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⚠️ワンク
sxxn様のnmmnです
中編。
前編を読んでからお楽しみください。
紫、緑 先天性女体化
桃×紫、黄×緑
今回の黄×緑は話に出てくる程度です。
当作品はご本人様に全くもって関係ございません。
急展開注意。
↑地雷に入っていない方のみお進みください
二人の姿を見届けた後。
「何事?」
いるまの部屋に着いて最初に言われた一言がそれ。
サイレンが鳴ることは滅多になく、珍しい。研究者は混乱させないため研究対象の部屋を順番に訪れていた。
他の子たちもだったけど流石に大人びたいるまも困惑している様子で。
いつもと違って、立って外を眺めていた。
俺はそんな彼女に淡々と言い放つ。
「研究対象が逃げたんだよ」
「は…?」
「幸せになるために。この研究所から」
「…逃げるって、どうやって」
こんな檻の中にいるのに出来っこない、といるまは自分の辺りを見回す。
普通に考えたら…そうだよな。
長い間閉じ込められているせいで、研究対象たちの体力は高いとは言えない。
一人で逃げ出すとなっても命を削るようなものだろう。
でも…。
「二人だったから」
「二人?」
「うん …これ以上は言えないなぁ。上に怒られちゃう」
流石に契約があるので過度な情報提供はできないが、頭の良い彼女ならすぐ勘付くだろう。
「研究対象同士…いや、違う」
ほら。
「研究者と、研究対象で?」
少し間を置いて。気づいた時にはもう、伺うようにこっちを見据えてくる。
俺はそうだよ、っていう代わりに人差し指を口に当てて答えた。
「何で…そんなこと。だって研究者たちは、私らのこと〝希少種〟としか見てないだろ」
「……」
「そうなんじゃないの?」
自分の腕を抱えるようにしてこちらに問いかけてくるいるまは、自虐的に見える。
自分なんか救われないって、そう思っているのだ。
だから…そんなに。
俺に縋るような目をするのだろう。
「…答えて」
決して、俺だからじゃない。
俺に向けられた期待ではない。
そう言い聞かせる。
「…研究者全員が、そういう目で見てるわけじゃないよ」
「最初は仕事だからとしか思ってなかったけど…こんなことしてる自分が分からなくなる時だってある」
「本当はできることなら…っ、」
できることなら、連れ出してあげたい。
外へと飛び出して…いるまを、幸せにしてあげたい。
でもそんな言葉は俺の口から出ることはなかった。
「ごめん…喋りすぎた。何でもない」
「っ…」
「……サイレンは、そういうことだから。それだけ。おやすみ」
「待てっ! らん…、」
いるまの声が聞こえないふりをして、俺は背を向ける。
何度も何度も呼ぶ声を無視して、また最低なことを繰り返す。
身を焼かれるような思いを隠しながら遠ざかっていく。
けど扉に手をかけた瞬間、
「出せ…!! ここから…出してよ!」
「っ、」
聞こえてきたその言葉に、思わず足を止めてしまった。
ゆっくり振り返ると、檻の格子にしがみついたいるまが…涙を流しながらこちらを見ている。
「私はっ…私らだって人間だ。おもちゃなんかじゃないっ!!ちゃんと自分の意思があるっ!」
「いるま…」
「出してよ…らん」
紫色の蝶が、ひらひらとこちらに飛んでくる。
駄目だ…。
「らんしか…いない、」
駄目だって…。
「私はっ、らんとつが…っ!」
「いるま」
その言葉の続きを聞きたくなくて、思わず彼女の口を手で塞いだ。
「そんなこと…言っちゃ駄目」
「なん、で」
「ここを出たいから、でしょ?」
「え…」
「俺と番になって…一生。どうしようもないくらいの愛をうける覚悟、ないでしょ?」
一瞬、彼女の顔が強張る。
ハッとしたようにすると…また、静かに。頬に涙が伝った。
俺はその涙を掬って、自分の舌に持っていく。
そのままペロッと舐めると…彼女は息を呑む。
「だから…駄目」
言葉を失ったいるまの表情を見るとやっと、研究者として最低なことをしたのだと確信した。
「220番。寝なさい?」
俺はそれだけ言ってまた立ち上がると、そのまま扉を開いて外に出る。
改めておやすみって言ってあげられるほど…俺は強くなかった。
また数ヶ月前のいつの日かのように、廊下へと座り込む。
「ははっ…」
自分で言っておきながら、口に出すときついもんだな。
いるまは俺自身を望んでいるわけじゃない。
好きなわけがない…こんな、最低な男のこと。
外に出るための口実に使いたいだけだ。
「くっそ…」
桃色の蝶は、まるで扉の向こうへ行きたいと言うように。
ひらひらと飛び惑う。
わかってる。
きっともう。隠しきれない。
…何で言っちゃったんだろ。二人が逃げたこと。研究者が必ずしも希少種を研究対象としてしか、見てるわけではないこと。
そんなこと言ったら…彼女は外に出る方法を見つけるだけだ。
「馬鹿だよ…俺は」
「初めまして」
「……」
「今日から君の担当研究者になる、桃井蘭です」
紫野いるま。
初めて会ったときの第一印象は、寡黙な子。
美しい容貌で静かに。抵抗することもなくこちらを見つめてくる。
「220番、よろしくね」
「…よろしくなんて、したくねぇ」
「あら反抗的」
「けど…もう、ないだろ。望みなんて」
…あぁなるほど。そういうこと。
そのときの俺は確信した。
抵抗もしない。絶望もしない。
この子は諦めたんだって。
幸せな未来を。自分の好きなように生きれる望みを…捨てたんだ。
今までにそういう子もいたけど、ここまでではなかった。
ここまで…諦めた。大人びた顔をしていなかった。
だから、切なく思ったんだ。明るいと調査書に書かれるような女の子が、少しも笑いもしなかったことを。
「220番」
「……」
「君、バスケが好きだったんでしょ?ボール持ってきてみた」
同情から…?
いや、そんなことはなかった。自分でも…不思議だったけど。
何故か俺は、この子の笑顔を見てみたいと思ったのだ。
「触ってみる?」
「……」
少しして返ってきたのは強がりな表情と。
「できないのに…もう、外に出れないのに。やる必要ない」
そんな顔をしても隠せない、震えた声。
「そっか。じゃあまた別の物持ってくるね」
俺は懲りもせず、何度も何度も。
彼女の好きだったもの、得意だったことを思い出させるようなものを持って行っていた。
そんな生活が半年ほど続いた、ある日。
「その呼び方やめろ」
「? 呼び方?」
「……人間扱いもしてくれないわけ、」
段々と口数が増えてきて。
少しずつだけど、俺とまともに会話してくれるようになった頃。
寂しそうにそう言われた。
最初はどういう意味かわからなかったけど、少しして。
あぁ…と、思い立って。
迷ったけど、俺は口にした。
「〝いるま〟」
そのとき彼女の表情は、いつまで経っても忘れられない。
久しぶりに呼ばれた名前に何か特別なものがあったのか。
彼女は…俺の前で初めて。
心底嬉しそうに笑った。
「なに、らん」
同時に初めて。
俺は研究対象である子に、名前で呼ばれた。
頬を少しだけ染め、前にあげたテディベアのぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
美しくて儚い、中性的な子。
そんなイメージを壊すように。
笑った彼女は、希少種…研究対象なんかではなかった。
ただの…可愛い一人の女の子だった。
その時からだ。
俺がいるまを番号ではなく名前で呼ぶ様になったのは。
純粋に笑った彼女を、好きだと…思ってしまったのは。
疑問にも思っていなかった自分のやっていることに、嫌気がさすようになったのは。
「私はっ、らんとつが…っ!」
彼女の口を塞いだ。
その先の言葉を…聞きたくなかったから。
〝私はらんと番になってもいい〟
駄目だよ…いるま。
そんな思わせぶりなこと言っちゃ駄目。
…みことの言葉を思い出す。
らんらんにはいないの?そういう人
___いるよ。
ずっと。本当はずっと。
好きだと気づいたときから思っていた。
俺がいるまの、番だったらいいのにって。
ずっと隠してきたつもりだった。
でももう…無理かもしれない。
隠した分、俺の想いは想像以上に大きく膨れ上がってしまっていたようだ。
いるまの幸せにはならない。
それでも、俺はあの子を…強引に奪ってもいいのだろうか?
手に一つのメモを握って、ぼんやりと。
またそんな最低なことを考えた。
冷たい檻の中から外を見つめる。
柄にもなく、涙が止まらなかった。
自分が政府の調査によって希少種だと分かった数年前。研究所に連れてこられた私は、何もかも希望を失っていた。
「いるま〜!」
「いるまー!!」
いつも近くにいた友人たちと会うことも、家族と会うことも。大好きだったバスケをすることも、オシャレをすることさえもう叶わない。
220番。初めてそう呼ばれてから、自分の名前を呼ばれることでさえ諦めようと思った。
そんな私が。
壊れ切った私が…唯一、話すことを許された人間。
「今日から君の担当研究者になります、桃井蘭です」
「よろしくね、220番」
…桃井蘭だった。
いつも淡々と話し、表情はあまり変化させない。
隙のない男、だと思った。やることをサッとこなして去っていく。言い方を変えれば、ロボットみたいな奴。
研究者なんて皆、私たちを閉じ込めている側だ。
冷徹で、最低で、嫌い。大嫌い。
きっと何の罪悪感も覚えていないのだろう。
生涯好きになることはない。嫌いだと、思っていたのに。
…彼は想像以上におせっかいで、本当は人間らしい奴だった。
私の好きだったもの、好きだったこと。
何処から調べてきた?…とか思っても、きっと研究者たちは調査済みなのだろう。
らんは何度も何度も持ってきた。
その度に、私は研究者の意図がわからなくなった。
「くまさん」
「!」
「好きなの…?w」
「うっせ、悪いかよ」
「ははっ…wいや、悪くないと思う」
いつの日か彼が持ってきた、テディベアのぬいぐるみ。
それまで好きなものでも全て突き返していたのに…私は。
衝動で檻の中からそれを奪い取ってギュッと抱きしめた。
「…何で笑うんだよ」
「いやw想像以上に可愛らしいなって思って」
「可愛いだろ、くま」
「ん? あぁ…そうだね、可愛いねw」
らんは笑いながら私の頭を優しく撫でた。
「220番は思ったより鈍感だ〜」
「何がだよ」
「わかってないあたり」
「?」
何が何だかわからなかったけど、ただ驚いたのを覚えている。
こいつはこんな顔するんだって。
わからない。
閉じ込めるような最低な奴が、どうしてここまで私に構ってくるのか。
おせっかい…だと思いながらも。
らんは、何処か信じてみても良いかもしれないって。そのときの私は、馬鹿だから思ってしまった。
誰か信じれる人が欲しかったんだと思う。
「〝いるま〟」
220番って呼ばれるのが嫌になって。
もしかしたら…らんなら頼めば呼んでくれるかもって思って。
淡い期待を抱きながら遠回しに頼んだ。
そう言われたときに呼ばれた、いるまっていう本当の名前。
嬉しかった。
久しぶりに呼ばれるのは、想像以上に嬉しくて暖かかった。
「なに、らん」
私は初めて呼び返す。
例えらんが表面上だけ私に良くしているとしても。
例え…他の研究者たちみたいに、らんが最低最悪な奴だとしても。
良いと、思ってしまった。
なのに…あんなこと言うから。
上部だけで良いと思ってたのに。
「…研究者全員が、そういう目で見てるわけじゃないよ」
「最初は仕事だからとしか思ってなかったけど…こんなことしてる自分が分からなくなる時だってある」
「本当はできることなら…っ、」
そんなのらん自身が。
私を救いたいと…願ってると、言っているようなもんだ。
本当にそうなのだとしたら、いい。
私はらんの番になったっていい。
らんとなら、一緒に外に逃げてみるのも悪くないと思う。
いや…私はどこまでも、素直じゃない。
「俺と番になって…一生。どうしようもないくらいの愛をうける覚悟、ないでしょ?」
驚いて、うまく答えられなかっただけ。
外に出たいと思うのは本心だ。
だから彼を利用したいのも…本心だ。
けど、それ以上に。
____らんの番になりたい。
それが私の本音だった。
「…馬鹿だ、私も。あいつも」
サイレンが鳴り響いたあの夜から数ヶ月が経っても、最低限しか口を聞くことはなかった。
彼が何かを話そうとすることはあるけど、すぐに口を閉じて部屋を出て行ってしまう。
引き止めようとしたこともあったが、仕事があると言われ避けられてしまった。
そんな…空虚な日々が続いていた。
もう、らんは私を見てないのだ。
認めたくない。
けど何処かでそう思った。
檻の中で横になる。
冷たい。
ひんやりとした檻の硬い感覚が私の思考をはっきりとさせる。
いっそ、このまま寝てしまいたい。
このまま目覚めなかったら、何も考えなくて済むのかな。
なんて…あるはずもないが、目を閉じる。
暗い部屋に差し込む月明かり。
ひらひらと舞う紫の蝶を視界の最後に、私は意識を手放した。
寝ている間に見たのは、幸せな夢。
家族に見守られながら家を出て、学校で普通に友達と話して、大好きだったバスケをしていた。
そこに蝶なんていう柵はなかったけど。
私が不意に訪れた場所にいたのは、らんだった。
夢の中での私たちは研究者と研究対象なんかではなかった。
他愛ない話をして、普通に笑っていた。
夢の中での私も相変わらず可愛げがないことばかり言っていたけど、らんは笑いながら頭を撫でてくれた。
……子供扱いされてるみたいでムカつく。
そんな思考を片隅に置きながら、嬉しい気持ちもあった。
あぁ…こんな風に。
こんな風に、なれたら良かったのに。