アレンは城下町の酒場へと連れ込まれ、朝から晩まで浴びるように酒を飲まされていた。
「いやあ、やっぱりすげえなあ。さすが勇者様だぜ。」
「はは、は…」
(いや、俺伝言しただけなんだけどな。)
「本っ当に素敵よ。どうかしら、私の娘と結婚なんて。」
「はは、遠慮します… 」
(疲れた!!)
何時までここにいればいいのだろうか。
アレンはうんざりしてきていた。
「つーか、あんた。王からの褒賞、北の森とちいせえ家だって聞いたぜ。」
「ああ…それがどうかしたか。」
「ええっ、信じられないわ!私たちが直談判してきましょうか?報酬が少なすぎるじゃない!」
「それに北の森だなんて…陛下は正気か?」
「皇女殿下を助けに行ったっていうのに、全くおかしな話だ!」
「い、いや、俺が望んだんです。」
そういうと、周りの人々は揃って口を開いた。
「「嘘だ!」」
「いや、嘘じゃないですけど…」
「なんたってあんな森にしたんだ?」
北の森。
魔獣が多く、あまり人間が住むには適さない土地。
アレンはそんな森の端に、小さな家を所望した。
「静かなところで暮らしたかったんです。剣は得意なので、魔獣に襲われる心配は特にしていませんし。」
「だからってよ…」
「なんて…なんて…」
「なんて謙虚な勇者様!素敵!!」
アレンのジョッキに大量の酒が注ぎ込まれた。
(いや、もう無理だし…)
「ん、勇者さん、その手袋ずっとしてるがかっこいいなあ。ちょっと見せてくれないか…」
「あっ 」
アレンは焦って腕を隠した。
「す、すまない」
「ああ…いや、俺も無神経だったな。すまねえ」
と、その時だった。
「アレン様、少しよろしいでしょうか。」
(皇室の騎士…?)
この場から逃れられるのなら、もう何だっていい。アレンはさっさとついて行った。
(というか、何の用だ?)
「家が建ったとの報告がありましたので、ご案内します。お支度を。」
「分かりました。」
(早くないか…?)
だがこの酒場にいつまでも拘束されるのも御免だ。そのまま騎士を見ると、彼はおどおどとして聞いてきた。
「その…荷物はそれだけですか?」
「ああ、はい。」
「で、では行きましょうか。」
馬に跨ると、爽やかな風が頬を撫でた。まだ冬も明けきっておらず、冷たい風が首元から流れ込んでくる。
(寒いな…)
「いい天気ですね。」
「そうですね…」
もう朝が来ていただなんて知らなかった…
「ここです。」
案内されたのは、森の中にある小さな家だった。オレンジ色の煉瓦でできた屋根は真新しい。白い壁は眩しかった。
(うわあ)
「これを…数日で?」
「頑張っていましたよ。」
花壇には雑草のようなそうでも無いような、オレンジ色の花が咲いている。木の扉を開くと、オレンジで整った家になっていた。
(すごい!)
「この家具は…?」
「陛下からのプレゼントと思ってください。」
「あ、ありがとうございます。」
「では私は戻りますね。勇者様、色々お疲れ様でした。」
「…そちらこそ、お疲れ様でした。」
騎士は少しも休まず首都へ向かって馬を走らせ行ってしまった。
「…素晴らしい家を貰ってしまった…」
何故オレンジ色に統一されているのかは分からないが、心が明るくなるのでアレンは気に入った。
机には花瓶まで乗っていて、例の雑草かよく分からない花が飾られている。
(…人生、何が起こるかわからないな。)
「ここで、あと何千年過ごすんだろう。」
勇者には秘密があった。
(まさか魔女の呪いが、不死の呪いだなんて。)
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