さなくてはいけない。 普段は嫌がるからやらないが仕方ない。職場まで行こう。
「ワースマドルはいるか。」
突然の神覚者の来訪に周囲の空気がざわっと揺れる。
「……なんだよ」
周りに押され明らかに嫌そうな顔をしながら、ワースが来る。
「そろそろ仕事は終わりか。」
「いや、今日は実験が……」
「あ、俺変わります。」
「いや、いいって。大したことじゃない。」
「いいからいいから。」
なかなか空気のよめるやつだ。当のワースは恨めしそうな顔をしているが。
「恩に着る。行くぞワース。俺の家だ。」
「……はぁ」
ワースは諦めたように帰る支度をし、俺についてくる。
帰り道、お互いに無言で歩く。ようやくランスの家に着き、ワースが口を開く。
「……で、なんだよ。わざわざ部署まで来て。」
不機嫌そうな顔でランスを睨む。
「貴様が無視するからだろう。」
「別れようって言ったよな。」
「俺は許可してない。」
「じゃあ許可しろよ。」
「嫌だ 。 」
何度か押し問答を繰り返した後、ため息をつきワースは言う。
「……そもそもお前まだ俺の事好きなわけ?」
「当たり前だろう?」
「都合がいいからの間違いじゃなくて?ほっといても大丈夫な恋人っていうのが都合が良かったんだろ。」
今にも泣きだしそうな声でそういうワースにハッとしたように目を見開く。
「……違う、その、最近のことは悪かった。」
「飽きたなら飽きたって言えよ。」
「違う!」
思ったよりも大きな声が出た。さっきからずっと目を逸らしていたワースがびっくりしたようにこちらを見る。
「 ……すまない。だが、本当にそういうことじゃないんだ。」
「じゃあなんだよ。」
ランスはちらりと時計を見る。午後11時55分。そろそろ日を越す。ポケットに入れた指輪をそっと撫でワースの目を見る。
「……まず中に入れ。」
「なんだよ、はぐらかす気か。」
「違う、こんな所で立ち話もあれだと思ったからだ。」
「……そーかよ。」
じゃあ、邪魔する。そういって中に入るワースを横目にあと5分どうやって時間を潰すか考える。
「で、なんだよ。」
「まあ落ち着け。 」
「落ち着いてられるかよ。俺が、俺が何回……傷ついたと思ってるんだよ。出かけるの楽しみにしてたのに毎回断られて、楽しみにしてたの俺だけなんだなって、虚しくなって。ひとりで家で過ごして……」
だんだんと声が小さくなる。
「ランスが、アンナのことが1番なのはわかってる、でもこんなに、アンナを理由に断られると少し、寂しいというか、いや、わがままなのはわかってる、こんな気持ち持ってたら迷惑だっていうこともわかっている。だから別れようって……」
そういうワースの声はいつもの自信がなくて今にも消え入りそうな、そんな声で、自分はそんな思いをワースにさせてしまっていたのかと反省する。
黙っているランスにそれを肯定だと思ったらしい。いつもの調子を取り戻して言う。
「俺の話はそれだけだ。これで終わりでいいな。」
立ち上がって出ていこうとするワースの腕を掴む。
「なんだよ。」
ちらりと時計を見る。12時。本当はもう少しムードを作って、そう考えていたのだが仕方ない。
「結婚しよう。」
ランスのその言葉にワースはぽかんとしたような顔をする。しばらく沈黙が続いたあと言葉を選ぶようにワースが口を開く。
「なんで今。」
「今日は、付き合って5年目の記念日だ。」
「……なんで覚えてるんだよ。」
「当たり前だろう……本当に悪かった、アンナのことは口実だ。本当は、今日のために色々準備をしていた。ワースの気持ちを考えていなくてすまなかった。許してくれるなら、受け取ってくれ。 」
ポケットから指輪を取り出し、ワースに差し出す。シンプルなデザインに空色の宝石がひとつ、無駄なものを嫌うワースのことを考えて選んだものだ。
「……なんだよそれ」
おそるおそる顔を上げてワースの顔を見る。
「ふは、緊張しすぎだろ。」
泣き笑いのような表情で、指輪を受け取る。
「……幸せにしないと許さないからなぁ?」
「!!!もちろんだ。」
ワースを抱き寄せて軽くキスをする。くすぐったそうに笑うワースに愛おしさが増す。
「……にしても、なんだよこの指輪。どんだけ魔法詰め込んだんだよ。」
「軽く100ほど。覚えていないな。」
「禍々しいオーラ放ってると思ったらやっぱりか。100はさすがに予想超えてきたが。よくこんな小さな指輪につめこんだな。これ作るのに1ヶ月以上かけたわけ?」
「いや、1番大変だったのはオーターさんの説得だ。」
そういうとワースはぽかんとした顔で見つめてくる。
「……は?兄さんの?」
「なかなか厄介だった。何度奇襲を仕掛けられたか。」
そういえばいつか魔法局でなにか破壊されるような音が兄の執務室の方から聞こえてきたな、と他人事のように思い出す。
「それはまぁ、お疲れ様。」
「だが、こうしてワースを手に入れられたのだから、頑張ったかいがあった。」
「ふは、本当に俺でよかったの?」
「あぁ、もちろんだ。俺の隣に立てるのは貴様……ワースしかいない。」
「……そうかよ。」
照れくさそうに顔を背ける。その耳は真っ赤に染まっていた。
「なぁ、ワース。」
「なんだ よ」
「今日いいか?」
ランスも健全な若い男だ。1ヶ月ぶりにあった恋人を我慢できるわけがなかった。
「……いいぜ。せっかくだから初夜でも思い出して優しくしろよ?」
「善処する。」
こうして夜は更けていった。
思ったより長くなってしまいました。
久しぶりにチャット以外で書くのが楽しくて……。
拙い文章ここまで読んでくださった方ありがとうございます。
誤字脱字等あったら教えてください🙇♀️
せっかくだしTwitterにでもあげようかな。
コメント
13件
おぉ〜‼︎✨ 最高☆天ちゃん天才☆