テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
47
1,455
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
過去のお話
sideR
カーテンの隙間から、細い光が差し込んでいた。
時間は分からない。
スマホを見る気も起きない。
ただ、天井を見ていた。
「……涼架」
ドアの向こうから、母さんの声。
「ご飯、置いとくね」
返事はしない。
できない。
言葉にする気力がない。
⸻
最初は、ちゃんと行こうとしていた。
学校に。
外に。
でも。
ある日、ふと分からなくなった。
「普通」が。
周りは当たり前みたいに笑っている。
話している。
でも、自分だけが少しズレている気がした。
それを埋めようとして。
余計に疲れて。
気づいたら。
何もしたくなくなっていた。
⸻
部屋の中。
静か。
でも、静かすぎて落ち着かない。
その時。
声がした。
「ねぇ」
柔らかい声。
驚かない。
もう、何も驚く気力がなかった。
「しんどいよね」
その一言で、少しだけ息が楽になる。
「無理しなくていいよ」
「きみ、頑張ってたし」
誰も言ってくれなかった言葉。
それを、当たり前みたいにくれる。
「ここにいればいい」
優しい。
本当に。
だから。
逆らえなかった。
⸻
日が経つごとに、その声は増えた。
慰める声。
肯定する声。
全部を許す声。
「外は危ないよ」
「傷つくだけだよ」
「ここが安全だよ」
それが正しいと思った。
だから。
ドアは開けなかった。
⸻
ある日。
インターホンが鳴った。
無視するつもりだった。
でも。
「涼架」
名前を呼ばれた。
体が固まる。
こんなふうに呼ばれたのは、久しぶりだった。
「いるの、わかってる」
少しだけ笑った声。
その声は。
頭の中の声と違った。
温度があった。
「返事いらないから、聞いて」
ドアの前に、誰かがいる。
それだけで。
少しだけ、世界が戻ってくる。
⸻
「一人で抱えなくていいよ」
その言葉に。
頭の中の声がざわつく。
「無視して」
「どうせ嘘」
「開けたら終わり」
でも。
ドアの向こうの声は、消えなかった。
「僕は待つから」
それだけ言って。
足音が遠ざかる。
⸻
静かになる。
でも。
さっきまでの静けさと違う。
何かが、残っている。
「……なんでだよ」
小さく呟く。
頭の中の声が、うるさい。
でも。
それとは別に。
ドアの向こうの存在が、確かにあった。
⸻
立ち上がる。
ふらつく足で。
ドアに近づく。
怖い。
すごく怖い。
それでも。
ドアノブに手をかける。
⸻
そのとき。
初めて思った。
外に、行きたいかもしれない