テラーノベル
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ハラハラと花びらが散っていく。全ての思い出と共にあの後ろ姿を忘れ去られる哀しさと、目の前に見えるこの美しい景色を見れた感動が混ざりあって暗く汚く濁っていく。
ある男性が桜の木の下にいる。その姿は何故かよく似合っているギャングスーツに見慣れたバケットハットを被っていた。スマホを取りだしその姿を収める。
パシャ
その音に気がついたのかこちらを振り向く男性は少し微笑み私を手で招き寄せた。
「なんですか」
「なんでって、俺のこと撮ったでしょ笑」
少し目を合わされ、からかわれる。しかしすぐ上へ向き桜を見ているようだった。相変わらず綺麗なその横顔に釘付けになる。貴方ならこの言葉、分かってくれるだろうか。
「桜、綺麗ですね」
「、、ケイン、桜の花言葉って知ってる?」
「まぁ。たしか、精神の美、、だったような」
「精神の美?それもいいよね笑」
「他はね、優美な女性、純潔だったっけな」
1枚、桜の花びらがゆっくりと男性の肩に降り立った。その男性は何かを思い返すように語り始めた。
「俺、優美な女性って花言葉が好きで。」
「なるほど。」
「街に来て数十日経った時」
「夕コと2人で街を散策してたんよ」
「ちょうど春が始まるぐらい」
私がまだ警察をしていた頃。その頃貴方はどんな気持ちだったのか、どんな景色を見ていたのか、そう考える度に自分の運命力に少し虚しくなる。
「2人でここに見に来たの。桜が咲いてるって聞いて」
「冬から春になる時春一番っていう風が吹くんだけど」
「夕コが木の下に行った途端に吹いて」
その時の記憶を思い返すように微笑む彼の姿は綺麗で、美しくて、どうしても哀しかった。私達に隠して自分は無力だと心の奥底に秘めているように見えて。
「、、、、なんて、心に決めてたのにな。」
「なんで帰ろうと思ったんですか」
独り言をつぶやく彼に私はまた問いかける。前に話してもらった理由は本当かと、嘘なんじゃないかと、自分に自己暗示をかけるように貴方に問う。
「なんでか?」
「、、追う方が好きだったからよ笑」
「そうですか。」
「、、、」
前と同じ理由。大型にも来ず、ただ死ねない海月のようにふわふわといつの間にかどこかへ行ってしまいそうな貴方は、本当は隠しているんじゃないかなんて、自分にとって都合のいい解釈をして。それで困るのは貴方なのに。
「ケインは何がしたい?」
深いため息をついた時、逆に質問されてしまった。その言葉はいつまでも私に向けてくれていて、私をずっと見てくれていた。「何がしたいか」「後悔はないか」「今楽しいか」なんて、貴方がいなくなってしまうとその時に知っていれば全て否定していたのに。
「したいこと、ですか」
「ん?」
「まぁ、皆さんがここからいなくなるまで見守り続けることですかね」
「、、そっか。」
少し寂しそうに笑う彼を見つめて数秒。
「帰るか笑」
「はい帰りましょう。」
「私達の帰るべき場所へ」
桜が咲き誇る地から足を運ぶ。去り際、彼は言った。
「また、また来るよ夕コ。」
小さく呟く彼の言葉は哀しいことに私に届いた。そう、貴方がいつも思っているのは私じゃない。
「そうですよね。」
海に向かって呟く。貴方が来た海。貴方が帰った海。フラッと来てしまうこの気持ちはどうしてくれるのだろう。ある時は歩きで、ある時は車で、ある時はヘリで。
海を、波を見る度に思うことがある。
「貴方の、特別になりたかった。」
貴方を見るのは、貴方が見るのは、私が良かった。けれどそう上手くはいかずやはり貴方は私の手から綺麗に抜け出してしまう。
「どうすれば、見てもらえましたか。」
「やはり突発的な行動?世話を焼く存在?」
「感情に任せて動いたり、中々起きなかったり」
「、、、私にはどれもない。」
貴方は隣町で今何をしているのでしょう。流れる波に少し手で触れる。不思議と冷たいとは感じなかった。無で苦しくて、辛くて、寂しい。
「明日、いやずっと。お手紙待っています。」
少しでも私だけを、いや私達を思い出してくれていたらそれでいい。
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