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ruruha
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#執着
さぶれ
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49
#元カレ
まぁ
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天井で燦然と輝く巨大なシャンデリア。絢爛豪華なドレスや礼服に身を包んだ、この国の最高位の貴族たち。冷えたワイングラスを片手に持ちながら、冒険者――レオは国王が主催する華やかなパーティー会場の壁際に佇んでいた。
一介の冒険者に過ぎない彼が、なぜこのような煌びやかな場所にいるのか――。
─────
事の始まりは、三週間前のことだった。
討伐依頼の帰りに、息抜きで立ち寄った街の小さな本屋での出来事だ。
「本屋に入るなんて、前世以来だな……」
そんな軽口を叩きながら、三人で何気なく棚を眺めていた時のこと。ふと、片隅に置かれた一冊の薄い冊子が目に留まった。
「物語……じゃないな。詩集か?」
吸い寄せられるように手に取り、何気なくページを開いた瞬間――胸の奥が激しくざわついた。
かつての仲間であり、俺たちの中心にいた“あいつ”を強く思い起こさせるような言葉や独特の表現が、ページのそこかしこに散りばめられていたのだ。
「なあ、これ――」
他の2人は気づいていなかったようだが、レオの中でそれは確信へと変わっていった。
これは、あいつの言葉だ。例え文字は変わっていても、伝わってくる旋律と感情は間違いなくあいつのものだった。
しかし、著者名は――どこにも記されていない。
店主の話によると、どこかの高貴な貴族がお忍びで書いたものであり、最近下町で密かに人気を集めているらしい。出回っている数が極めて少ないため、手に入れられたら幸運な代物なのだという。
「お兄さん、お目が高いね! ついにそれを見つけちゃいましたか!」
店主が威勢よく商売文句を並べ立てる。本当の評判なのか商売上の策略なのかは判然としなかったが、俺は迷わずその本を購入することにした。
貴族が書いたにしては、驚くほど控えめな価格設定だった。金儲けのためではなく、ただ“誰かに読んでほしい”という純粋な祈りのような気持ちが、価格の低さからも痛いほど伝わってきた。
作者に直接会えば、何か分かるかもしれない。
そう思ったものの、一介の冒険者でしかない俺たちが貴族に接見できる術などあるはずもなく、歯がゆい時間だけが過ぎていった。
そんな折、街の近くに強力な魔物の群れが出現した。
偶然現場に居合わせた俺たち三人がそれを速やかに討伐したことで、その顕著な功績を称えるという名目で、王が主催するパーティーに招かれることになった――というわけだ。
─────
「呼ばれたのはいいものの……暇だな」
国王への一通りの挨拶も、貴族たちとの形式的で退屈な挨拶も終えた今、レオにはもうやるべきことが残っていなかった。
どうやら平民上がりの冒険者であるレオには、高慢な貴族たちの誰も興味を示さないらしい。
少し離れた歓談の輪では、エルフ族とウルフ族の二人が、大勢の貴族たちに物珍しそうに囲まれていた。
エルフのアカリ。
ウルフ族のハヤト。
二人とも前世からの大切な仲間であり、共にこの世界へ転生してきた存在だ。
異世界において珍しい種族である二人は、貴族たちにとって「コネを作っておきたい対象」なのだろう。……それにしても、辟易している彼らの表情には少し同情する。
俺は遠くから遠慮がちに「がんばれ」と口パクで伝え、その場を静かに離れた。
このパーティーへの招待も、純粋に俺たちの功績を称えるためというよりは――
“どんな能力を持った奴らなのか、王家の前でお披露目して見極める”という意図が透けて見える。
まあ、政治的な思惑などレオにはどうでもいいことだった。
――その時だった。
「あれがアルベール公爵家の……」「美しい方だな」
「これで魔法の才能さえあれば完璧なのですが……」「惜しいことですな」
周囲の貴族たちのひそひそ話に耳を傾けると、聞き捨てならないその名前が聞こえてきた。
「リリー・アルベール……」
視線を向けると、そこには青髪の気品ある青年と、透き通るような白髪を持った息を呑むほど美しい令嬢が立っていた。
だが、幾重にも重なる貴族の人だかりに阻まれ、彼女の表情まではよく見えない。
「リリー・アルベールは、魔法が一切使えませんのよ」
突然、真横から甲高い声で話しかけられた。
振り返ると、そこにいたのは派手で装飾過多なピンク色のドレスに身を包んだ少女――この国の王女、アリーシャ姫だった。
「あなた、確か噂の冒険者の方ですわよね?」
「はい。レオと申します。アリーシャ姫とお言葉を交わすことができ、大変光栄に存じます」
形式通りの礼を返すと、姫は「当然ですわ」と言わんばかりに満足げに胸を張り、ドヤ顔で頷いた。
(こんな傲慢な王女で、この国は大丈夫なのだろうか……?)
ただ形式的な挨拶をしただけでこの威張りようである。思わず口から漏れそうになった呆れ言葉をぐっと飲み込み、俺は前々から気になっていたことを尋ねてみた。
「魔法が使えない、とはどういうことですかな?」
「言葉通りの意味ですわ。代々高位の魔法を生業としている公爵家でありながら、リリーは一切の魔力を持たずに生まれてきた“出来損ない”なのですから」
「……なるほど」
「ねぇ、あなたのお顔、案外私好みですわ。私の専属の執事になってくださらない?」
「……は?」
(今、なんて言ったんだこの王女)
出会ってまだ一分も経っていない見知らぬ人間に、いきなり執事になれだと?
「身にあまる光栄にございますが、俺はしがない冒険者に過ぎません。そのような大役、ただの平民には到底務まりませんので……お受けすることはできません」
(……こんな身勝手な王女で、本当にこの国は大丈夫なのか)
思わず二度目の呆れ言葉が出そうになり、慌ててそれを喉の奥へ押し戻す。
アリーシャ姫はまだ何事か不満そうに叫ぼうとしていたが、俺は隙を見てその場から速やかに逃げ出すことにした。
騒がしい会場を離れ、静かなバルコニーへ向かって歩いていると、月明かりの下に一人の人影を見つけた。
リリー・アルベールだ。
夜風に揺れる月光の下、静かに夜の海を見つめる彼女の立ち姿は、誰も寄せ付けないほど美しく、そしてどこか壊れてしまいそうなほど寂しげだった。
次の瞬間、風に乗って、かすかな歌声が耳に届いた。
優しくて、澄んでいて、切なく胸を締め付ける旋律――
……あぁ、この歌。
知っている。
他の誰も知っているはずがない。
あれは、かつて前世で、俺とあいつの“二人だけで作った秘密の曲”だ。
(間違いない……目の前にいるのは――)
月明かりに照らされた白い髪の少女。
彼女の横顔は、まるで夜の女神のように幻想的で美しかった。
──────────ここにいたんだな、鈴。
感情を抑えきれず、思わず話しかけようとした瞬間、彼女がふとこちらを振り返り、視線が重なった。
「あっ……申し訳ございません。聴かれていましたか?」
俺が静かに頷くと、彼女はぽっと頬を朱に染め、夜風に乱れた髪を細い指先で整えながら、気品ある仕草で名乗った。
「はじめまして。リリー・アルベールと申します。以後、お見知りおきを」
「怜央と申します。……ただの冒険者です」
「レオ……様……」
(お願いだ……前世の記憶があると言ってくれ。鈴、頼む……!)
彼女はしばらく首を傾げて考え込むような素振りを見せた後、パッと手を叩いて思い出したように微笑んだ。
「あっ!」
(……すず……!)
「街でゴブリンの群れを討伐してくださった、あの有名な冒険者パーティの方ですね!」
「………………そうです。俺たちのパーティです」
「素晴らしいご活躍ですね。町の人々や民を危険から救ってくださり、本当にありがとうございます」
(――あぁ。やっぱり、記憶は……無いんだな)
絶望にも似た切なさを胸の奥に隠しながら、俺は問いかけた。
「さっき歌っていらした曲は、何という曲なのですか?」
「え?」
「あまりにも素敵で、耳から離れませんでしたので」
彼女は再び遠くの夜の海へと視線を戻し、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「……自分でも分からないのです。ただ、急に頭の中に綺麗な旋律が浮かんできて……」
前世のあいつもそうだった。
起きている時も眠っている時も常に音楽のことを考えていたあいつは、日常のふとした瞬間に突然素晴らしいメロディを思いつく天才だった。
「ところでレオ様……もしかしてアリーシャ様に無理難題を言われたのではありませんか?」
思い出に浸っていた俺は、彼女から突如投げかけられた言葉に思わず目を丸くした。
「……どうしてそれが分かったのですか?」
「先ほど、お二人がお話しされているのを遠目でお見かけいたしましたの。レオ様がとても困っていらっしゃる様子でしたので……アリーシャ様のことですから、きっと無茶なお言いつけをされたのではないかと」
「ええ。いきなり『執事になれ』と言われてしまいまして……参りました」
「やっぱり……。ふふ、もしまたアリーシャ様に困らされるようなことがあれば、私におっしゃってくださいね。微力ながら何とかいたしますから」
そう言って和やかに微笑んでいた彼女だったが、ふと真剣な眼差しに変わると、じっと俺の瞳を見つめてきた。
「あの……私とレオ様、どこかでお会いしたことはございませんか?」
「……え?」
「最初にお顔を拝見した時から、なんだかとても懐かしくて。今日が初対面ではないような……そんな不思議な気がしたのです」
姿形が多少変わろうとも、その真っ直ぐな瞳の輝きは、あの日と何一つ変わっていない。
ただひたすら音に真摯に向き合っていた、あの頃の“鈴”そのものだった。
いつだって一番近くで俺のギターを聴いてくれていた、最高の相棒。
───もう一度、お前と話したい。
───もう一度、あいつらと一緒に音楽を作りたい。
───もう一度、お前の声で、歌ってほしい。
叫び出したいほどの溢れる思いは、しかし、会場の中から響き渡った騒がしい叫び声によって唐突に遮られた。
「い、嫌よ!!! 絶対に嫌ですわっっ!」
「おい、どうするつもりなんだ……っ」
室内から漏れてくる怒号と混乱の気配に、パーティー会場全体が騒然となり始める。
「会場で何かあったようですわね。……少し様子を見てまいります」
リリーはそう言って丁寧に一礼をすると、優雅な動作で会場の中へと戻っていった。
(俺は……なんて言えば正解だったんだろうか)
前世の記憶がないと分かっていながら、心のどこかでまだ期待してしまっていた自分がいた。
……いや、これで良かったんだ。これで――
「俺も、会場に戻るか」
俺は夜風に溜息を吐き出すと、彼女の後を追うようにゆっくりと歩き出した。
コメント
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うわー、これはもう… 音楽が二人だけの秘密の記憶の鍵になってるのが、すごく切なくて美しいですね。シーンごとに匂わせるように配置された伏線が、物語の奥行きをぐっと深めてる。特に「リリーには記憶がない」と確信したあとの、それでも重なる仕草や言葉の一つ一つが、前世の絆を感じさせて泣けます。次が気になる!