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前回の続き
〇〇side
何も言えないまま、
ただ座ってる。
嶺亜くんの言葉が頭の中でぐるぐるしてる。
「ちゃんと好きだよ」
その一言がずっと残ってる。
〇〇「……」
息が少し浅い。
考えようとしても、
まとまらない。
その時——
ふと、
別の記憶が重なる。
廉。
あの時の表情。
声。
「待つ」って言ったあの感じ。
〇〇「……」
胸がきゅっとなる。
あれから終わってない。
ちゃんと終わらせてない。
気持ちも、
関係も、
ずっとどこかで繋がったまま。
〇〇(私、まだ……)
完全には切れてない。
なのに——
嶺亜くんの言葉で、
今、揺れてる。
〇〇「……」
わからない。
どっちがどうとかじゃなくて、
そもそも
“恋ってなに”ってところで止まる。
好きってなに。
なんで揺れるのか。
なんで今こんなに苦しいのか。
〇〇「……っ」
視界が少しぼやける。
気づかないうちに、
涙が溜まる。
〇〇(なんで……)
自分でも分からない。
悲しいわけじゃない。
でも苦しい。
混乱してる。
そのまま——
ぽろっ。
一滴、落ちる。
〇〇「……」
自分で一瞬止まる。
なんで泣いてるのか、
分からない。
でも止まらない。
ぽろ、ぽろって、
静かに落ちていく。
声は出ない。
ただ涙だけ。
嶺亜「……」
隣でそれを見る。
一瞬だけ動きが止まる。
驚きと、
でもすぐに理解したみたいな目。
嶺亜「……ごめん」
小さく言う。
でも〇〇は首を振る。
〇〇「……ちがう」
声がうまく出ない。
〇〇「私が……」
言葉にならない。
嶺亜はそのまま、
少しだけ距離を詰める。
〇〇は動けない。
涙を拭くこともできない。
嶺亜「……無理させた」
静かに言う。
その声が少しだけ近い。
〇〇「……」
返せない。
そのまま——
嶺亜の腕が動く。
そっと、
〇〇を引き寄せる。
ハグ。
優しく。
強くじゃない。
逃げ道を残すみたいな抱き方。
〇〇「……」
一瞬、固まる。
でも抵抗できない。
嶺亜の胸に少しだけ当たる。
あったかい。
嶺亜「……大丈夫」
小さく言う。
〇〇「……」
また涙が落ちる。
理由は分からないまま。
でも、
少しだけ落ち着く。
嶺亜は何も言わない。
ただそのまま、
静かに抱き寄せてる。
〇〇は、
何も整理できないまま、
その腕の中で、
動けなくなってる。
嶺亜くんの腕の中。
優しく引き寄せられて、
そのまま動けない。
〇〇「……」
涙は少しずつ落ち着いてきてるのに、
頭の中はまだぐちゃぐちゃ。
嶺亜「……」
何も言わない。
ただ近くにいる。
その距離が——近い。
〇〇は少しだけ顔を上げる。
自然と、
上を見る形になる。
身長差。
嶺亜くんの顔がすぐそこにある。
〇〇「……」
近い。
思ったよりずっと。
さっきまでとは違う距離。
目が合う。
逃げ場がないくらい近い。
嶺亜の目は、
さっきと同じで真っ直ぐ。
でも少しだけ柔らかい。
〇〇の呼吸が少しだけ乱れる。
〇〇(近い……)
分かってるのに、
離れられない。
嶺亜の腕は強くないのに、
抜けられない。
〇〇「……」
何か言おうとしても、
声が出ない。
嶺亜も何も言わない。
ただ見てる。
その距離のまま。
〇〇の目にまだ少し涙が残ってる。
それを見て、
嶺亜の表情が少しだけ揺れる。
でも離さない。
〇〇はそのまま、
視線を逸らせなくなる。
嶺亜くんの顔が近すぎて、
余計に意識する。
さっきまでの混乱に、
また別の感覚が混ざる。
ドクン。
心臓がはっきり鳴る。
〇〇「……」
息が少し詰まる。
でも嫌じゃない。
怖くもない。
ただ——
分からない。
この感じが何なのか。
嶺亜「……」
小さく息をする音が聞こえるくらい近い。
〇〇の視界はほとんど嶺亜。
逃げ場がない距離。
なのに、
なぜかそのまま動けない。
嶺亜の手が少しだけ動く。
背中に触れてる感覚が、
さっきより少しはっきりする。
〇〇「……」
また視線が合う。
近いまま。
何も言わないまま。
でも、
さっきとは違う空気。
涙のあとの静けさと、
距離の近さが混ざってる。
〇〇は、
その場から動けないまま、
ただ嶺亜くんを見てしまう。
ーーーーーーーーー
北斗side
部屋にいるはずなのに、落ち着かない。
ソファに座っても、立っても、同じ。
北斗「……」
さっきから何回も時間を見る。
まだそんなに経ってない。
でもやけに長く感じる。
北斗(……長すぎだろ)
小さく息を吐く。
嶺亜の言葉が頭から離れない。
“ちゃんと好きだよ”
“僕は動くんで”
北斗「……」
立ち上がる。
数歩歩いて、止まる。
でも——
今度は止まらない。
北斗「……」
そのまま玄関へ向かう。
靴を履く。
無意識。
考える前に体が動いてる。
北斗(……ちょっと見るだけ)
自分に言い訳しながら、
エレベーターへ。
ボタンを押す。
静かな時間。
ドアが閉まる。
北斗「……」
無言。
降りていく間、
嫌な想像ばかり浮かぶ。
北斗(……まさか)
頭を振る。
でも消えない。
チン。
エレベーターが開く。
ロビー。
足を踏み出す。
視線を上げた瞬間——
北斗「……っ」
止まる。
少し離れたところ。
見える。
〇〇と嶺亜。
そして——
抱き寄せられてる。
ハグ。
〇〇は抵抗してない。
そのまま。
嶺亜の腕の中。
北斗「……」
音が消える。
一瞬で。
視界がそこだけになる。
北斗の足が止まる。
動けない。
北斗(……マジかよ)
頭の中で響く。
でも声にはならない。
目の前の光景が現実なのに、
どこか現実じゃないみたいに見える。
〇〇の顔は見えない。
嶺亜の肩越し。
でも——
離れてない。
北斗「……」
拳が少しだけ強く握られる。
胸の奥が、
はっきり痛む。
北斗(……遅かった)
小さく思う。
でもそれ以上何もできない。
呼ぶことも、
割って入ることも、
できない。
ただ——
立ち尽くす。
見てるしかない。
目を逸らすこともできないまま。
抱き寄せられてる〇〇。
嶺亜の腕の中で、離れてない。
北斗「……」
呼吸が浅くなる。
足が動かない。
頭では分かってる。
まだ何も決まってない。
でも——
その距離がすべてに見える。
北斗(……あいつ)
少しだけ眉が寄る。
その時、
〇〇が少しだけ顔を上げる。
嶺亜を見てる。
距離、近いまま。
北斗「……っ」
心臓が強く打つ。
北斗(……やめろって)
思うだけ。
声は出ない。
〇〇の表情。
さっきまで見えなかった顔が見える。
涙。
目元が少し赤い。
北斗「……」
一瞬、思考が止まる。
北斗(……泣いてる?)
予想外。
嶺亜に抱かれてる姿じゃなくて、
“泣いてる〇〇”が先に入ってくる。
北斗の表情が少し変わる。
苛立ちじゃなくて、
戸惑い。
北斗(なんで……)
理由が分からない。
でも確実に普通じゃない。
嶺亜はそのまま〇〇を離さない。
何か言ってる。
小さくて聞こえない。
でも優しいトーン。
北斗「……」
その空気に、また胸がざわつく。
でも——
さっきとは違う。
ただの嫉妬じゃない。
北斗(……あいつ、困ってるじゃねぇか)
気づく。
〇〇は、
流されてるわけじゃない。
固まってる。
迷ってる。
北斗の拳がゆっくり緩む。
北斗「……」
一歩だけ、前に出る。
止まる。
また迷う。
行くか。
行かないか。
北斗(……)
目を逸らさない。
もう一度ちゃんと見る。
〇〇の顔。
涙。
動けないままの体。
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗(……放っとけるわけねぇだろ)
今度は止まらない。
もう一歩。
足を踏み出す。
音が少し響く。
嶺亜が気づく。
視線がこっちに向く。
北斗と目が合う。
一瞬で空気が変わる。
嶺亜の目。
分かってる顔。
でも離さない。
北斗「……」
数歩の距離。
近づく。
〇〇はまだ気づいてない。
嶺亜と北斗。
視線だけでぶつかる。
静かな緊張。
北斗の声が落ちる。
北斗「……離せ」
低く。
はっきり。
空気が止まる。
嶺亜は一瞬だけ目を細める。
でもすぐに、
ゆっくり〇〇を見る。
そのあと、
少しだけ腕の力を抜く。
完全には離さない。
でも強くもない。
嶺亜「……〇〇ちゃん」
静かに呼ぶ。
その声で、
〇〇がやっと現実に戻る。
〇〇「……え」
顔を少し動かす。
そこで初めて、
北斗が視界に入る。
〇〇「……北斗?」
固まる。
完全に。
状況が一気に流れ込む。
嶺亜の腕。
近い距離。
北斗の目。
〇〇「……」
言葉が出ない。
空気が重くなる。
北斗はそのまま〇〇を見る。
さっきより少しだけ近い距離。
北斗「……帰るぞ」
短く言う。
強くはない。
でも逃げ場はない言い方。
〇〇「……」
反応できない。
嶺亜が少しだけ視線を北斗に向ける。
嶺亜「……まだ話——」
北斗「後でいいだろ」
被せる。
低いまま。
嶺亜「……」
一瞬の間。
嶺亜は〇〇を見る。
〇〇はまだ混乱してる。
その状態を見て、
嶺亜は少しだけ息を吐く。
嶺亜「……分かった」
静かに言う。
そのまま、
ゆっくり腕を離す。
完全に。
〇〇の体が自由になる。
でもすぐには動けない。
北斗はそのまま手を伸ばす。
〇〇の手首を軽く掴む。
強くじゃない。
でも確実に。
北斗「……行くぞ」
〇〇「……あ、」
やっと声が出る。
でも逆らえない。
そのまま引かれる。
嶺亜はその様子を見てる。
何も言わない。
ただ——
目だけが、まだ終わってないって言ってる。
北斗は振り返らない。
そのままエレベーターへ向かう。
〇〇は引かれるままついていく。
頭の中はまだぐちゃぐちゃのまま。
扉が閉まる直前、
〇〇は一瞬だけ後ろを見る。
嶺亜。
立ったまま。
まっすぐこっちを見てる。
ドアが閉まる。
遮られる。
密室。
静か。
北斗は何も言わない。
〇〇も何も言えない。
ただ——
さっきまでの空気だけが、
まだ残ってる。
ーーーー
嶺亜side
ロビー。
北斗くんの背中と、〇〇ちゃんが一緒に離れていくのを見送る。
エレベーターのドアが閉まる。
完全に見えなくなる。
嶺亜「……」
静か。
さっきまでの空気だけが残ってる。
嶺亜はその場から動かない。
視線は、閉まったドアのまま。
嶺亜(……やっぱり来た)
小さく思う。
北斗が来る可能性。
ゼロだとは思ってなかった。
でも——
あのタイミング。
嶺亜「……早いな」
少しだけ息を吐く。
でも焦りはない。
むしろ、
どこか納得してる。
嶺亜(あれ見て動かない方が無理か)
北斗くんの目。
あの一瞬で分かる。
ちゃんと好きなんだって。
嶺亜「……」
視線を落とす。
さっきまで触れてた感覚が残ってる。
〇〇ちゃんの体温。
少し震えてた感じ。
嶺亜(……泣かせた)
小さく思う。
後悔がゼロじゃない。
でも——
嶺亜「……必要だった」
自分に言い聞かせる。
伝えなきゃ何も始まらない。
あのままじゃ、
ずっと“いい人”で終わる。
嶺亜「……」
顔を上げる。
さっきの〇〇ちゃんの表情を思い出す。
涙。
混乱。
でも——
拒絶じゃなかった。
嶺亜(……ちゃんと揺れてる)
確信に近い感覚。
だからこそ、
ここで引く理由はない。
嶺亜「……北斗くん」
小さく名前を呟く。
さっきのやり取り。
「離せ」
あの声。
余裕なんてなかった。
嶺亜「……隠す気ないんだ」
少しだけ笑う。
でもその目は冷静。
嶺亜(いいよ)
心の中で静かに思う。
嶺亜(正面から来るなら、それでいい)
遠慮するつもりはない。
譲る気もない。
嶺亜「……」
ポケットからスマホを取り出す。
画面を見る。
〇〇ちゃんとのトーク。
さっきまで普通だったのに、
もう戻れない距離。
嶺亜「……」
少しだけ指が止まる。
今、追いかけるべきか。
それとも——
嶺亜「……いや」
首を振る。
嶺亜(今は行かない)
あの状態の〇〇ちゃんに、
さらに押すのは違う。
嶺亜「……ちゃんと考えさせる」
落ち着いて判断する。
感情じゃなくて、
ちゃんとタイミングを見る。
嶺亜(でも)
目が少しだけ鋭くなる。
嶺亜(終わらせる気もないけど)
はっきり決めてる。
さっきのハグも、
言葉も、
全部中途半端にはしない。
嶺亜「……」
最後にもう一度、
エレベーターを見る。
嶺亜(〇〇ちゃん)
心の中で呼ぶ。
嶺亜(逃がさないよ)
小さく笑う。
静かに。
でも確実に。
次に動くタイミングを、
もう考えてる。
ーーーーーーーーー
〇〇side
〇〇side
エレベーターの中。
ドアが閉まった瞬間、
一気に静かになる。
〇〇「……」
何も言えない。
北斗に手首を掴まれたまま。
強くないのに、
離れられない。
頭の中はまだロビーのまま。
嶺亜くんの言葉。
距離。
あのハグ。
近すぎた顔。
〇〇「……」
息がうまく整わない。
そして——
北斗の存在。
隣にいる。
さっき見られた。
全部。
〇〇(見られた……)
一気に現実が押し寄せる。
恥ずかしさとかじゃなくて、
どうしていいか分からない感じ。
〇〇「……」
ちらっと北斗を見る。
横顔。
何も言わない。
でも空気がいつもと違う。
少しだけ怖いくらい静か。
〇〇「……北斗」
小さく呼ぶ。
でもそれ以上続かない。
何を言えばいいのか分からない。
北斗は少しだけ視線を動かす。
でも言葉は返さない。
また前を見る。
〇〇「……」
また黙る。
頭の中でいろんなことがぶつかる。
嶺亜くんの「好き」。
廉のこと。
まだ終わってない気持ち。
そして今の状況。
北斗に引かれてここにいる自分。
〇〇(私、どうして……)
分からない。
全部中途半端。
何も決めてない。
なのに、
どんどん進んでる。
〇〇「……っ」
少しだけ胸が苦しくなる。
さっき止まったはずの涙が、
またじわっとくる。
〇〇は目を逸らす。
北斗に見られたくない。
〇〇「……」
でも、
その瞬間——
北斗の手が少しだけ動く。
手首じゃなくて、
手に変わる。
指が触れる。
〇〇「……え」
びっくりして見る。
北斗はこっちを見ないまま。
でも手だけ、
軽く握る。
〇〇「……」
何も言わない。
ただ、
離さない。
強くもないのに、
さっきより離れられない。
〇〇(……なんで)
分からない。
嶺亜くんのあとに、
北斗のこの距離。
余計に混乱する。
でも——
その手は、
少しだけ安心する。
〇〇「……」
何も言えないまま、
そのままエレベーターは上がる。
ドアが開く。
でも、
まだ動けない。
北斗の手に繋がれたまま、
その場に立ち尽くしてる。
ーーーー
北斗side
エレベーターの中。
ドアが閉まった瞬間から、
何も言ってない。
言えない。
〇〇の手首を掴んだまま、
そのまま立ってる。
北斗「……」
頭の中はさっきの光景。
嶺亜の腕の中にいる〇〇。
近すぎる距離。
でも——
それ以上に残ってるのは、
〇〇の顔。
涙。
固まってた表情。
北斗(……あんな顔)
見たことない。
北斗「……」
少しだけ力が抜ける。
怒りで行ったわけじゃない。
衝動だったけど、
見た瞬間、
それどころじゃなくなった。
北斗(……泣いてんのに)
あのまま放っておけるわけがない。
でも——
それと同時に、
あの距離。
あの空気。
北斗「……」
喉の奥が少し詰まる。
何も言えないまま、
時間だけ過ぎる。
その時、
〇〇の声。
〇〇「……北斗」
小さい。
でもちゃんと聞こえる。
北斗は一瞬だけ視線を動かす。
でも言葉は出ない。
何を言えばいいのか分からない。
北斗(……今、何言っても)
違う気がする。
下手に触れたら、
壊れそうな空気。
だから黙る。
そのまま前を見る。
でも——
隣の気配が気になる。
〇〇の呼吸。
少し乱れてる。
北斗「……」
ほんの少しだけ、
視線を落とす。
手首を掴んでる自分の手。
そのままだと強すぎる気がして、
ゆっくり力を緩める。
離すか——
一瞬迷う。
でも、
離せない。
北斗(……このまま離したら)
どこか行きそうで。
意味は分からないけど、
そう思う。
北斗「……」
指を少しずらす。
手首から、
手へ。
そっと。
触れるだけみたいに。
でもそのまま、
軽く握る。
〇〇「……え」
小さく反応が返る。
北斗は見ない。
見たら何か言いそうになる。
だから前を見るまま。
北斗(……これでいい)
言葉じゃなくていい。
今は。
ただ、
ここにいるって分かればいい。
北斗「……」
何も言わない。
でも手は離さない。
その温度だけが、
やけにリアルに残る。
さっき見た光景を、
無理やり押し流すみたいに。
エレベーターが上がっていく。
静かなまま。
北斗は一度も手を離さない。
チン。
静かな音。
エレベーターが止まる。
最上階。
ドアがゆっくり開く。
北斗「……」
それでも手は離さない。
〇〇の手を軽く握ったまま。
動かない。
一歩も。
北斗(……降りろよ)
頭ではそう思ってるのに、
体が動かない。
さっきまでの全部が、
まだ中に残ってる。
嶺亜の腕。
〇〇の涙。
あの距離。
北斗「……」
横を見る。
〇〇も動いてない。
視線は少し下。
まだ混乱してる顔。
北斗(……そりゃそうだろ)
あんなの、整理できるわけない。
北斗「……」
小さく息を吐く。
手の感覚がやけに意識に残る。
離すべきか、
そのままでいいのか。
一瞬迷う。
でも——
離さない。
北斗「……行くぞ」
やっと出た言葉。
低くて短い。
〇〇「……うん」
小さく返ってくる。
そのまま、
手を引く。
強くじゃない。
でも自然に。
エレベーターから出る。
廊下。
静か。
二人分の足音だけ。
北斗は前を向いたまま歩く。
手はそのまま。
繋いだまま。
〇〇も何も言わない。
ただついてくる。
北斗(……このままでいい)
言葉にしないまま思う。
今は、
話すタイミングじゃない。
でも——
離す気もない。
玄関の前に着く。
止まる。
それでも、
手はまだ繋がってる。
北斗「……」
鍵を出す。
一瞬だけ手を離すか迷う。
でも結局、
繋いだままもう片方の手で開ける。
ドアが開く。
北斗「入れ」
〇〇「……うん」
そのまま中へ。
静かな部屋。
さっきまでと同じはずなのに、
全然違う空気。
北斗はドアを閉める。
カチッと音が響く。
その瞬間——
やっと、
ほんの少しだけ手の力が緩む。
でも完全には離さない。
北斗「……」
言葉が出ない。
でも、
離すタイミングも分からない。
ただ、
繋いだまま立ってる。
さっきまでの全部を、
まだ抱えたまま。
ーーー
リビング。
22:00を少し過ぎた頃。
静かな空気の中、ソファに並んで座る。
〇〇「……ねえ」
北斗「……なに」
〇〇「寝るには早くない?」
北斗「……早いな」
〇〇「だよね」
少しだけ空気が緩む。
でも長くは続かない。
また静かになる。
〇〇はクッションを抱える。
視線は前のまま。
〇〇「……今日さ」
北斗「……」
〇〇「びっくりした」
北斗「……だろうな」
〇〇「うん」
少し間。
〇〇「……あの、さ」
言いかけて止まる。
北斗は何も言わない。
待ってる。
〇〇「……わかんない」
北斗「……」
〇〇「なんか、全部」
〇〇「嶺亜くんのことも」
〇〇「……廉のことも」
北斗の視線が少しだけ動く。
〇〇は気づかないまま続ける。
〇〇「ちゃんと終わってないし」
〇〇「なのに今、こうなってて」
〇〇「……なんか変な感じ」
北斗「……」
少しだけ息を吐く。
北斗「……変だな」
〇〇「……でしょ」
小さく笑う。
でも弱い。
〇〇「自分でも嫌になる」
北斗「……別に」
〇〇「……え」
北斗「お前がどう思ってるかなんて」
北斗「俺には分かんねぇし」
北斗「決めんのもお前だろ」
〇〇「……」
何も言えなくなる。
正論すぎて。
〇〇「……うん」
小さく頷く。
また少し沈黙。
〇〇はソファに体を沈める。
横になるまではいかないけど、
かなり寄りかかる。
〇〇「……つかれた」
北斗「……顔に出てる」
〇〇「出てる?」
北斗「出てる」
〇〇「やだ」
少しだけ笑う。
そのまま目を閉じる。
北斗は横目でそれを見る。
北斗「……寝るなよ」
〇〇「……ねない」
即答。でも声はもう少し緩い。
北斗「……怪しいな」
〇〇「だいじょぶ」
そう言いながら、
少しずつ体の力が抜けていく。
頭が傾く。
ソファの背もたれに寄ってたはずが、
少しずつ横にずれる。
北斗「……」
気づく。
でも何も言わない。
そのまま見てる。
〇〇の頭が、
ゆっくり近づいてくる。
そして——
こつ。
北斗の肩に当たる。
〇〇「……」
そのまま動かない。
完全に力が抜けてる。
北斗「……は?」
小さく呟く。
でもどかさない。
〇〇の呼吸は落ち着いてる。
寝かけてる。
北斗「……おい」
小さく呼ぶ。
反応なし。
〇〇「……ん」
少しだけ動くけど、
離れない。
むしろ少し寄る。
北斗「……」
ため息ひとつ。
でも——
そのまま。
動かない。
ソファに座ったまま、
肩に〇〇の重みを感じる。
北斗「……ほんと」
小さく呟く。
北斗「……無防備すぎだろ」
でもその声は少しだけ静かで、
強くはない。
〇〇はもう半分寝てる。
北斗の肩に寄りかかったまま。
静かな夜。
新しいソファの上で、
距離だけがまた少し近くなる。
〇〇「……ん」
小さく動く。
肩に預けていた重みが少し離れる。
〇〇「……あ」
ゆっくり目を開ける。
ぼんやりしたまま顔を上げると、
すぐ近くに北斗。
〇〇「……ごめん」
北斗「……寝てたな」
〇〇「ちょっとだけ」
少しだけ笑う。
まだ眠そう。
〇〇「……あ、そうだ」
ふと思い出したように顔が明るくなる。
〇〇「今日さ」
北斗「……なに」
〇〇「新しいベッド」
〇〇「寝るの楽しみなんだけど」
にこっと笑う。
さっきまでの空気が嘘みたいに、
普通のトーン。
北斗「……」
一瞬、止まる。
北斗「……そうかよ」
〇〇「だって広かったし」
〇〇「絶対気持ちいいでしょ」
北斗「……まぁな」
〇〇「ね」
〇〇はそのまま立ち上がる。
少しだけ伸びをする。
〇〇「なんかちゃんと寝れそう」
北斗「……いつも寝てるだろ」
〇〇「それとこれとは違うの」
軽く言い返す。
〇〇「ほら行こ」
当たり前みたいに言う。
北斗「……」
一瞬だけ見る。
その顔。
さっきまで泣いてたのに、
もう普通に戻ってる。
北斗(……切り替え早すぎだろ)
小さく思う。
でもそれを口には出さない。
北斗「……はいはい」
立ち上がる。
〇〇はもう先に寝室の方へ歩いていく。
足取りは軽い。
さっきまでの迷いが嘘みたいに。
北斗はその後ろを少し遅れて歩く。
北斗「……」
完全には整理できてない。
でも——
その背中を見ながら、
少しだけ息を吐く。
北斗(……ほんと読めねぇ)
でも目は逸らさない。
そのまま、
新しいベッドがある部屋へ向かう。
ーー
寝室。
新しいクイーンベッド。
シーツもまだ綺麗で、少しだけ新しい匂いがする。
〇〇「やば」
小さく笑いながら、そのままベッドに近づく。
〇〇「先いい?」
北斗「……どうぞ」
〇〇は迷いなく、
ぽすっとベッドに潜り込む。
〇〇「……っ」
一瞬止まる。
そのままごろんと寝転がる。
〇〇「なにこれ」
〇〇「めっちゃいいんだけど」
声が少し弾む。
シーツに顔を少し埋める。
〇〇「ふかふか」
北斗「……子どもかよ」
〇〇「だってほんとにいい」
〇〇はそのまま横に転がる。
端から真ん中へ。
〇〇「広っ」
笑う。
〇〇「これ絶対快適じゃん」
北斗はドアのところでそれを見る。
北斗「……まぁな」
〇〇「ねえ北斗」
北斗「……なに」
〇〇「早く来なよ」
当たり前みたいに言う。
〇〇はもう半分布団にくるまってる。
〇〇「一人だと広すぎる」
北斗「……」
一瞬止まる。
北斗「……知らねぇよ」
〇〇「なにそれ」
少し笑う。
〇〇「ほら」
軽く手でぽんぽんってベッド叩く。
〇〇「ここ」
何も考えてない顔。
完全にいつも通り。
北斗「……」
少しだけ目を逸らす。
北斗(……ほんとに無自覚かよ)
小さく息を吐く。
でもそのまま部屋に入る。
ベッドの横まで来る。
〇〇はもうリラックスしてる。
布団に包まって、
少しだけ北斗の方を見る。
〇〇「楽しみって言ったでしょ」
北斗「……言ってたな」
〇〇「ね」
満足そう。
北斗はそのまま、
少し間を置いてから、
ゆっくり反対側に座る。
まだ横にはならない。
〇〇「……」
じーっと見る。
〇〇「なに?」
北斗「……いや」
北斗「お前元気だなって」
〇〇「そう?」
〇〇「寝るの楽しみだから」
普通に言う。
北斗「……」
言葉に詰まる。
でもそのまま、
ゆっくりベッドに入る。
距離は少し空けて。
〇〇はそれを見て、
満足そうに目を閉じる。
〇〇「おやすみ」
早い。
北斗「……早すぎだろ」
小さく言う。
でも——
そのまま部屋の電気を消す。
暗くなる。
静か。
新しいベッドの上。
少し距離を空けて、
同じ空間で横になる二人。
でも——
〇〇はすぐに寝息が少しだけ落ち着いていく。
北斗はまだ起きてる。
北斗「……」
天井を見たまま。
今日のことを、
全部まだ処理しきれてないまま。
暗い寝室。
隣で静かに呼吸してると思ってたのに、
少しして、
〇〇「……ねえ」
小さな声。
北斗「……寝てねぇのかよ」
〇〇「寝ない」
少しだけ笑った声。
北斗「……はぁ」
〇〇「ねえさ」
北斗「……なに」
〇〇「初めて一緒に寝たの覚えてる?」
北斗「……」
一瞬、止まる。
北斗「……は?」
〇〇「だから」
〇〇「一緒に寝たの」
北斗「……」
思い出す。
〇〇「たぶんさ」
〇〇「SixTONESとtimeleszでキャンプ行ったとき」
〇〇「テント」
北斗「……」
完全に記憶が出てくる。
夜。
テント。
狭い空間。
北斗「……あれか」
〇〇「そうそれ」
少し楽しそうな声。
〇〇「なんかさ、気づいたら隣だったよね」
北斗「……人数多かったからな」
〇〇「でもさ」
〇〇「私、普通に寝てたよね」
北斗「……」
小さく息を吐く。
北斗「……お前な」
北斗「普通じゃなかったぞ」
〇〇「え、うそ」
少し体を動かす気配。
〇〇「なにしたの」
北斗「……」
思い出す。
あの距離。
くっついてきた感じ。
北斗「……」
言うか迷う。
でも、
北斗「……めっちゃ寄ってきてた」
〇〇「え」
〇〇「まじ?」
北斗「マジ」
〇〇「え、やば」
少し笑う。
〇〇「ごめん」
北斗「……今もな」
ぽつっと言う。
〇〇「……え」
少し間。
〇〇「……あ」
気づく。
今の距離。
さっきから、
無意識に少し寄ってる。
〇〇「……ほんとだ」
小さく笑う。
でも離れない。
北斗「……」
何も言わない。
〇〇「なんかさ」
少しだけトーンが落ちる。
〇〇「その時も思ったけど」
北斗「……」
〇〇「北斗といると普通に寝れる」
北斗「……」
少しだけ視線が動く。
暗い中で、〇〇の方を見る。
〇〇「安心するっていうか」
〇〇「……変な感じ」
素直な声。
北斗「……」
言葉が出ない。
〇〇はそのまま少しだけ近づく。
さっきより少しだけ距離が縮まる。
〇〇「今日もさ」
〇〇「色々あったのに」
〇〇「なんか落ち着いてる」
北斗「……」
胸の奥が少しだけざわつく。
でも——
悪い感じじゃない。
〇〇「……ね」
北斗「……なに」
〇〇「明日もさ」
〇〇「普通にいれる?」
小さな声。
少しだけ不安が混ざる。
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「……知らねぇよ」
ぶっきらぼう。
でも、
北斗「でもまぁ」
少しだけトーンが落ちる。
北斗「今と同じだろ」
〇〇「……」
少しだけ安心したように息を吐く。
〇〇「そっか」
そのまま、
また少しだけ近づく。
ほとんど無意識。
北斗の腕に少し触れる距離。
〇〇「……おやすみ」
今度は本当に、
ゆっくり目を閉じる。
北斗「……」
何も言わない。
でも——
離れない。
その距離のまま、
静かな夜が続いていく。
ーーーーーー
北斗side
暗いままの天井。
目は閉じてない。
でも、何も見てない。
北斗「……」
すぐ隣。
〇〇の気配。
さっきより近い距離。
腕に触れてる体温。
それだけで——
ドクン。
心臓が強く鳴る。
北斗(……うるせぇ)
自分で分かるくらい、
音が大きい。
落ち着こうとしても、
全然落ち着かない。
〇〇はもう寝てる。
呼吸がゆっくり。
さっきまで話してたのが嘘みたいに静か。
北斗「……」
横目で少しだけ見る。
暗くてはっきりは見えないけど、
近い。
近すぎる。
北斗(……距離バグってんだろ)
小さく思う。
でも——
離れない。
離せない。
さっきの言葉が残ってる。
「安心する」
「普通に寝れる」
北斗「……」
胸の奥がまたざわつく。
ドクン。
また強く鳴る。
北斗(……こっちは全然普通じゃねぇよ)
苦笑いすら出ない。
手を少し動かす。
触れてるか触れてないかの距離。
でもそれだけで、
余計に意識する。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
でも静かに。
起こさないように。
〇〇は全く気づいてない。
無防備なまま。
北斗(……ほんと)
頭の中で言葉が浮かぶ。
北斗(……ずるい)
あんなことがあったあとで、
こんな距離で、
何も知らない顔で寝る。
北斗「……」
天井に視線を戻す。
目を閉じる。
でも——
すぐ開く。
無理。
全然寝れない。
心臓の音がうるさすぎて。
ドクン、ドクンって、
一定じゃないリズムで響く。
北斗(……落ち着けって)
何回も思う。
でも無理。
隣に〇〇がいるだけで、
全部狂う。
北斗「……」
少しだけ体をずらそうとする。
でも——
やめる。
離れる方向には動けない。
結局、
そのまま。
近い距離のまま。
北斗(……これで寝れるわけねぇだろ)
小さく思いながら、
それでも動かずにいる。
心臓の音だけが、
やけに大きく夜に響いてる気がする中で。
暗い寝室。
〇〇の呼吸はすっかり落ち着いてる。
完全に寝てる。
北斗「……」
まだ目は閉じられないまま。
その時——
〇〇「……ん」
小さく動く。
北斗「……」
一瞬で意識がそっちに向く。
寝返り。
シーツが少し擦れる音。
そして——
ゆっくり、
こっちに寄ってくる。
北斗「……おい」
小さく呟くけど、
もちろん届かない。
〇〇はそのまま、
無意識で体を寄せる。
距離が縮まる。
さっきよりさらに近い。
北斗「……っ」
一瞬止まる。
〇〇の腕が少しだけ動く。
そして——
北斗の腕に触れる。
そのまま、
抱き込むみたいに軽く掴む。
〇〇「……」
安心したみたいに、
また呼吸が整う。
北斗「……は?」
状況を理解するのに一瞬かかる。
完全に捕まってる。
しかも、
さっきより距離がない。
北斗(……またかよ)
昨日と同じ流れ。
でも——
ベッドが広い分、
逃げられるはずだった。
なのに、
ちゃんと寄ってくる。
北斗「……」
息を抑える。
近い。
顔も、
体も。
〇〇は完全に無防備。
北斗の腕を枕みたいにしてる。
北斗(……だからなんでこうなる)
心の中でツッコむ。
でも、
振りほどかない。
振りほどけない。
〇〇「……あったかい」
小さな寝言。
北斗「……」
一瞬、固まる。
北斗(……ほんとやめろって)
余計に意識する。
心臓がまた強く鳴る。
ドクン。
さっきよりもはっきり。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
でもそのまま、
動かない。
動けない。
〇〇はそのまま、
さらに少しだけ寄る。
完全に密着まではいかないけど、
ほぼ近い状態。
北斗「……」
視線を天井に戻す。
でも何も考えられない。
全部、隣に引っ張られる。
北斗(……これで寝ろって方が無理だろ)
でも——
それでも離れない。
〇〇の手が、
しっかり腕を掴んでる。
安心してるみたいに。
北斗「……」
小さく目を閉じる。
諦めたみたいに。
心臓の音はうるさいまま。
でも、
そのまま。
〇〇の隣で、
逃げ場のない距離のまま、
夜が続いていく。
ーーーーーーーーー
☀️朝。
カーテンの隙間から光が入る。
静かな部屋。
〇〇はぐっすり寝たまま。
北斗の腕を抱えた状態。
〇〇「……」
少しだけ動く。
でもまだ起きない。
北斗は——
うっすら目を開ける。
北斗「……」
一瞬、状況が分からない。
でもすぐに思い出す。
視線を横に動かす。
近い。
〇〇の顔。
距離、ほぼない。
しかも——
腕、完全にホールドされてる。
北斗「……」
ため息が出そうになるのを止める。
北斗(……マジでか)
昨日と同じ。
いや、
ベッド広いのにこれ。
北斗「……」
動こうとする。
少しだけ腕を引く。
その瞬間——
〇〇「……やだ」
ぎゅっ。
さらに強く抱き込まれる。
北斗「っ……」
完全に固定。
逃げ場ゼロ。
〇〇は目を閉じたまま、
少しだけ顔を寄せる。
北斗の腕に頬を当てる形。
〇〇「……いかないで……」
寝言。
北斗「……」
言葉を失う。
北斗(……朝からそれやめろって)
心の中でツッコむ。
でも——
振りほどけない。
振りほどく気もない。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
天井を見る。
もう諦めた顔。
〇〇はそのまま安心したみたいに、
また深く眠る。
北斗の腕を枕にして。
北斗「……」
視線を少しだけ落とす。
寝顔。
無防備。
昨日のことなんて、
全部忘れてるみたいな顔。
北斗(……ほんと)
小さく思う。
北斗(……振り回すなよ)
でも声には出さない。
そのまま、
動けない状態で、
朝の光の中にいる。
少しずつ、
部屋が明るくなっていく中で。
ーーーー
〇〇side
朝、8:00。
カーテンの隙間からしっかり光が入ってくる。
〇〇「……ん」
ゆっくり目を開ける。
まだぼんやり。
体が少し重い。
〇〇「……」
視界に入るのは、
近い距離の北斗。
〇〇「……あ」
一瞬で思い出す。
そのまま固まる。
自分の腕。
北斗の腕、しっかり抱えてる。
〇〇「……」
ゆっくり視線を上げる。
北斗はもう起きてる。
でも横になったまま、
片手でスマホいじってる。
北斗「……起きたのか」
視線はスマホのまま。
〇〇「……うん」
声が少し小さい。
〇〇「……ごめん」
反射的に出る。
北斗「……なにが」
〇〇「……これ」
自分の腕を見る。
北斗の腕、まだ抱えてる。
北斗「……別に」
さらっと言う。
〇〇「……」
でもすぐには離せない。
なんか変な空気。
〇〇「……」
少しだけ力を抜く。
ゆっくり手を離す。
〇〇「ごめん」
もう一回。
北斗「……だからいいって」
北斗はスマホをスクロールしながら言う。
でも——
少しだけ指が止まる。
〇〇はそのまま仰向けになる。
天井を見る。
〇〇「……ねむ」
北斗「……寝てただろ」
〇〇「それとこれ違う」
北斗「……は?」
〇〇「なんか眠い」
小さく笑う。
少しだけいつも通り。
北斗「……意味わかんねぇ」
でもその声も少しだけ緩い。
少し沈黙。
〇〇は横目で北斗を見る。
〇〇「今日さ」
北斗「……なに」
〇〇「オフだよね」
北斗「……ああ」
〇〇「なんか久しぶり」
北斗「……だな」
本当は、
急に空いた時間。
〇〇のスケジュール変更。
ストーカーの件で、
無理に仕事を詰めても意味ないって判断。
結果、
北斗も巻き込まれてオフ。
〇〇「……」
少しだけ顔が曇る。
でもすぐ戻す。
〇〇「なにする?」
北斗「……知らねぇよ」
〇〇「ひど」
少し笑う。
〇〇「でもさ」
〇〇「外はまだあんま出ない方がいいよね」
北斗「……まぁな」
短く答える。
空気が少しだけ現実に戻る。
〇〇「……家かぁ」
北斗「不満かよ」
〇〇「いや」
〇〇「なんか安心ではある」
ぽつっと言う。
北斗の手が一瞬止まる。
でもすぐ動かす。
北斗「……そりゃどうも」
〇〇「なにそれ」
少し笑う。
〇〇はそのまま、
また少しだけ北斗の方を見る。
〇〇「……ねえ」
北斗「……なに」
〇〇「今日、一緒にいよ」
自然に言う。
当たり前みたいに。
北斗「……」
一瞬だけ間。
でも、
北斗「……最初からそのつもりだろ」
〇〇「……まぁね」
少し笑う。
そのまま、
同じベッドの上で、
少しだけゆっくりした朝が流れる。
天井を見たまま、
ぼんやりしてたはずなのに——
ふと、昨日のことが浮かぶ。
嶺亜くん。
ロビー。
「ちゃんと好きだよ」
〇〇「……」
胸の奥が少しざわつく。
そのまま、
別の記憶も繋がる。
廉。
別れてから、
もうすぐ一年半。
〇〇「……はや」
小さく呟く。
本当にあっという間だった。
でも、
終わってなかった。
この前、久しぶりに会った日。
ちゃんと話した。
お互いの気持ち。
あの時、
ちゃんと“まだ好き”って分かった。
完全に切れてなかった。
〇〇「……」
目を閉じる。
あの時の空気。
声。
表情。
全部、ちゃんと覚えてる。
そして——
約束。
“次会える日に、ちゃんと話そう”
〇〇「……」
そこまで来てるのに、
今。
嶺亜くんに、
ああやって言われて。
しかも、
揺れた。
完全に否定できなかった。
〇〇(私……)
ぐちゃぐちゃになる。
廉への気持ち。
続いてる。
ちゃんとある。
でも、
嶺亜くんを見て、
分からなくなった。
〇〇「……」
横にいる北斗の気配。
さっきまで普通に話してた。
安心する場所。
でも——
ここにも答えはない。
〇〇(なんでこんなタイミングで)
全部重なる。
終わってないもの。
始まったもの。
そして今。
〇〇「……はぁ」
小さく息を吐く。
北斗が少しだけ視線を向ける。
北斗「……どうした」
〇〇「……なんでもない」
すぐ逸らす。
でも、
隠しきれてない。
〇〇「……ちょっと考えてた」
北斗「……なにを」
〇〇「……昨日のこと」
北斗「……」
一瞬だけ空気が止まる。
〇〇「……嶺亜くんのこともだけど」
少しだけ間。
〇〇「……廉のことも」
北斗の手が止まる。
スマホの画面がそのまま。
北斗「……」
何も言わない。
〇〇「……この前会ったんだよね」
ぽつっと出る。
〇〇「ちゃんと話して」
〇〇「……まだ、好きだなって思った」
正直に言う。
北斗の表情は変わらない。
でも——
少しだけ視線が落ちる。
〇〇「……で、次会う約束もしてる」
〇〇「ちゃんと決めようって」
〇〇「……なのに」
言葉が止まる。
〇〇「昨日あんなことあって」
〇〇「……自分でも分かんなくなった」
小さく笑う。
でも全然軽くない。
〇〇「最低だよね」
北斗「……」
少し間。
北斗「……別に」
低く返す。
〇〇「……え」
北斗「感情なんてそんなもんだろ」
北斗「綺麗に整理できる方が珍しい」
〇〇「……」
少しだけ驚く。
北斗は相変わらず淡々としてる。
北斗「……ただ」
少しだけ間。
北斗「どっちも中途半端にすんなよ」
〇〇「……」
言葉が刺さる。
〇〇「……うん」
小さく頷く。
〇〇「分かってる」
でも——
分かってるだけで、
答えは出てない。
〇〇「……」
天井を見る。
頭の中はまだぐちゃぐちゃ。
でも少しだけ、
現実として整理され始めてる。
自分が今、
ちゃんと選ばなきゃいけない位置にいるってことだけは。
ーーーーーーーーー
北斗side
同じベッドの上。
スマホを見てるふりをしながら、
ほとんど頭に入ってない。
隣の気配だけがやけに大きい。
「昨日のこと」
その一言で、
指が止まりそうになる。
でも動かす。
止めない。
平然を保つ。
「嶺亜くんのこともだけど」
ここまでは想定内。
でも——
「廉のことも」
北斗「……」
一瞬だけ呼吸が浅くなる。
やっぱり、そこ来るか。
分かってたはずなのに、
実際に聞くと違う。
「この前会ったんだよね」
「まだ、好きだなって思った」
北斗(……はぁ)
心の中で息を吐く。
逃げ場がない言葉。
真正面から来る。
「次会う約束もしてる」
その一言で、
完全に現実になる。
ただの過去じゃない。
“続いてるもの”
北斗「……」
スマホの画面を見たまま、
何も言わない。
でも頭の中は止まらない。
北斗(……そりゃそうだろ)
一年半。
簡単に消えるわけない。
分かってる。
分かってるけど——
昨日のあれを見たあとで、
この話はきつい。
胸の奥がじわっと重くなる。
「なのに」
その続きで、
少しだけ救われる。
“分かんなくなった”
北斗「……」
ほんの少しだけ視線を落とす。
完全に決まってるわけじゃない。
まだ揺れてる。
それだけが事実。
「最低だよね」
北斗(……どこがだよ)
思う。
でも口に出す言葉は別。
「別に」
いつも通りに返す。
崩さない。
崩したら終わる気がする。
感情の話をされて、
感情で返したら、
自分が負ける。
北斗(……いや、もう負けてるか)
小さく思う。
でもそれでも、
引く気はない。
「どっちも中途半端にすんなよ」
口に出た言葉は、
思ったより冷静。
でも本音。
どっちも選ばないまま、
流されるのだけは嫌だ。
北斗「……」
〇〇の「うん」を聞いて、
少しだけ息を吐く。
でも楽にはならない。
隣にいるのに、
距離がある。
昨日よりも、
さっきよりも。
北斗(……廉か)
頭に浮かぶ。
名前だけで分かる存在感。
時間。
積み重ね。
勝てる要素なんて、
ほとんどない。
北斗「……」
それでも——
昨日のロビーも思い出す。
嶺亜。
あいつも動いてる。
北斗(……ほんと最悪なタイミングだな)
小さく思う。
でも、
北斗(……だからって引く気ねぇけど)
結論は変わらない。
まだ何も言ってない。
告白もしてない。
でも——
ここで黙って見てるだけは、
もう無理だと分かってる。
北斗「……」
スマホを閉じる。
ゆっくり。
隣を見ることはしない。
でも意識は全部そこ。
北斗(……どうするかは)
小さく思う。
北斗(あいつ次第だろ)
自分じゃ決められない部分。
でも、
動くかどうかは別。
北斗は静かに目を閉じる。
少しだけ呼吸を整える。
表には出さないまま、
中だけが大きく揺れてる。
ベッドの上。
少しだけ空気が重くなったまま。
〇〇「……」
もぞもぞ動く。
考えすぎたせいか、
また目を閉じる。
〇〇「……もうちょい寝る」
小さく呟く。
北斗「……好きにしろ」
ぶっきらぼうに返す。
〇〇はそのまま布団に顔を少し埋める。
さっきまでの話を一旦閉じるみたいに。
その時——
北斗のスマホが震える。
北斗「……」
画面を見る。
樹から。
北斗「……」
少しだけ眉が動く。
メッセージを開く。
樹「今日全員オフなんだけどさ」
樹「昼からそっち行っていい?」
樹「暇すぎる」
北斗「……は?」
思わず小さく声が出る。
〇〇「……なに」
布団に埋もれたまま聞く。
北斗「……樹」
〇〇「……んー」
まだ半分寝てる声。
北斗「今日、SixTONES全員オフだと」
〇〇「……へえ」
反応薄い。
北斗「で、昼から来たいって」
〇〇「……」
少しだけ間。
〇〇「……全員?」
北斗「ああ」
〇〇「……」
布団の中で少し動く。
完全に起きてはないけど、
状況は理解してる。
〇〇「……どうするの」
北斗「……知らねぇよ」
〇〇「え」
少し顔を出す。
〇〇「北斗の家でしょ」
北斗「……まぁな」
〇〇「……」
少しだけ考える。
〇〇「……いいんじゃない?」
さらっと言う。
北斗「……マジで言ってる?」
〇〇「うん」
〇〇「なんか人いた方がさ」
〇〇「気紛れるし」
少しだけ笑う。
〇〇「家にずっと二人も変じゃない?」
北斗「……」
一瞬言葉に詰まる。
さっきまでの空気を思い出す。
北斗(……まぁ確かに)
北斗「……分かった」
短く返す。
スマホに目を落とす。
北斗「来ていいって送るぞ」
〇〇「うん」
〇〇はまた布団に戻る。
〇〇「……じゃあもうちょい寝る」
北斗「……ほんと自由だな」
〇〇「……だってオフだもん」
小さく笑う。
そのまま目を閉じる。
北斗はメッセージを打つ。
北斗「昼からならいい」
送信。
スマホを置く。
隣を見る。
〇〇はもうまた寝かけてる。
北斗「……」
小さく息を吐く。
静かな朝。
でも——
昼には一気に賑やかになるのが確定してる空気の中で。
布団に潜り直したはずなのに、
〇〇「……」
目、閉じてるだけで全然寝れてない。
さっきの「全員来る」が頭から離れない。
〇〇(全員ってことは……)
一瞬で浮かぶ顔。
〇〇(きょも……)
一気に目が開く。
〇〇「……やば」
小さく呟く。
さっきまでの重たい気持ち、
どこかに飛んでる。
〇〇(会えるじゃん)
心臓が別の意味でドクドクする。
嬉しい方。
〇〇「……」
布団の中で小さくもぞもぞする。
抑えようとしてるのに、
全然無理。
〇〇(無理無理無理)
会うの久しぶり。
しかもオフで。
普通に来る。
〇〇「……」
口元が緩む。
完全に隠しきれてない。
北斗が横でそれに気づく。
北斗「……おい」
〇〇「……なに」
声は普通装ってるけど、
全然隠せてない。
北斗「寝るんじゃねぇのかよ」
〇〇「……寝る」
即答。
でも体は動いてる。
北斗「……」
じっと見る。
〇〇「……」
耐えきれなくて、
少しだけ顔を出す。
〇〇「……あのさ」
北斗「……なに」
〇〇「きょも来るよね」
北斗「……来るだろ」
即答。
〇〇「……」
一瞬止まる。
そのあと——
〇〇「やば」
小さく笑う。
完全に嬉しい顔。
北斗「……は?」
〇〇「いや、普通に嬉しい」
〇〇「だって久しぶりだし」
〇〇「……推しだし」
ぽろっと出る。
北斗「……」
一瞬、無言。
北斗「……お前な」
少し低い声。
〇〇「なに」
〇〇「いいじゃん別に」
〇〇「好きなんだから」
開き直り。
北斗「……」
ため息ひとつ。
北斗(……マジで言ってんのか)
〇〇はそんなの気にしてない。
もう頭の中は別のことでいっぱい。
〇〇(何着よ)
〇〇(てか部屋大丈夫?)
〇〇(顔むくんでない?)
どんどん思考が飛ぶ。
〇〇「……ねえ」
北斗「……なに」
〇〇「ちょっとだけ早く起きる」
北斗「は?」
〇〇「準備する」
北斗「……誰のためだよ」
〇〇「え」
〇〇「きょも」
即答。
北斗「……」
完全に言葉を失う。
〇〇はもう布団を少しどけて、
起きる体勢。
〇〇「楽しみすぎて寝れない」
正直。
北斗「……」
無言で天井を見る。
北斗(……最悪だろ)
小さく思う。
でもその横で、
〇〇は完全にテンション上がってる。
さっきまでの悩みも全部抱えたままなのに、
それとは別で、
ちゃんとワクワクしてる。
〇〇「……やば、ほんと楽しみ」
一人で小さく笑う。
北斗は何も言わない。
ただ——
その様子を見て、
さらに複雑な顔になるだけ。
〇〇はそのまま勢いよく起き上がる。
〇〇「ちょっと顔洗ってくる」
北斗「……早すぎだろ」
〇〇「だってもう寝れないもん」
そのままベッドから降りる。
足取り軽い。
さっきまでの重たい空気は完全にどこかへ行ってる。
北斗「……」
その背中を無言で見る。
ドアが閉まる音。
一人になる寝室。
北斗「……はぁ」
小さくため息。
北斗(……推しってなんだよ)
さっきの言葉が引っかかる。
しかもあのテンション。
北斗(……分かりやす過ぎだろ)
ベッドにそのまま仰向けになる。
天井を見る。
北斗「……」
静かなのに、
頭の中はうるさい。
廉のこと。
嶺亜のこと。
そして——
きょも。
北斗「……」
小さく舌打ちしそうになるのを抑える。
北斗(……なんでよりによって今日来んだよ)
タイミングが悪すぎる。
北斗「……」
でも拒否する理由もない。
むしろ、
〇〇は楽しみにしてる。
あんな顔で。
北斗(……あの顔な)
思い出す。
完全に素。
無邪気。
ああいう顔されると、
何も言えなくなる。
北斗「……」
起き上がる。
スマホを見る。
特に用事はない。
でもじっとしてられない。
その時、
ドアが開く。
〇〇「ただいま」
顔洗って戻ってくる。
さっきより完全に目が覚めてる。
〇〇「ねえ」
北斗「……なに」
〇〇「リビング片付けよ」
北斗「……は?」
〇〇「だって人来るんだよ?」
北斗「……別にいいだろそのままで」
〇〇「やだ」
即答。
〇〇「ちゃんとしたい」
北斗「……」
じっと見る。
北斗「……誰のためだよ」
〇〇「だから」
少しだけ笑う。
〇〇「きょも」
またそれ。
北斗「……」
無言。
〇〇「なにその顔」
北斗「……別に」
〇〇「ふーん」
気にしてない。
〇〇はそのままクローゼットの方に向かう。
〇〇「あと着替える」
北斗「……」
完全にスイッチ入ってる。
北斗(……ほんと自由だな)
でも止めない。
止められない。
〇〇は服を選び始める。
鏡の前で軽く合わせたりしてる。
〇〇「これどう思う」
北斗「……知らねぇよ」
〇〇「適当すぎ」
北斗「……なんでもいいだろ」
〇〇「よくないの」
真剣。
北斗「……」
ため息。
でも、
少しだけ見る。
〇〇の後ろ姿。
楽しそうに選んでる。
北斗「……それでいいんじゃねぇの」
適当に言う。
〇〇「ほんと?」
少し嬉しそう。
北斗「……ああ」
〇〇「じゃあこれにする」
あっさり決定。
北斗「……」
また天井を見る。
北斗(……マジで来んのかよ)
昼が近づくにつれて、
賑やかになるのが分かってるのに、
この朝の温度差が妙に残る。
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コメント
2件
続きがバカ気になる!!!!