乱闘のあと、中学生を見送った帰り道。
まだ心臓が少しだけ早く打っている気がして、みことは小さく深呼吸をしていた。
その隣を、すちは静かに歩く。
「みこと、疲れてない?」
「ううん、大丈夫。……ありがとう、すち」
みことが笑うと、すちはその表情に、ふっと目を細めた。
「……ほんと、みことの笑顔って、ずるいよね」
「え?」
「なーんでもないよ。こっち来て、ちょっと座ろう」
路地裏の静かな角。
すちはさりげなく手を引いて、石段にみことを座らせた。
そして、小さな救急ポーチを取り出す。
「……また膝、擦りむいてる」
「えっ、あ……気づかなかった」
「だろうね」
くすっと笑いながら、すちはみことの膝に優しく薬を塗っていく。
「あのさ」
「ん?」
「痛いときは、ちゃんと痛いって言って?」
「……でも、俺、あんまり痛くないっていうか……慣れちゃってて」
「それが、良くないんだってば」
塗り薬を塗ったあとの絆創膏をそっと貼る手つきは、まるで大事な宝物を扱うように優しい。
「……みことの身体、大事にして。俺が言うのも変だけどさ」
「うん……ありがとう、すち」
みことが俯き気味に呟くと、すちはそっとその頭に手を置いて、軽く撫でた。
「なでると、落ち着くって言ってたよね。前に」
「……うん。すちの手、あったかいから」
その言葉に、すちの手がわずかに止まる。
けれどすぐに、またやさしく撫でる動作を再開した。
「じゃあ、もっと甘えていいんだよ。……俺は、全然迷惑じゃないから」
「……いいの?」
「当たり前でしょ」
そう言うすちの声は穏やかで、でもどこか切なげだった。
言いたいことはたくさんある。
けれど、今はただ――好きな人が安心してくれれば、それでいい。
「ありがと、すち。……すちがいてくれて、よかった」
「……俺も、そう思ってるよ」
甘えさせることでしか伝えられない、片思いのやさしさ。
触れるだけのぬくもりに、みことは気づかないまま、すちの胸に少しだけ寄りかかった。
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6~8話それぞれ ♡150↑ 3話公開