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「…痛い…」
火で熱された 針に肉を裂かれ焼かれたようで腕は酷い状態になっていた。
傷跡は目も当てられないほどの惨状だが、紋様はくっきりと刻まれている。
(あの魔女…なんであんな呪いを?)
取り敢えず、アレンはガーゼでぐるぐる巻きにしておいた。
多分処置法は間違っているがここには水なんかないのでしょうがない。
(あくまでも、俺の目的は皇女殿下をお助けすることだ。
これぐらいのことでへばってなんかいられない。)
アレンは僅かに濡れた目元を袖で拭って、腰の剣に触れた。
(…父上…私はきっと、皇女殿下をお救いして戻ります…!!)
ほんの少し進んだだけで、魔王のいるらしき場所まで辿り着いた。
大きな扉はアレンの身長を悠々と越している。
重い扉を開くと、そこにはー
幸せそうな令嬢が短髪の青年の口元にイチゴを運んでいた。
「やめろ!!」
「もう、いいじゃないですかあ。はい、あーん♡」
「っ…王城に送り返すぞ!」
「えへへ、魔王様ったら。そのセリフ20回は聞きましたよ〜」
「こっっの…大人しくしてろ!」
「大人しくして欲しいんでしたらキスして…?」
「お前本当に皇女か!?」
耳まで赤くなった青年は、こちらを見てハッとした表情を向けた。
「っ…!?」
「…は…? 」
(なんだ…この…甘々な空気…)
「あらまあ、貴方が勇者なの?お久しぶりね!」
「こ、皇女殿下…?!お怪我は…ありませんよね…。」
「ねえ魔王様?この人勇者になったんですって!頑張って鍛錬していましたものね!」
「皇女殿下、一体、これは…?」
アレンが動揺して彼女を見ると、徐々に頬を染めて皇女は呟いた。
「じ、実は、その…私たち、心が通じあっているの!」
「はああ!?か、勝手に決めつけるな!お前など好きでもなんでもない!」
「えーん、魔王様が意地悪します!」
「っ、あ、お、おい泣かなくてもいいだろ…!?」
(生クリーム以上に甘ったるい…)
アレンは絶句して2人を傍観した。
「ということで…勇者さん?お父様にいい感じに報告しておいてくれないかしら?」
「…と、いうことでございますが…」
「なんだと…!?」
皇帝は絶句して俯いてしまった。
(怒る、よな。殿下を引っ張ってでも連れて帰ってくればよかっただろうか。)
しかしあの幸せを崩すのも嫌だ。アレンは心の中が大きく渦巻くのを感じていた。
(俺は処刑か?)
皇女を連れて帰れとの命令を無視した挙句、彼女は魔王と恋に落ちた。こんな馬鹿げた話があるだろうか。
(でも、当然か…)
「まあ、幸せならばそれでよいだろ う。」
「は…?」
「そうですね、陛下。私も皇女殿下が幸せならばそれで良いかと。」
重臣は口々に告げる。
(い、いや、嘘だろ…?それでいいのか!? )
娘が知らない男と駆け落ちしたも同じこと。それも一国の皇女が。
(ありえ…ない…)
「ふむ、無駄働きとなってしまったが、勇者アレンよ。褒美をさずけよう。なにか申してみよ」
「え…よろしいのですか?」
「ああ。我が娘を命を懸け助けに向かってくれた…その勇気を讃えようじゃないか。」
(褒美まで貰えるとは…予想外だな。)
アレンは暫く考えると、皇帝に頭を垂れた。
「小さな森と、家をください。」